リテールビジネスの事業環境が厳しさを増す中で、
メガバンクや大手証券、外資系金融機関が成長分野として取り組むウェルスマネジメントビジネス。
注目される背景や各プレーヤーの特徴、業界の最新動向などを概観する。

全世帯の2%強が国内個人資産の2割を保有

図表1純金融資産保有額の階層別に見た保有資産規模と世帯数

純金融資産保有額の階層別に見た保有資産規模と世帯数
出所:野村総合研究所(2017年)

1億円以上の金融資産を保有する富裕層は、日本にどれほどいるのだろうか。

野村総合研究所(NRI)によれば、1億円以上5億円未満の純金融資産を持つ「富裕層」は118万3000世帯、5億円以上を保有する「超富裕層」は8万4000世帯(図表1)。両者の純金融資産総額は299兆円と推計されており、全世帯のわずか2%強が国内個人資産の2割を保有している。

ウェルスマネジメントとは、これら富裕層を顧客とする総合的な資産管理サービスを指す。主な担い手は国内系・外資系の金融機関であり、提供するサービスは多岐にわたる(図表2)。資産運用をはじめとする金融サービスはもちろん、顧客の囲い込みにつながる非金融サービスも含まれる。また、企業オーナーの顧客に対しては、個人・法人の双方にまたがる提案が行われる。

ただし、どの金融機関もすべての領域のサービスを同じように提供しているわけではなく、業法上提供できないサービスもあれば、得手不得手もある。各プレーヤーの特徴を大きく分けると、特定分野に高い専門性を持つ「外資系金融機関」「大手証券」、グループ横断で包括的な対応が可能な「メガバンクグループ」という構図になる。

外資系金融機関は、事業規模を活かした潤沢な経営リソースが強みだ。世界規模で見れば米モルガン・スタンレーやスイスUBSのウェルスマネジメント部門の預かり資産は200兆円に上る。多数のアナリストを抱え、顧客へのポートフォリオ管理や国際分散投資の提案、特徴的なプロダクトのオーダーメード提案など、ハイレベルな資産運用サービスを提供している。同様に、大手証券も資産運用について豊富な知識・ノウハウを有し、国内における営業力は他を圧倒している。新規株式公開(IPO)の主幹事社として経営者とのパイプが太いことも大手証券の特徴だ。

一方、メガバンクグループには、外資系金融機関や大手証券にはない強みがある。それは、提供できるプロダクトやソリューションの豊富さだ。融資なら銀行、不動産なら信託銀行、株式なら証券会社といったように、顧客の悩みに対してグループ傘下の機能をフル活用できる。グループ内の銀行を中心とした圧倒的な規模の顧客基盤を活かし、「総合金融サービス」をワンストップで提供している。

図表2日本におけるウェルスマネジメントサービスの範囲

日本におけるウェルスマネジメントサービスの範囲
出所:野村総合研究所「プライベートバンキング戦略」(2013年)

近年、攻勢を強める国内外のプレーヤー

日本におけるウェルスマネジメントビジネスは、一本調子で拡大し続けているわけではない。特に顧客基盤の乏しい外資系銀行にとっては難しい市場であり、過去には英HSBCホールディングスや米シティグループが日本での富裕層向けビジネスから撤退している。現在、日本での事業を本格的に展開しているUBSとクレディ・スイスの2社も、一度は撤退を余儀なくされた経緯がある。

近年の動きとして、2019年6月、UBSは日本におけるウェルスマネジメント事業の一層の強化を目的として、三井住友トラスト・ホールディングスとの包括的提携を発表。2020年1月にUBS SuMi TRUSTウェルス・アドバイザリーを共同出資で設立し、2021年には両社の合弁ウェルスマネジメント事業会社の設立を予定している。

国内では、野村證券が資産規模の大きな個人に経営資源を投下する戦略を進めており、2018年4月に全国の営業店にウェルス・パートナー課を設置。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も同年7月、20億円以上の資産を持つ超富裕層に特化したウェルスマネジメント営業部を立ち上げ、グループ横断的にウェルスマネジメントを統括する組織を新設した。

金融業界に残された数少ない成長領域

日本でウェルスマネジメントビジネスが注目される背景には、冒頭で触れた通り、まず約300兆円という市場の大きさがある。2008年のリーマン・ショックにより富裕層は一時的に減少したが、アベノミクスが本格化した2013年以降、富裕層の世帯数と資産総額は増加の一途をたどっている。

欧米の金融機関にとっては、リーマン・ショック以降、市場部門・投資銀行部門が苦戦しており、事業安定性が高いウェルスマネジメント部門の存在感が増している。その中でも、富裕層人口が多い日本市場を狙わない理由はないだろう。

国内金融機関に目を向けると、銀行は住宅ローンビジネスが低金利競争に陥り、傘下に収めた消費者金融ビジネスも貸金業法の改正により高収益性を失った。個人向けの投資信託や保険の販売も一巡し、高い成長を見込めるビジネスが見当たらなくなっている。大手証券も同様に、株式売買はネット証券、投信販売は銀行とのシェア争いが激化。リテール部門が苦境を迎える中で、数少ない成長領域として位置付けられているのだ。

日本の富裕層マネーを巡る競争を制するのは果たしてどこか。それぞれのプレーヤーが持ち味を出していく中で、勝ち残るのは顧客である富裕層に寄り添い、多様で複雑なニーズに応えられる金融機関なのだろう。