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【Event Report】地域インバウンド/アウトバウンドセミナー 外国人の消費を地域経済に取り込む処方箋 歴史や伝統の伝え方を見直し海外に発信した5つの地域の取り組み

経済産業省の補助事業であるクールジャパンプロデュース支援事業「Japan Treasures」の活動内容と成果を報告する「地域インバウンド/アウトバウンドセミナー ~外国人の消費を地域経済に取り込む処方箋~」が、2020年2月18日に東京で開催された。第1部を“コト”、第2部を“モノ”中心に活動報告を行った講演の模様をダイジェストで紹介する。

外部人材が地域の魅力をブランディング

 セミナーに先立ち、Japan Treasures事務局が同事業の概要について説明した。

 Japan Treasuresは、経済産業省の補助事業に採択されたクールジャパンプロデュース支援事業であり、海外ニーズやライフスタイル等に詳しい外部人材を活用することで、複数の中小企業等が連携したプロジェクトのPR・ブランディングを総合的にサポート。インバウンドを活用した海外販路開拓や高付加価値化による地域経済の活性化等に貢献することを目的として行われた事業である。

 全国22地域からの応募があり、京都府、兵庫県・豊岡市、長崎県・波佐見町、石川県・輪島市、佐賀県・唐津市の5つのプロジェクトが採択された。各プロジェクトは2019年8月上旬にキックオフし、本セミナーでは20年2月までの約7カ月間の活動成果を、第1部を“コト”、第2部を“モノ”中心に発表した。

 同事務局は各プロジェクトに対し、プロデューサーを派遣し、販売・販路拡大の一助となるよう伴走させた。また、成果を高めるために必要な場合はアドバイザー等を派遣したほか、羽田空港でのPRイベントの開催、メディア、インフルエンサー、バイヤー等の招へいといった支援を実施。

 また、各プロジェクト間の意思統一や進捗確認、プロジェクト同士の連携促進、ノウハウやネットワークの共有等を目的に、プロジェクトごと、および全プロジェクトが一堂に会した会議なども行った。さらに、将来同じような事業を展開する他地域の知見向上のため、支援プロジェクトの取り組みや成果を広く公開する公式ホームページを開設することで、将来的な発展につなげる仕組みだ。

プロジェクト活動と支援活動の流れ
採択された5つのプロジェクトには、海外ニーズやライフスタイル等に詳しい外部人材を派遣。そのアドバイスの下、ファムトリップや海外でのPR、商談会への参加など、地元名産品等の販売・販路開拓に資するプロモーションを実施。事務局は、必要に応じてプロデューサーやアドバイザーを派遣したほか、各プロジェクトの意思統一や情報共有を図る会議を開いた。
※ファムトリップ:訪日外国人の誘致促進のため、ターゲットとする国・地域の旅行事業者やブロガー、メディアなどに現地を視察してもらうツアーのこと

Keynote speech

鶴本氏
株式会社箔一/shokolatt
ブランドプロデューサー
鶴本 晶子

 セミナー第1部の基調講演には、箔一/shokolatt ブランドディレクターの鶴本晶子氏が登壇。「インバウンド観光の消費拡大について」と題する講演を行った。

 鶴本氏は、「地域の伝統工芸品などの消費を拡大するには、訪日外国人に魅力を感じてもらえるようなブランディングが重要」だと指摘。ブランディングのためには「創る(伝統や技術などほかにはない物語の創出)」「魅せる(ターゲットに合わせたリサーチを行い、商品づくりやマーケティングにつなげる)」「輝かせる(ブランドに合った展示会やPR、SNSや著名人による情報発信など)」の3つのプロセスが欠かせないと語った。

 また、「モノづくりに取り組む職人さんの姿勢や、それを生み出した歴史や風土、人も含めて総合的にリスペクトしてもらえるような物語を紡ぎ出すことが大切」だと述べ、単なるモノの「消費」から、その地域を応援したいと思う「パトロネージュ(支援)」へと訪日外国人の気持ちを高めてもらうことが大切だと鶴本氏は話す。

 「パトロネージュの輪を広げるには、富裕層をターゲットとして、職人との触れ合いや、地元の食、文化にまつわる特別な体験ができるツアーを催し、その良さを広く発信してもらうことが効果的」。最後に鶴本氏はこう語り、講演を結んだ。

Project report

京都府
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本田氏
代表団体
マインドクリエイターズ・
ジャパン株式会社
代表取締役
本田 恵理子
村山氏
プロデューサー
株式会社やまとごころ
代表取締役
村山 慶輔

 続いて、各プロジェクトの活動内容についての説明と成果報告が行われた。

 京都府は「外国人コスプレイヤーを活用した地域観光素材発信事業」というプロジェクトを実施。19年11月に京都で開催された国際的なコスプレイベント「MAGIC KYOTO 2019」に合わせて来日した約10人の外国人コスプレイヤーを「インバウンド・アウトバウンド外国人観光アンバサダー」に任命し、イベント終了後に京都府内3つのDMOが推奨した観光地を訪問するファムトリップに参加してもらった。すでに多数の訪日外国人が訪れている京都市以外の地域の魅力を知ってもらい、SNS等で広く発信してもらうことなどが狙いである。

 プロジェクトの代表団体として登壇したマインドクリエイターズ・ジャパンの本田恵理子代表取締役は、「外国人の視点でそれぞれの地域の魅力を発掘してもらい、コンテンツを磨き上げることも狙い」だと説明。

 プロデューサーとして同プロジェクトをプロデュースした、やまとごころの村山慶輔代表取締役は、「外国人コスプレイヤーたちによるSNSでの情報発信で『いいね』やシェアの数が増えただけでなく、和紙の手漉き体験を通じて、和紙を使った服やカバンが作れるのではないかというフィードバックをいただくなど、収穫が多かった。今後も、MICE等で京都市に訪れた訪日外国人を京都市外にも誘導する取り組みを進めていきたい」と語った。

※MICE:会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称

兵庫県・豊岡市
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池上氏
代表団体
株式会社西村屋
常務取締役
池上 桂一郎
増渕氏
プロデューサー
株式会社ルート・アンド・
パートナーズ
代表取締役
増渕 達也

 兵庫県・豊岡市は、「城崎温泉ハイクラス向けコンテンツ&ツアープランニング・プロデュース」というプロジェクトを実施した。代表団体の一つであり、ルレ・エ・シャトーに参加する城崎温泉の老舗旅館の西村屋本館を中心に、浴衣による外湯巡りなど日本情緒のある地域コンテンツの磨き上げや、小型豪華貸し切りバスで周辺の観光地を巡るルートも含めたラグジュアリーツアープランを企画。フランスのカンヌで開催される富裕層向け旅行商談会で提案、販売するというプロジェクトだ。

 プロデューサーとして参加したルート・アンド・パートナーズの増渕達也代表取締役は、「ラグジュアリー感を訴求するため、但馬牛や松葉ガニといった地元の食は『Gastronomy(美食)』、コウノトリなどの生き物や自然は『Flora and Fauna(動植物)』といったように、海外の富裕層に響きやすい単語で表現した」と言う。

 また、西村屋の池上桂一郎常務取締役は、「以前の商談会ではあまり反応がよくなかったが、単語表現を変えるなど、販促物をブラッシュアップしてカンヌの商談会に臨んだところ、多くの商談機会が得られた」と成果を語った。

※ルレ・エ・シャトー:世界の一流ホテル、レストランで構成される世界的な非営利団体。1954年にフランスで発足した

長崎県・波佐見町
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小林氏
代表団体
西海陶器株式会社
取締役常務
小林 善輝
村山氏
プロデューサー
株式会社やまとごころ
代表取締役
村山 慶輔

 400年の歴史を持つ生活食器、波佐見焼の産地である長崎県・波佐見町は、「『クラフト・ツーリズム産業』ブランド構築事業」というプロジェクトを実施した。波佐見焼のモノづくりと、波佐見町で体感できるコト価値(ツーリズム)を一体化させることで「クラフトツーリズム」という新しい付加価値を創出。その魅力を堪能できる滞在コンテンツを訪日外国人向けに開発し、海外プロモーションを行って誘致するという内容である。

 代表団体である西海陶器の小林善輝取締役常務は、「クラフトツーリズム産業を盛り上げていくべく、全国11地域から150人を招いてクラフトツーリズム全国大会を開催したほか、東京芸術大学、東京工業大学とのコラボレーションで『世界一コーヒーが美味しく飲めるマグカップ』を開発。さらに、福岡の外国人向けフリーペーパーや台湾メディア、香港の陶芸ギャラリーの運営人を招いてファムトリップを実施し、その模様をSNS等で広く発信した」と語る。

 プロデューサーとして支援した、やまとごころの村山氏は「波佐見町は、海外ではほとんど知られていない観光地だったが、情報発信によって認知度が向上するなど一定の効果が表れた。今後は台湾、香港市場をさらに深掘りし、波佐見焼の知名度の高い欧米豪エリアを中心にプロモーションを展開したい」とさらなる展望を話した。

Talk session

トークセッション
写真左から モデレーター・京都造形芸術大学 客員教授 平川 健司氏、パネリスト・株式会社西村屋 常務取締役 池上 桂一郎氏、西海陶器株式会社 取締役常務 小林 善輝氏、マインドクリエイターズ・ジャパン株式会社 代表取締役 本田 恵理子氏、株式会社ルート・アンド・パートナーズ 代表取締役 増渕 達也氏、株式会社やまとごころ 代表取締役 村山 慶輔氏、株式会社箔一/shokolatt ブランドプロデューサー 鶴本 晶子氏

 第1部の最後には、基調講演を行った鶴本氏と、各プロジェクトの成果を発表した代表団体およびプロデューサーによるトークセッションが行われた。

 モデレーターを務めた京都造形芸術大学の平川健司客員教授は、まず京都府のプロジェクトをプロデュースした村山氏に、「今後もMICEの客を周辺の観光地にも誘導していきたいとのことだが、かなりの労力を要するのではないか」と質問。これに対し村山氏は、「現状では1~2割の客しか誘導できていないが、見方を変えればそれだけ伸びしろがあるといえる。流れを形成するためには、最初の仕組み作りときめ細かなフォローが大切だと思う」と語った。

 次に平川氏は波佐見町の取り組みについて、小林氏に「もともとは『クラフト・ツーリズム』という名称だったが、中の点を取って『クラフトツーリズム』に変えたのはなぜか」と尋ねた。小林氏は、「点で分けると、モノとツーリズムが分離してしまっているような印象がある。単にモノを売るのではなく、地域の歴史や文化と一体化した価値を売るのだという思いを明確にしたかった」と説明。

 また、鶴本氏は、モノとツーリズムを一体化するためのヒントとして、「トップシェフによる料理と組み合わせるなど、器と食文化を融合させたコンテンツを開発する方法もあるのではないか」とアドバイスした。

 さらに、豊岡市のプロジェクトを支援した増渕氏は、訪日外国人に響きやすいラグジュアリーな単語で地域の魅力を訴求した理由について、「相手と同じ土俵、同じ目線に立たなければ、そもそも戦いようがないと考えた」と話す。

 これを受けて平川氏は、「旅をする側、つまり訪日外国人側の視点に立って、地域の価値を見つめ直し、旅のあり方そのものをデザインし直すことが、インバウンド観光による消費拡大の起点になるのではないか」と締めくくった。