新しいくすりが創る、これからの暮らし__Vol.1次世代医療はどうなる?一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦 蟹瀬 誠一 氏
ジャーナリスト/キャスター
明治大学 国際日本学部 教授/
外交政策センター 理事
山本 雅之 氏
東北大学
東北メディカル・メガバンク機構 機構長
東北大学大学院医学系研究科 教授
蟹瀬 誠一 氏
ジャーナリスト/キャスター
明治大学 国際日本学部 教授/
外交政策センター 理事
新しいくすりが創る、これからの暮らし__Vol.1次世代医療はどうなる?一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦 蟹瀬 誠一 氏
ジャーナリスト/キャスター
明治大学 国際日本学部 教授/
外交政策センター 理事
山本 雅之 氏
東北大学
東北メディカル・メガバンク機構 機構長
東北大学大学院医学系研究科 教授
蟹瀬 誠一 氏
ジャーナリスト/キャスター
明治大学 国際日本学部 教授/
外交政策センター 理事

Vol.1  次世代医療はどうなる? 一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦
Vol.2  次世代医療はこう変わる! 一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦
Vol.1  次世代医療はどうなる? 一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦
Vol.2  次世代医療はこう変わる! 一人ひとりに適した「個別化予防・医療」への挑戦

超高齢社会を迎えた日本では、高齢者が寝たきりにならず、健康的な生活を維持できるような医療の発展が望まれている。一方、国民医療費が増加する中で、高齢者を支える現役世代が減少しており、健康保険制度のあり方についても議論されている。そうした日本の医療を考える上で、鍵を握ると目されている組織が東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)である。同機構は研究のみならず、蓄積された日本人のデータの提供を行っており、製薬業界との連携も図っている。次世代医療はどうなるのか──。同機構長の山本雅之氏とジャーナリストの蟹瀬誠一氏に話し合っていただいた。

誰もが共に支え合い、「命」を皆で守る社会へ

蟹瀬 私は国際ジャーナリストとして世界の様々な地域を取材で訪れる中で、何度か“死”と背中合わせになる経験をしました。例えばカンボジアではデング熱に感染して重症になりましたし、ロシアでは銃撃戦の真っただ中に置かれてしまったこともありました。このような取材を続けているうちにいつしか年齢を重ねて高齢者の仲間入りをすると、さらに“死”というものを強く意識するようになり、同時に“生きる”という「命」についても思いを馳せるようになりました。山本先生は長く医学・医療に携わってこられました。また、2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波被害によって、ほぼ壊滅状態となった東北の医療提供体制の復旧にも尽力されています。大震災後に応じられたインタビューでは、「まず生き延びることが初動では大切だ」とおっしゃっていたのが印象的でした。その後、日本人の健康に大きく寄与する東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を設立されたわけですが、いま「命」というものに対して、どのような思いを抱いていらっしゃいますか?

山本 東日本大震災の発生後、医療者として最も強く感じたのは「多くの人が生き延びるためにはまず何をしたら良いのか」ということでした。そして、生き延びるためには最初の2週間が大切だと感じました。どのように人の「命」に向き合うのか、どうやって人の命を守るのか──。医療者としての自分が試される出来事だったと思います。

蟹瀬 日本ではすべての国民の健康と命を守るために国民皆保険制度がとられています。しかし、超高齢社会に突入し、保険料を支払う現役世代が減ったことから、国民皆保険制度を維持することができなくなるとの懸念も広がっています。

山本 現在の仕組みのままではそうなる懸念があります。しかし、20年前、30年前に比べると、いまの70歳前後の方々はお元気ですから、「支えられる側」ではなく、「支える側」として考えることができるのではないでしょうか。歳をとれば確かに何らかの不具合を抱えることも増えますが、そうした人たちの健康を維持し、社会のために働いてもらうということが大切な時代になってきたと思っています。誰もが共に支え合い、社会全体で「命」を守る、というイメージですね。

蟹瀬 ある人物と、少子高齢化や年金問題の話をした際、「子どもが親の面倒をみる哺乳類が人間以外にいますか」といわれてはっと思ったのです。高齢者は子どもが面倒をみるのではなく、社会が面倒をみていくことが理に適っているのではないかと。山本先生のご指摘のように、高齢者が元気に活躍し続けられる環境を社会でつくっていく必要がありますね。

山本 国民がそうした意識を持つことが重要だと思います。

「人生100年時代」を生き抜くポイントは「予防」

蟹瀬 「人生100年時代」を迎えた日本では、いかに健康的な生活を保っていくのか、いわゆるQOL(quality of life:生活の質)の維持・向上が重要になってきます。そのための医療としては、「予防」に重点を置くということになるのでしょうか?

山本 おっしゃる通りで、QOLを低下させる大きな要因の一つが生活習慣病です。生活習慣病は原因が一つに特定できない病気で、専門的な用語では多因子疾患と呼ばれます。私たちが高齢者のQOLの維持・向上を目指す時、多因子疾患に対する闘いが非常に重要であり、医療の上でも、新たな薬を創る上でも大事なポイントとなります。

 病気を起こす要因の一つとして「体質」という言葉が使われますが、この体質とは突き詰めていくと遺伝です。それに対して、例えば暴飲暴食や喫煙などはライフスタイルの問題であり、このような遺伝因子以外で病気のかかりやすさに影響する要因を「環境因子」と呼びます。人々は、遺伝因子と環境因子の関係の中で多因子疾患である生活習慣病の危険にさらされているわけです(図1)。重要な点は、病気になりやすい遺伝因子を持っていても生活習慣がよければ病気になりにくく、逆に病気になりやすい遺伝因子を持っていなくても生活習慣が悪ければ病気になるリスクが高くなるということです。私たちは遺伝因子と環境因子のバランスを理解する必要があり、この点こそが次世代医療を構築する上でのキーポイントだと考えられます。遺伝因子と環境因子のバランスを解明し、どのような人がどのような病気にかかりやすいのかがわかれば、その病気を予防することが可能になります。

蟹瀬 従来の「治癒」をメインとしてきた医療を、今後は「予防」へと大きくフォーカスシフトしていくということですね。

山本 はい。健康上の問題により日常生活が制限されることなく過ごせる期間を健康寿命といいますが、2018年に厚生労働省が発表した資料によると、男性の平均寿命は80.21歳であるのに対し、健康寿命は71.19歳となっており、約9年の開きがあります。さらに、女性の平均寿命は86.61歳、健康寿命は74.21歳となっていて、約12年という男性以上に大きな差が生じています。健康寿命を延ばすためには、適切な予防医療によって、病気の発生を防いだり、病気を早期に発見したりして、早期介入につなげることが大切です。

「個別化予防・医療」を目指して設立された東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)

蟹瀬 遺伝因子と環境因子のバランスはどのように解明されるのでしょうか?

山本 医療者の多くは「病気を予防するには、お酒を控え目に、タバコは厳禁。塩分の摂取量は少なくし、野菜を多く摂ってください」と、皆さんに指導します。蟹瀬さんは、こうした指導に素直に従うことができますか?

蟹瀬 従わない時もありましたね。

山本 多くの人に対する画一的な指導は、説得力に欠けるのです。もちろん、健康診断で血圧値や脂質値などがわかりますから、個別の指導はできますが、同じ検査値でも病気になりやすい人となりにくい人がいることがわかっているので、指導に従おうという気が起こりづらいのです。私は、尿や血液検査、レントゲン検査などに、遺伝子検査を加えたらよいのではないかと思っています。遺伝子検査の目的は、その人の体質を理解することです。遺伝子検査だけですべてがわかるわけではありませんが、診断の補助には有用です。医師が遺伝子検査の結果を踏まえて、例えば「蟹瀬さんは特にタバコの害が出やすい体質ですから、あなたについては特に厳禁です」と指導できるわけです。

蟹瀬 一人ひとりにカスタマイズした指導が行われるわけですね。

山本 それを私たちは「個別化」と呼んでいます。この個々人に即した「個別化予防」と「個別化医療」の実現を目的として設立したのが、ToMMoです。2012年2月、東北大学に学内組織を設置し、2013年度から本格的な活動を開始しました。2014年3月には東北メディカル・メガバンク棟が竣工しました。私たちの取り組みが実現すれば、予防や病気の初期段階では、遺伝因子と環境因子を考慮して適切な薬の投与や生活習慣の改善指導が行われ、本格的に病気になった段階では、遺伝情報をもとに患者さんの個人レベルで最適な治療方法を分析・選択する「精密医療(プレシジョン・メディシン)」が施されることになります(図2)。

蟹瀬 ToMMoでどのようなことが行われているのか、非常に興味が湧いてきました。次回で、詳しくお聞きします。

2014年3月、東北大学星陵キャンパス(仙台市青葉区)内に竣工した東北メディカル・メガバンク棟。生体試料を保管する日本最大級のバイオバンクやスーパーコンピュータシステム、高解像度のMRI(磁気共鳴画像)装置、ヒトの全ゲノム配列を決定するシークエンス解析装置などを備える。

※このページの取材日は、2020年2月19日