長期化する人材不足──
今、成長企業にとって不可欠なこと

すべて企業がいますぐ
従業員投資うべき理由

株式会社OKAN
代表取締役 CEO
沢木 恵太

これまで日本企業は人口の増加と経済成長を背景に、採用を重視し、一括採用によって優秀人材を確保する人事施策を講じてきた。しかし現在、人材不足が深刻化しているのはご存じの通りである。長期化する人材不足を勝ち抜き、企業としての成長を続けるために、今企業は何をすべきか。 働く人のライフスタイルを豊かにすることをミッションに掲げる株式会社OKANの代表取締役 CEO 沢木恵太氏に、具体的な成功企業の事例を交えながら話を聞いた。

仕事にやりがいを感じていても離職する?社員が会社を辞める本当の要因

株式会社OKAN 代表取締役 CEO 沢木 恵太 氏

 人手不足倒産が過去最多を更新──

 2020年に入って早々、このようなニュースがメディアを賑わせた。少子高齢化による労働力人口の減少という問題が、いよいよ企業経営に現実的な影響を及ぼすようになったのである。また、ここ数年、有効求人倍率が上昇し、企業側にとっては人材採用が厳しい状況が続いている。これも同じ問題が影響しているのは言うまでもない。

 そして、このような状況を背景に、日本企業の人事戦略に新たなトレンドが生まれている。

 これまで日本企業は人事プロセスにおいて「エントリー(採用)マネジメント」に注力してきたが、労働力人口の減少によって、従来のやり方では人材が確保できなくなっている。そこで、在籍する人材の定着を目的とする「リテンション(人材定着)マネジメント」への注目が高まっている。株式会社OKANの代表取締役 CEO 沢木恵太氏によれば「リテンション(人材定着)マネジメント」の中でも「ハイジーンファクター(衛生要因)」を改善するための投資が盛んに行われるようになっているという。

「人材定着を高める方法として『モチベーションマネジメント』を行う企業はこれまでも多くありました。これは、離職には『仕事内容や仕事へのやりがいなどのモチベーター(動機づけ要因)』が大きな影響を及ぼすという考えをもとにしています。しかし、離職にはもう1つ大きな要因が存在します。それが『ハイジーンファクター』です。健康状態や家庭環境、あるいは人間関係──といった仕事の内容には直接影響しないものですが、実は『モチベーター』よりも離職への影響が大きいのです。実際に厚生労働省が行った調査からも、離職理由の8割が『ハイジーンファクター』であるという結果を読み取ることができます。そこで、その改善を経営上の投資対象として捉える企業が増えているのです」(沢木氏)

従業員をうまく巻き込んでいく仕組みづくりが大切

株式会社OKAN 代表取締役 CEO 沢木 恵太 氏

 しかし、従業員に積極的な投資を行って、成果を出ている企業が増えている一方で、取り組みを進めても思ったような成果が出ない企業も少なくないのだという。では、取り組みを成功させるポイントはどのようなところにあるのか?この疑問に対して、沢木氏は次のように語る。

「まず企業には多様な対応が求められます。なぜなら、働く人の価値観は異なるからです。例えば、近年、その重要性が叫ばれている『ワークライフバランス』を向上させる取り組みは『すべての従業員は労働時間を○○時間削減する』といった一律的な調整に終始しています。これでは働く人の多様化する価値観に対応することは困難です。ライフステージや、個人の価値観によって『どんな働き方をしたいか』『仕事に何を求めるか』も多様化しています。働く人たちの多様化する価値観を、企業はしっかり理解する必要があるのです」

 会社や上層部からの価値観の押し付けになると取り組みは失敗するということだ。いかに従業員の価値観を理解し巻き込んでいくか? そこが重要なのである。

 沢木氏が「非常に上手なやり方」だと話す、ある大手旅行会社の例では、ワークスタイル変革やダイバーシティ推進を行うにあたって、全国の拠点に取り組みの推進委員長を配置。さらに担当役員が現場の声を直接聞く機会を設けるなど、ボトムアップ型で取り組みを進める体制を構築している。

 また、工場で働く派遣社員の意見を積極的に吸い上げ、ハイジーンファクター改善に生かしている大手ワインメーカーもあるという。働き方が多様化する現在、企業には雇用形態にかかわらず、働く人すべての価値観を把握して、取り組みを進めることが求められるのは言うまでもない。

ハイジーンファクターを改善するための
従業員投資は経営戦略である

株式会社OKAN 代表取締役 CEO 沢木 恵太 氏

 そして、経営層のかかわり方も重要だ。

「従業員投資を積極的に行っているにもかかわらず、従業員の皆さんがその目的や内容を正しく理解をしていないケースがあります。それでは、いくら素晴らしい制度や施策でも、あまり利用されず形骸化してしまいます。そこで、会社がどういう意思で、投資をしているというメッセージを経営層が従業員にきちんと伝えていく必要があるのです」と沢木氏は強調する。

 さらに、PDCAを回していく仕組みを構築することも必要。それぞれの施策や制度について、従業員に対するアンケート調査などで効果測定を継続的に行うことが、成果を最大化させるカギ。実施したもののあまり利用されていない制度などは、見直しを行っていくべきである。

 具体的に、どのような取り組みを行うべきかについて、沢木氏は「企業や業界によって、働く人の価値観の傾向が異なるので一概には言えない」と前置きした上で「より日常的なもので、実利に感じやすいものは共通して成功につながりやすい」と説明する。

 例えば、従業員の健康を増進する取り組みを進めるのなら、食事に関するものがおすすめだという。なお、沢木氏がCEOを務める株式会社OKANの「オフィスおかん」は、そのようなニーズに応えるサービスだ。オフィスに冷蔵庫や自販機を設置し、ヘルシーな総菜を届けるものだ。仕事中であっても誰もが食事はとるため気軽に利用しやすい。また、健康に興味のない人にとっても「オフィス内でいつでも食べられる」「1品100円」などのメリットがあるため、活用が進みやすいことも特徴だ。こういった気軽で誰もがメリットを感じやすい取り組みから行ってみるのもよいだろう。また、同社では、企業の「ハイジーンファクター」を可視化することで、改善すべき課題の特定を行う「ハイジ」というサービスも提供。併せて活用すれば、効率的に取り組みを進めることが可能である。

株式会社OKAN 代表取締役 CEO 沢木 恵太 氏

 さて、以上のような取り組みをスタートして約3年で、離職率が10%から2%に減少した企業の例もあるが、これは特に珍しいものではない。適切な方法で進めれば必ず成果は現れるという。

「ハイジーンファクター」を改善するということは、多様な人が働きやすい環境を実現するということに他ならない。そうなれば、離職率だけでなく、採用面でも好影響が現れるのは当然。労働力人口が減少する中で、企業が生き残るためには「ハイジーンファクター」改善への投資が必要不可欠なのである。

 今回紹介したいくつかの事例は、いずれも大手企業のものだが、ただでさえ人材獲得力のある企業が、このような取り組みを積極的に進めているのだ。もし何もせず、手をこまねいていればどうなるか? その答えは、改めて説明するまでもないだろう。