Special Interview

“いい眠り”で 生活をアップデート パナソニックが「スリープテック」に本格参入

近年、最先端のテクノロジーを活用し睡眠の質を改善するスリープテック(睡眠テック)への注目度が急上昇している。その背景にあるのは、働き方改革の進展や「睡眠負債」という言葉が話題になったように睡眠自体への関心の高まり、そしてIoTを初めとしたテクノロジーの進化だ。照明機器や空調機器など住まいに関する多くの製品を提供してきたパナソニックもこの市場に本格参入した。どのような強みを生かして、“いい眠り”を提供するのか。同社の菊地 真由美氏に話を聞いた。

働き方改革も背景に睡眠に対する関心が高まる

「睡眠負債」という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされたのは2017年のこと。日本人の約4割が睡眠時間6時間未満という「睡眠負債」の状態に陥っていることが話題になった。各国と比較すると日本の睡眠時間は短い。OECD(経済協力開発機構)の「Gender Data Portal 2019」の調査では日本人の睡眠時間はOECD加盟国中最下位だ(図1)。さらにアメリカの調査会社によると、快適な睡眠がとれないことによる日本の経済的損失は年間15兆円にもなるという。

Gender Data Portal 2019
図1 日本人(15歳~64歳)の平均睡眠時間は7時間22分でOECD加盟国30カ国中最下位だ ※出典:OECD「Gender Data Portal 2019」

「働き方改革への関心が高まるにつれて、改めて睡眠負債が注目されるようになっています」とパナソニック株式会社 アプライアンス社 くらしサービス開発部の菊地 真由美氏は語る。睡眠不足や睡眠の質の低下で仕事のモチベーションが上がらなかったり、頭が働かない状態では、生産性の向上は覚束ない。働き方改革による生産性の向上を実現するためには、睡眠の質を上げることが必要になる。

菊地真由美氏
パナソニック株式会社 アプライアンス社
日本地域CM部門 コンシューマーマーケティングジャパン本部
くらしサービスビジネスユニット くらしサービス開発部
サービス開発統括 サービス開発・運用課
睡眠改善インストラクター
菊地 真由美 氏

十分な睡眠が必要なことは当たり前のように思われるが、日本ではこれまで睡眠の質はないがしろにされてきた。菊地氏は「日本人は頑張り屋が多く、長く寝るのが悪、睡眠時間を削ってでも頑張るのが格好良いという風潮がまだあるように思います」と指摘する。長い眠りを経て、やっと本質的な問題に目覚めたというところだろうか。

しかし、何が十分な睡眠なのかを明らかにすることは決して簡単ではない。睡眠の研究には時間がかかり、健康を左右する要因は睡眠だけではないからだ。

こうした中で、パナソニックは30年に渡って真摯に睡眠を研究し続けてきた。同社が注目したのは、睡眠に対する光や温度、湿度の影響だ。創業時からソケットやプラグを製造してきた同社は、歴史的にも照明機器と関係が深い。さらにエアコンなどの空調機器も提供し、光と温度と湿度という睡眠に深く関わる分野で事業を展開してきた。

「以前から照明器具とエアコンなどを組み合わせた快眠システムを開発してホテルに提供するような事業も手がけてきました。ただ、今ほどは睡眠への関心も高くなく、なかなか睡眠にお金を使ってはくれませんでした」と菊地氏。その潮目が今大きく変わろうとしている。

睡眠データを基に快適な眠りを追求

タイミングを逃すことなく、本格的に睡眠ビジネスを立ち上げようと考えた同社が注目したのが、寝具メーカーとの連携である。「睡眠に不満を持つ人が真っ先に考えるのは、枕やマットレスなどの寝具を買い換えることです」と菊地氏が指摘するように、睡眠について相談するのは、家電売り場ではなく寝具売り場だ。

そうした中で同社がパートナーとして組んだのが、室町時代から寝具を手がけ、1984年には日本睡眠科学研究所を創立し、2017年から「ねむりの相談所®」をスタートさせていた西川株式会社だった。その両社が共同で開発したのが2020年3月18日からパナソニックが提供を開始する「快眠環境サポートサービス」である。

快眠環境サポートサービスは寝具、アプリ、寝室環境をサポートする家電で構成されている。西川が体動センサーを埋め込んだマットレスを開発。体動センサーは睡眠時の体の微細な動きまで1秒ごとに検知し、睡眠時間、眠りの深さ、寝付くまでの時間、途中で起きた回数などの睡眠データを計測する。このデータに基づいて寝室内にあるパナソニックのエアコンや照明が制御され、最適な睡眠環境を実現する。同時に全てのデータは快眠環境サポートサービス専用のスマホアプリ「Your Sleep」で可視化され、いつでも確認することができる。

快眠環境サポートサービスは西川のセンサー搭載マットレス、パナソニックのエアコンや照明、専用アプリで構成されている。パーソナライズド アドバイスは西川が監修している

「最も大きなポイントは、パーソナライズです。快適な睡眠環境は人によって異なります。それを解明するために、センサーの精度にはこだわりました。個人を正しく知ることがサービスの出発点だけに、クリアに眠りの状態を把握できる精度が必要でした」と菊地氏。開発されたセンサーは、薬事申請されているほど高い精度を持つ。

センサー搭載マットレス
西川のセンサー搭載マットレス「[エアーコネクテッド]SIマットレス」。特殊立体クロススリット構造マットレスで横向き、仰向け、どちらの寝姿勢でも肉体をバランスよく支える快適な睡眠環境を実現する。センサーは睡眠計測に適した位置に内蔵されている

さらに快眠環境サポートサービスでは、生活・行動データも合わせて快適な睡眠環境を追求していく。利用者に専用アプリ「Your Sleep」を通して「行動アンケート」を実施し、飲酒の有無など就寝前の行動について回答してもらい、個々人に合ったパーソナライズド アドバイスを提供する。

専用アプリ「Your Sleep」
専用アプリ「Your Sleep」では睡眠深度や睡眠時間、睡眠スコアなど日ごとの睡眠状態を確認でる(左)。また、週ごとに合計睡眠時間や睡眠スコアが低い日の行動確認や(中)、合計睡眠時間や睡眠スコアなどの月の平均値を確認でき(右)、睡眠の振り返りができる
行動アンケート
いつもより睡眠スコアが低い場合はアドバイスが表示される。さらに、行動アンケートに答えることで、パーソナライズド アドバイスを受けられ、快適な睡眠に向けての行動改善を図れる

こうして収集したデータはさらに精度を高めるために利用される。イメージとは一線を画した、徹底したデータに基づく睡眠へのアプローチだ。菊地氏は「エアコンがネットワークに対応したことで、エアコンがどのように利用されているのかがわかるようになりました。それを一歩進めて、先回りしてより良い制御を提供できないかと考えたのです」と語る。

働き方改革に後押しされた睡眠負債からの脱出という社会的な要請と、テクノロジーに裏打ちされたデータ分析への期待という2つの要因が、このサービスの推進エンジンになっているのである。

睡眠に快適な寝室環境
対応家電との連携で温度や光などを制御して睡眠に快適な寝室環境を実現する。例えば対応照明では、設定した起床時刻に近づくと徐々に明るく朝日のような光で(右)目覚めの環境をサポートしてくれる
制御イメージ
取得した睡眠データを基に対応家電を制御。対応のエアコンでは、おやすみ開始から入眠、起床にかけて、季節や睡眠状態に応じた快適な温度、風向き/風量に自動制御。「暑がり・寒がり」、「布団の種類」などアンケートに答えることで個人に合った設定にカスタマイズできる

「くらしアップデート業」の実現へ共創戦略を強化

快眠環境サポートサービスは、パナソニックとしての大きなビジョンの元に進められている点も見逃せない。それは同社が1年ほど前から打ち出している「くらしアップデート業」への取り組みだ。家電メーカーの域を超えて、人々の暮らしをよくすることを生業とする、次の100年を見据えた同社の基本戦略である。

それを具現化するのが、住宅内の設備や家電、各種センサーなど管理する統合プラットフォーム「HomeX」だ。今回の快眠環境サポートサービスそのものはHomeXの一部というわけではないが、「人」と「暮らし」をデジタルで結びつけるという点では同一線上に位置付けられるだろう。

こうした大きなビジョンはパナソニックだけでは実現できない。そこで同社が強化しているのが共創戦略だ。今回は西川という寝具のトップメーカーとの共創だが、その輪はさらに大きく広がりつつある。同社が共創の場として2019年4月に原宿に開設した「&Panasonic」では、いろいろな業種業態の企業と共創に向けた話し合いが進められている。

菊地真由美氏

「快眠環境サポートサービスにおいても、より良い眠りに貢献したいという想いを持ったパートナー企業との共創を今後検討していきたいです」と菊地氏は語る。

最後に菊地氏は西川との共創で生まれた快眠環境サポートサービスについて「眠りに対しては『こんなものだ』と諦めている方もまだまだいらっしゃいます。快眠環境サポートサービスは長くお使いいただけるとその価値を理解いただけると思います。皆さまに寄り添ったサービスで“いい眠り”の提供に貢献していきます」と抱負を語った。

快眠環境サポートサービス

睡眠の結果を可視化、アドバイスで、
よりよい睡眠環境を提供

快眠環境サポートサービス
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