人口減少と若年層の保険離れが始まり始めた数年前から、保険業界には新しい経営の一手が求められるようになった。特にコロナ禍が本格化した昨年からは、訪問先のオフィスで顧客と会えなくなり、オンラインでの対応が急務となるなど、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)も急がれている。住友生命は、秘書室、代理店部門を中心に、グローバルで様々な実績を持つマイクロソフトのクラウドソリューションの導入を開始していた。現在、法人営業部門を中心に3000人規模のIT環境を刷新して業務効率の改善を図りつつ、全社的なデータ分析基盤の整備へ向けた取り組みをコロナ禍において更に加速させている。

クラウド型の顧客管理導入で統合的なCXを目指す

住友生命保険相互会社
情報システム部
システム業務室
部長代理
辻本 憲一郎 氏

大企業を中心に在宅勤務やテレワークが広がっている。オフィス以外の場所で働く人が増え、保険の外交員が訪問しても顧客が不在にしているケースが増えたという。昨今のコロナ禍で、その状況は加速している。対面によるコミュニケーションを軸に展開してきた保険業界も、ITツールによって顧客との接点を増やし、デジタルを含めた統合的なCX(顧客体験)が求められるようになった。

2020年以前からも保険業界は人口動態の問題などから抜本的な改革が経営課題として顕在化していた。つまり、従業員と顧客の減少を見据えた生産性の向上と働き方改革が不可欠であり、その実現のために注目されてきたのが、データドリブンによるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進である。

このような状況を受け、住友生命は組織横断型のDXプロジェクトチームを立ち上げた。顧客との接点に関しては「オンラインと対面を自在に使い分けられるハイブリッドなコミュニケーション環境」(住友生命保険相互会社 情報システム部の辻本憲一郎氏)で新たなCXの確立を目指す。また社内では、分散管理されているデータを統合し、自在な分析を可能にする新たなデータ基盤の構築を急ぐ。

2020年、同社は老朽化したシステムをリニューアルするタイミングで「Microsoft Dynamics 365 Sales」の導入を決めた。人工知能(AI)を背景に、予測的インサイトを活用できるクラウド型の顧客関係管理(CRM)だ。

導入の第1段階として秘書室、第2段階として400名規模の代理店部門で展開しており、第3弾として約3000名を擁する法人営業部門へと、段階的に拡大している。

報告業務を削減し、データ活用の地固めを推進

きっかけは、全社のグループウエアをマイクロソフトの「Microsoft 365」に切り換えたことだった。そのタイミングで秘書室のIT環境もリニューアルすることになり、Microsoft 365 と親和性の高い Dynamics 365 の導入を決めた。

全社員が使用している「Microsoft Outlook」と経営トップ層のスケジューラーがネイティブに連携することが可能になった。

次は、代理店部門だ。代理店部門は400名ほどの営業担当者を全国に配し、金融機関を含む保険代理店の営業支援を行っている。

代理店部門の担当者は、日々の活動を日報で報告している。かつては日報を電子メールで本社に送り、受け取った職員が手作業でサマライズしてシステムに入力していた。この非効率なワークフローを改善することが、所期の目的となった。

Dynamics 365 を導入すると、頻雑だった報告業務は大幅に改善された。担当者が日報を入力するだけで、Dynamics 365 が自動的に集計する。データに基づいて担当者の活動状況が可視化され、直感的に把握できるようになった。

また、かつては日報のほかに、週次、月次で様々な報告書の提出が求められてきたが、導入後は日報を自動的にサマライズして週次や月次の報告が作成されるようになり、現場の負担が大幅に減った。

それだけではない。Dynamics 365 に日々蓄積されていくデータが、いつでも分析可能な状態で整理、維持されるようになった。営業担当者のアクティビティだけでなく、代理店ごとの特性や実績などを自在に把握し、戦略的な施策の検討に生かせる体制が整った。

現場での丁寧なヒアリングが成功へと導く

Dynamics 365 導入プロジェクトの第3弾として、いよいよ3000人規模の法人営業部門に拡大する。

当時の法人営業部門では、訪問先企業のデータ管理や戦略の確認、訪問記録の管理などに関して、多数の内製システムやツールを使用していた。各システムやツールは独立して運用されていたため、連携はほとんどしていなかった。

様々な局面で多くの内製システムやツールを活用。ほぼすべての機能を Dynamics 365 で刷新した

図の上段にある「大規模団体」とは、全国に拠点を展開している大規模な企業や団体の顧客のことで、同社の法人総括部が所管している。下段の「上記以外」とは、全国に点在する企業や団体の顧客を指し、同社の営業総括部が所管する。この2つの部門を合わせて約3000名の組織となる。

当初は導入効率を考え、多数の内製ツールの中で利用頻度の高いものに絞り込んで Dynamics 365 へ移行させるプランを考えた。だが、それではユーザー部門の合意が得られなかった。

そこで、辻本氏のチームは改めて法人総括部と営業総括部に詳しくヒアリングし、内製のツールやシステムの利用実態をつぶさに調べた。利用頻度が低いと見られていたツールにも個々の役割があり、様々な局面で営業担当者の仕事を支えていることがわかった。

ヒアリングによって必要な機能を洗い出し、漏れなく Dynamics 365 に一元化できるソリューションを提案したところ、両部署の了解を得ることができた。

Dynamics 365 に刷新した結果、あらゆるデータが統合され、入力や参照、管理にかかる時間と労力を削減できた。営業担当者は頻雑な管理業務から解放され、顧客への対応に集中できるようになった。また、スケジューラーや名刺管理システムとの連携が進み、顧客情報を効果的に今後活用できるようになると考えている。

外部システムとの自在な連携が Dynamics 365 の魅力

今回、Dynamics 365 を選定する決め手になったのは、日々使用する Microsoft 365 との親和性もさることながら、「外部のSaaS製品と連携しやすいことを高く評価しました」(辻本氏)。マイクロソフトの製品はエコシステムが大きく、数多くの製品やサービスと連携しやすい。

同社は現在、マルチクラウドで運用する大規模なデータ分析基盤を開発している。

ETL(抽出、変換、格納)ツールを使用して社内外の膨大なデータを収集し、データレイクに貯蔵する。これに自動分析ツールを実装して、販売戦略やコンプライアンス、商品開発などに生かしていきたい考えだ。

今回、Dynamics 365 を選択した背景には、秘書室や代理店部門、営業部門で蓄積されていくデータもこの新しいデータ基盤に接続したい意向がある。

法人営業部門に Dynamics 365 を導入して、約3カ月が経過した。「3000人が日々利用することで、様々な意見やアイデアがユーザー部門の法人総括部や営業総括部に寄せられています。今後はそうしたニーズを丁寧に吸い上げ、スピーディに機能を拡充していく計画です」(辻本氏)。

そのため、辻本氏は日本マイクロソフトのサポートに期待している。システム開発や保守体制の構築についてもそうだが、新しい機能を Dynamics 365 上で実現するためのノウハウや、課題解決に関する他社事例などの共有を望む。

Dynamics 365 の導入は、もともと情報システム部門の発案で始まったプロジェクトだったが、ユーザー部門である法人総括部や営業総括部がビジネス的な見地から忌憚のない意見を述べ、協力したことが成功へとつながった。「3000名以上への導入を支障なく進められた最大の理由は、ユーザー部門の責任者が従業員に対してきめ細かいレクチャーや教宣をしてくれたことです」(辻本氏)。

Dynamics 365 の大規模な導入を成功させたことで、同社のDXは大きく前進したが、これで終わりではない。今後、より広く現場にデジタルの力を浸透させていくため、同社は次の一手をすでに見据えている。

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