ニューノーマル時代の経営戦略

変容するビジネス環境下の
グローバル税務管理とは

国際課税ルール改正によって、追徴課税などの税務リスクはかつてないほど高まっている。これに加えて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が求められる中、日本企業はどのようにグローバルタックスマネジメントに取り組むべきか。KPMG税理士法人の2人が解説する。

KPMG税理士法人 代表 パートナー 駒木根 裕一 氏、KPMG税理士法人 副代表 パートナー 宮原 雄一 氏
KPMG税理士法人
代表 パートナー
駒木根 裕一
KPMG税理士法人
副代表 パートナー
宮原 雄一

BEPS対策によって高まるグローバル企業の税務リスク

グローバル企業が、事業活動と国際課税ルールや国・地域ごとの税制のずれを利用したり、タックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを設立したりすることで納税額を抑えようとする問題、BEPS(税源浸食と利益移転)への対策は、世界的な広がりを見せている。

2012年、OECD(経済協力開発機構)で対応策を議論するBEPSプロジェクトが発足し、日本においても2016年度の税制改正において、BEPSプロジェクト最終報告書の「行動計画13」に基づき、移転価格文書化の見直しが行われた。これによって、グループ連結売上高が1000億円以上のグローバル企業グループは、移転価格等に関する国別報告書とマスターファイル、ローカルファイルの提出が義務付けられた。

KPMG税理士法人の代表パートナーである駒木根氏は、「この国際課税ルール改正で注意すべきなのは、各国・地域における利益や納税額の配分だけでなく、グループの事業ポリシーやサプライチェーン、無形資産の取り扱いなど、グローバル企業の活動のすべてがガラス張りになってしまうことです。例えば、ある海外子会社が、同様の事業を行う他の国・地域の子会社に比べて利益が過小だと現地税務当局が判断すれば、多額の追徴課税を課される可能性もあります。各国・地域の税務当局が情報共有と連携を深めることで、グループ全体としての税務リスクが格段に高まります」と語る。

駒木根氏によれば、欧米企業はこうした動きに適切に対応し、統一されたポリシーに基づくグローバルなタックスマネジメントを行っている。

「しかし日本のグローバル企業は、それぞれの現地子会社に税務対応を任せていることが多く、国・地域ごとに異なる対応を現地税務当局から指摘されるケースが増えてくるでしょう」(駒木根氏)

納めるための税務だけでなく利益を守るための税務を

そもそも、日本企業が欧米企業ほど戦略的なタックスマネジメントを実践できないのは、「納税は当然の義務という意識が根強いからではないでしょうか」と語るのは、KPMG税理士法人副代表パートナーの宮原氏である。

「株主の利益が最重要視される欧米では、ROEのベースとなる税引後利益をいかに高めるかということが経営者の大きな課題です。そのため、タックスマネジメントは重要な事業戦略の一環と位置付けられているのです」(宮原氏)

一方、日本では古くから法人による納税は社会貢献の一つとして認識されてきたので、税務は申告や税務調査への対応といった「事後処理」に過ぎないという認識が強く、利益を生み出す業務であるという考え方はあまり根付いていない。

また、「納税義務を重んじる日本企業は、海外子会社にも税務申告をしっかり行わせています。つまり、国ごとのガバナンスは利いているわけですが、一方で、グローバルで統一された税務管理については、十分に整っていない企業もあるようです。しかし、国際課税ルールの改正によって各国・地域で税務リスクが高まっている今日においては、全体を俯瞰した税務戦略や、リスクを最低限に抑えて利益を残すという意識変革が求められているのではないでしょうか」と宮原氏は語る。

こうした環境変化に対応して、KPMG税理士法人が提案するのが、税務業務のソーシングの見直し、最新テクノロジーによる税務ノウハウのナレッジ化、KPIをはじめとする税務業務の評価制度設計といったソリューションだ。

まず、税務業務のソーシングについては、日本企業の場合、海外子会社が現地の税理士事務所などに個々に委託しているケースが多い。これを世界中に拠点を置くKPMGのような国際会計事務所に委託し直せば、グローバルに統一されたタックスマネジメントが可能になる。

さらに、「戦略を全体最適化するとともに、それぞれの拠点が国・地域ごとの税制や税務調査の動向などを踏まえて適切に対応するので、個別の税務リスクも抑えやすくなります」と駒木根氏は語る。

また、申告や税務調査への対応などにおいて、ネックとなりやすいのは経験やノウハウの継承だ。日本企業の場合、税務担当者は3〜5年程度で異動するケースが多いので、せっかく得た経験やノウハウが継承されにくい。そこでKPMG税理士法人では、税務に係る様々な情報を体系化されたナレッジとして蓄積するデータ管理ツールを開発・提供している。

他にも同法人は、税務部門によるタックスマネジメントの取り組みが、いかに利益に結び付いたかなどを評価するKPIや、それに連動する報酬制度などの設計も行う。「KPIの設定で、税務が事業戦略の重要な構成要素の一つであることを明確にし、経営者のみならず、CFOをはじめとする財務担当者の意識を変える効果が期待できます」(宮原氏)。

あらゆる事業活動に求められる税務の視点

こうした様々なサービスの他、KPMG税理士法人は、グローバルタックスマネジメントに関する卓越した経験とノウハウをもとに、企業ごとの課題に応じたコンサルティングも行っている。

例えば駒木根氏は、「ある企業が合併によって同じ国に複数子会社を持つ場合、持ち株のストラクチャーを見直して納税額を抑えるといったケースがあります。組織やサプライチェーンを再構築する際に税務の視点を入れると、納税のインパクトは大きく変わります」と語る。

また宮原氏は、「人事についても同様です。人件費を抑えるため、海外駐在ではなく海外出張により対応するケースも増えていますが、あまりにも頻度が高いと現地の税務当局から拠点があるとみなされ、納税義務が発生することもあります。他方、新型コロナウイルスの影響で、帰国を余儀なくされた駐在員が長期化する帰国期間中に現地子会社の仕事を行う場合は、現地子会社の拠点が日本にあるとみなされ、納税義務が発生する可能性もあります。あらゆる活動に税務の視点を入れることが必要です」と語る。

最後に駒木根氏は、「近年は中堅企業や地方企業もビジネスのグローバル化を推し進めており、海外における税務リスクへの対応が不可欠になっています。当法人はこのような課題解決に対しても積極的に貢献してまいります」と語った。