日経ビジネス電子版 Special

大企業を飛び出してスタートアップの世界へ 意志決定の頻度が自身の価値を磨く

コロナ禍を経てますます不確実性が高まるなか、「これからは大企業に居続けることがリスクになる」と警鐘を鳴らす、経営学者の入山章栄氏。その真意はどこにあるのだろうか。大企業とスタートアップのどちらも見守り続けてきた氏だからこそ断言できる、“今すぐスタートアップに転職すべき理由”をうかがった。

chapter 01

リモートワークの普及で高まる人材の流動性 2021年は、大転職時代となる?

——コロナ禍で生じたパラダイムシフトについて、入山先生はどうご覧になっていますか。

企業と個人で分けて考える必要がありますが、まず企業については、コロナ以前も以降も目指すべき方向性は変わっていません。不確実性の高い時代を生き残るには、イノベーションを起こすしかない。これに尽きるわけですが、コロナ禍でようやくその意識が高まってきた。したがって今起きているのは、パラダイムシフトや方向転換ではなく、「加速」です。

一方、個人の働き方には大きな変化が生じています。リモートワークが普及したことで、人的ネットワークを広げる人が増えているんです。人脈がつながると何が起きるか。副業や転職機会の増大です。通勤がなくなったことで可処分時間が増え、会社へのエンゲージメントが下がるなか、副業や転職先を探す人は急増中。僕は、2021年には間違いなく大転職時代が訪れると考えています。人材の流動性が高まれば、イノベーションも生まれやすくなる。その意味で、今回のマッチングイベントは非常に意義のあるものといえるでしょう。

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール教授
入山 章栄(いりやま・あきえ)

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール教授
入山 章栄(いりやま・あきえ)

1972年東京都生まれ。96年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2003年に退社、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。08年同大学院より博士号(Ph.D.)を取得、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。13年に早稲田大学ビジネススクール准教授、19年4月より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

——イノベーションの加速に向け、DX化を進める企業も増えています。

リモートワークの導入など、コロナを機にDXを意識する企業は増えたものの、まだまだ遅れているのが日本の現状です。ただ、その中でもDXをうまく採り入れている会社はある。簡単にいえば、“いい会社”ほどDXが進んでいます。それはDXが、会社をよりよくしようとする過程でとらざるを得ない「手段」だからです。トップにビジョンがあり、それに向かって変化していこうとすれば、DXは必須の課題。ゆえに、はっきりした目的のないままDXを導入しても、改革は一向に進まないでしょう。

——企業がDXを進めるべき理由はどこにあるとお考えですか。

第一は、イノベーションに必要な「両利きの経営」の実現にあります。両利きの経営とは、新しい知を追求する「知の探索」と、既存の知を深掘りする「知の深化」をバランス良く実践する経営を指します。しかし、多くの企業は目の前にある「知の深化」に偏りすぎて、「知の探索」が疎かになってしまっているんですね。そこで、日々継続的に繰り返す「深化」の作業はAIやRPAにまかせて、より多くの人間のリソースを「探索」に回す、というのがDXを導入する最大の理由となります。それが結果的には業務改善につながり、働く楽しさやイノベーションの創出を促すというわけです。

chapter 02

スタートアップの現場は意志決定の連続 人材成長の場としても期待されている

——「知の探索」の方法として、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も注目されています。

既存の事業会社が新興のスタートアップ企業に投資し、ときにコラボしながらオープン・イノベーションを図ることは、まさに「知の探索」です。知らない人たちと一緒に未知の領域でビジネスを進めていくのですから、そこから得られる新たな知は計り知れません。また大企業にとっては、スタートアップの持つ技術やビジネスモデルはもとより、そのスピード感に学ぶことも多い。つまり、経営改善のきっかけにもなります。

人材育成の観点からも、CVCは有効です。大企業の人材がスタートアップに出向すると、働き方が根本から変わります。なぜなら、スタートアップの現場は、意志決定の連続だからです。自分で決めなくても仕事が回る大企業と違い、スタートアップでは一日に3回は切羽詰まった状況での決断を求められる。1年なら1000回です。今企業の人事担当は経営者人材がいないと嘆いていますが、意志決定力のある人材を育てたいのであればスタートアップで修行させればいい。ますます不確実性の高まるこれからの時代、「決める力」は大きな武器となるはずです。

——今後マーケットに求められるのは、どのようなスタートアップでしょう?

それはわかりません。スタートアップは、だれも考えつかないことをやるから成功するのであって、学者に予測できるわけがないんです。言い換えれば、わからないことをやるのがスタートアップであり、イノベーションなのです。だから、スタートアップを起こすうえで重要になってくるのが、「共感」です。ロジックでは説明できないけれど、なんだかおもしろそう、これいいね、という共感性。そうして経営者の情熱やビジョンに感銘し、共感を持った人たちが動くことで、イノベーションが生まれるのです。

chapter 03

大企業にいることがリスクとなる時代 スタートアップで、外の世界を学ぶ

——新型コロナ感染拡大に伴う、スタートアップ市場の変化についてお聞かせください。

これは明暗がはっきりわかれましたね。スタートアップは、基本的に単独事業ですから、運が良ければ大当たりするし、悪ければつぶれるところもある。今の状況下でいうと、インバウンド系はかなり苦しい一方、DXや業務改善に必要なBtoB向けSaaS(Software as a Service)を提供するスタートアップ企業はものすごい勢いで伸びています。そうした流れから、成長著しいスタートアップに目を向ける転職志望者たちは増えていますね。

——スタートアップに向いているのはどんなタイプでしょうか。

向き不向きを議論する以前に、みんな大企業なんか辞めて、スタートアップに行った方がいいと僕は思っています。優秀な若者はもう気づいていますが、大企業がトップで、スタートアップは格下、という時代はとっくに終わりを告げています。いまや人材の質も給与水準もスタートアップの方が上。時代の変化に対応できない大企業に居続けることこそが、大きなリスクとなるのです。

——大企業に居続けることで生じるリスクとは?

新卒一括採用と年功序列・終身雇用でやってきた従来の大企業では、個々のジョブが明確でなく、よって自分の市場価値も不明なままです。そんな状態で、もし会社がつぶれたり、外に放り出されたりしたら、どうなるでしょう。会社以外の世界を知らなければ、どこで自分を生かせるのかわからないし、そもそも自身の価値が定まっていないので売り込みようがありません。そうなる前に、いろんな会社を経験して自分の市場価値や外の世界を知っておくことが大切です。

——最後に、11月21日のオンラインマッチングイベントに向けたメッセージをいただけますか。

大企業とスタートアップの最大の違いは、意志決定の頻度です。先が見えないなかで、とにかく決める、というのがスタートアップの世界。あらゆる場面で決断力が求められるので、ものごとの優先順位をすばやく判断し、的確に行動する習性が身に付きます。それはスタートアップで働くことの醍醐味であり、自身の成長にも役立つはずです。ですから、意欲のある人は、ぜひ大企業を飛び出して、スタートアップで挑戦してほしい。もし大企業で働き続けたいのであれば、一度スタートアップを経験して、自分の市場価値を高めてから戻ることを強くおすすめします。

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