東京商工リサーチ(TSR)が4月10日に実施した第3回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査によると、感染拡大を防ぐため在宅勤務・テレワークを実施した企業は、全企業の25.4%と3割に満たないという。しかし、企業規模を問わずテレワークの実現に試行錯誤する日本企業を横目に、非常事態宣言が出された今も、常時より使用するインフラをそのまま活用し業務を継続する企業がある。以前よりグローバルで働き方改革を推進し、「テレワークが日常」の日本マイクロソフトだ。社内実践を積み重ねた同社で働き方改革を推進する小柳津篤氏に、有事にも強い働き方と組織環境をどのように生み出したのか、話を聞いた。

働き方改革ではなく、
生き残るために始めた改革

日本マイクロソフト株式会社
テクノロジーセンター
エグゼクティブアドバイザー
小柳津 篤 氏

日本マイクロソフトには、全員が毎日、いつでも、どこでも、誰とでも仕事ができる環境がある。一般的な日本企業の働き方改革との大きな違いは、“全員が毎日”というところだろう。多くの日本企業では福利厚生の一環として、育児中の社員など一部の人が、ある一定期間に自宅から作業をするテレワークを実施してはいるが、会社全体の働き方を大きく変える動きではない。しかし、マイクロソフトのアプローチはそうではなかった。小柳津氏は、「この取り組みは、そもそも働き方改革を目指したわけではありません。競争に勝ち、会社が生き残るために始めた改革です。それが結果的に、生産性が高く、有事にも強い環境を生みました」と語る。

そのために同社が行ったのが、2つの観点での業務の仕分けだ。仕事には「プロセス型」と「プロジェクト型」の2つのスタイルがある。日本企業に多い前者はプロセスやフォーマットが決まっており、マニュアルに従って規律正しく正確に行う仕事。それに対して後者は多様な人がアイデアを出し合い、新たな価値を生み出すような仕事だ。「プロセス型の仕事はアウトソースしたり、ロボットやAIに任せたり、仕事自体をやめたりしました。その結果現在社内には付加価値の高いプロジェクト型の仕事がほとんどです。効率的かつ効果的にプロジェクト型の仕事を行うためには、全員がいつでも、どこでも、誰とでもコラボレーションできる環境が必要だったのです」(小柳津氏)

日本企業の習慣と日本マイクロソフトの価値観

体験のプログラム化で
社員の行動を変える

同社がこれまでに取り組んだ試みの一つが、「業務の標準化と電子化」だ。まずペーパーレスに取り組むも、電子化した紙文書を社員が出力するため、本質的な電子化にならなかった。それが大きく前進したのは、プロセス型、入力型の仕事をなくしたことが契機となった。小柳津氏は、「重要なことはプロセス型の仕事をなくすこと。それによって、そのなかで確認や説明に使っていた紙がなくなります」と語る。

2009年当時の日本マイクロソフトのオフィスには多くの紙の書類が残っている

同時に行ったのが「便利で安心安全な環境整備」である。便利さと安心安全は、ともするとトレードオフになりがちだ。しかし、それでは意味がない。小柳津氏は、「安全性に疑問を感じたり不便だったりすると、社員は黙って仕事の手を止めます。継続するには、その会社で提供できる最高水準の利便性と安全性を提供し続ける必要があります」と指摘する。もちろん環境の中にはICTだけでなく、いつでもどこでも誰とでもコラボレーションできることを前提にした雇用契約や就業規則、マネジメントルールなど制度設計も含まれる。

当初同社では、「業務の標準化と電子化」と「便利で安心安全な環境整備」の2つが揃えばテレワークが推進できると考えていた。しかし、環境が整備されても社員の意識はなかなか変わらず進まなかった。小柳津氏は、「この状況を打開するため説明と説得に努めましたが、いまから振り返ると、ほぼムダでした。」と打ち明ける。

それが大きく変わったきっかけは、東日本大震災だ。交通や電気が不自由ななか、インターネットは動いていたため、当時の社長が1~2週間の出社停止と即日業務再開を宣言。実際に取り組んだところ、何も困ることなく業務が動いた。この成功体験により、テレワークが大きく推進。現在、社員への説明自体は必要最低限にとどめ、より行動を変えることに直結した、体験型の活動をプログラム化し、継続して行っている。

日本マイクロソフトの価値観を実践するために必要だった考え方と仕組みやシステム

全世界で日々使うユーザーは7,500万人。
テレワークを支える Microsoft Teams

同社のテレワークを支えるツールの1つが、 Microsoft Teams (以後、Teams )だ。プライバシーとセキュリティを犠牲にすることなく、柔軟なコラボレーションを実現するコミュニケーションツールである。そのユーザー数は3月18日時点で4,400万人だったが、5月に開催された第3四半期の業績報告で7,500万人を突破したことをCEOのサティア・ナデラ氏が発表した。

その選ばれるポイントを小柳津氏は、「統合性と安全性」と語る。

Microsoft Teams は、オンライン会議だけでなく、チャット、情報共有、コラボレーション、通話などの機能が統合されており、プロジェクトに関する情報を一元管理することが可能。新しくチームに加わった人も、その履歴を確認することで経緯と現状を把握できる。また、複数のアプリを使用していた仕事が Microsoft Teams 内だけで完結するので、大幅な効率化が可能だ。PCとスマホのインタフェースに一貫性があるので使いやすく、ユーザーが多いので社外とコラボレーションする場合でも、スムーズに連携できる可能性が高い。

また Microsoft Teams は同社のシステム管理・デバイス管理下の Microsoft 365 環境で使用できるため、意識しなくとも高いセキュリティ対策やプライバシー保護で守られている安心感もある。ICTは様々な機能を安全に利用するため多くのコンポーネントが必要だ。マイクロソフトのユニークさは、これらのコンポーネントが統合されているところ。そこには、多要素認証もID管理もアクセス制御もあり、システムとデバイスを統合的に管理できる。

従来のICTソリューションは各種コンポーネントを組み上げて構築する方法が一般的だったが、近年はそれぞれのコンポーネントの組み合わせが複雑化しすぎており、メンテンナンス、使い勝手、資産管理などにおいて不利になってきており、コスト増にもなってしまうことが多い。小柳津氏は、「働き方改革を実現する上で、マイクロソフトのソリューションが最も理にかなっていると考えています」と語る。

制度、文化、システムの3つを
整理して考えること

一方で、多くの日本企業ではテレワークへの移行を余儀なくされながら、なかなか進まないという課題を抱えている。小柳津氏はその阻害要因として、次の3つを挙げる。

まず1つめの阻害要因が「制度/ルール」である。これは国を挙げての働き方改革によって、前に比べかなり整備されてきた。しかし、制度があっても実際は使える雰囲気ではない、といった「文化/気持ち」の問題が実は大きい。これが2つめの阻害要因だ。これを乗り越えるためには同社がそうであったようにまずは実際に体験することが必要で、強制的にでもテレワークを行ってみる必要がある。そうすればこの気持ちの問題に変化が生じることは間違いないだろう。

3つ目の阻害要因が「システム/デバイス」である。社外においても、社内と同様に働ける環境が従業員にいきわたっていなければ、テレワークは実現しないということだ。これは投資を伴うため企業によって濃淡はあるが、「今後システム/デバイスへの投資は増える」と小柳津氏は次のように指摘する。「印鑑がない、Faxがないといった理由で、部品の発注すら出社しなければできないという企業は少なくありません。現在の状況が収束したら、停滞しない働き方を実現するため、必要なシステムを導入し、デジタル化を推進する経営者は少なくないでしょう」。

さらに小柳津氏は、「やみくもに議論するのではなく、この3つの阻害要因から逆算して考え、今何ができていて何ができていないかを整理することで、取り組みやすくなるはずです」とアドバイスする。

先行企業として、
コロナ後の世界へ情報を提供

現在の日本マイクロソフトは、テレワークという働き方にシフトすることでより高付加価値の仕事を生み出すことに成功しており、それを社会基盤にまで広げることが、社会の要請にかないビジネスにもなると考えていた。しかし、コロナ以降価値観や行動様式、組織や社会の規範や期待値などが一挙に変わろうとしている今、「現在の我々の到達点を前提にするだけでは次の時代への提言にはならないと考えています。そこで次の価値観は何かを検討し、模索しています」と小柳津氏は語る。

現在進行中なので今後も変化するが、小柳津氏が今現在考えているのは次の3つ。まず1つめは、自主自律性への要求が高まるということ。不確実性が高まる中、国や会社から提示できるのはガイドライン程度になるため、マニュアルや業務規程などに依存した働き方は価値が大きく低下してしまう。2つめは、これまで個人の問題だった健康が組織の関心事へと変わること。3つめが、リスクマネジメントで、今回のような業務の停滞を生まないために、デジタル化や、AIやRPAの活用などが進むと予測する。

コロナ以降の働き方改革

日本マイクロソフトは、このような新時代の展望や適応方法も含め、先行企業として後続する企業をサポートしていくという。具体的には自社での失敗を含めた経験や成果などの情報提供、一定期間のライセンス無償提供、オンライントレーニング、教育コンテンツの提供、実装パートナーの紹介など様々な施策を用意している。「状況を鑑み、情報提供を強化すべく準備を始めています。また変わりゆく世の中に対し、先行する我々がある種の人柱になりながら、様々な制度設計やオペレーション、マネジメント、ICTの活用方法やデザインなどを試しつつ、その結果を皆様にフィードバックしていきたいと考えています」と小柳津氏は締めくくった。

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