ニューヨーク出身のロバート キャンベル氏。今は遠く離れた日本で、日本文学研究者として、国文学研究資料館長として活躍しているが、ここまでの道のりは平坦なものではなかった。いかにしてキャンベル氏は日本語を学び、どう使いこなしているのか。新たな英語習得メソッドを提案する「GSET」のスタジオで、同社社長の是枝秀治氏がキャンベル氏に話を聞いた。
日本の美術や文化に惹かれ、日本語の勉強を始めたのは大学1年から2年に上がる夏休みのことだった。出身校であるカルフォルニア大学バークレー校での夏期講習を皮切りに、日本語漬けの日々が始まる。
「1年目の初級がバークレーでの夏期講習、2年目の中級が1年間の履修、3年目の上級ではバーモント州にあるリベラルアーツのカレッジの夏期講習で徹底的に学びました。ここに入っている間は一切英語を使わないという誓約書まで書いたほどです。日本語を学ぶのに、あれだけインテンシブな環境はないと思います。」
機材室に籠り、機械から流れてくる日本語という日本語をまるでロボットのように繰り返し体に叩き込む毎日。「日本語に身を委ねるしかなかった」と、キャンベル氏は当時を振り返る。バークレーで3年間学んだのち、1年休学して語学留学のために来日。すでに当時のキャンベル氏は高いレベルの日本語をマスターしていたが、さらに磨きをかけるために続けていたトレーニングがあった。
「3年間集中的に日本語を勉強した経験から、私には強い実感がありました。言語習得というのは、基本的に“フィジカルなもの”だということ。筋力トレーニングや楽器の習得のように、できない部分を繰り返し体に覚えこませる行為です。日本に来てから、学校で自分の言葉をよくレコーダーに吹き込んで、ネイティブの皆さんの日本語とどこがどう違うのか、日本人の友達にフィードバックをもらいながら、徹底的に修正していくということを続けました。まるでブートキャンプのように」
ネイティブの日本語と自分の日本語を毎日聞き比べ、その「差」を埋めていく作業の中で、日本語独自の発音、ストレスやリズム、ピッチアクセントの存在に気が付いたという。今も、日本語によるコミュニケーションに磨きをかけ続けているキャンベル氏。その作業を“精米作業”と呼ぶ。大好きな日本語の世界に飛び込むには、ずれた発音やリズム、アクセントなどの「不純物」を取り除いて、真っ白に“精米された”日本語を扱いたいと願ってのことだ。
そのキャンベル氏にとって、日本の英語教育や日本人の英語へのアプローチはどのように映っているのだろうか。
「かつて、日本のビジネスマンと外国のビジネスマンが集まる食事会に参加したことがあります。日本人の多くが言葉を話せない・聞けないため、ごく簡単なあいさつを済ますとひたすら黙っていました。グローバルルールでは初対面だろうと何だろうと、その場に居合わせた人とは必ず会話をするのがマナーです。話せないから黙っていようなんて許されない! でも残念ながら今もよく目にする光景かもしれないですね。」
日本の公教育は素晴らしいと思う反面、英語教育に目を向ければビジネス・社交といったシーンでしっかりとインタラクションできるようにする訓練は、まだまだ足りないと感じている。自身が日本語を習得したような、集中的なプログラムを日本でも導入すべきとの主張を、幾度となく続けてきた。