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特別対談 日本将棋連盟 棋士 九段 木村一基氏×プルデンシャル生命保険 代表取締役社長 兼 最高経営責任者 濱田元房氏特別対談 日本将棋連盟 棋士 九段 木村一基氏×プルデンシャル生命保険 代表取締役社長 兼 最高経営責任者 濱田元房氏将棋と経営に共通する「攻め」と「守り」考え抜いて最良の一手を指す

近ごろ将棋が何かと注目されている。年齢にかかわらず、深い読みや一瞬のひらめきによる一手でタイトル獲得や順位が決まる実力勝負の世界だ。一方、会社経営においては、時代ごとの社会環境や顧客の価値観などを見極め、会社の存続をかけた判断が迫られる。「攻め」か「守り」か。「人」か「AI」か。異なる世界の二人が、将棋と経営の共通項をひもときながら“対局”した。(文中敬称略)

「受け」は「攻めの準備」

濱田 木村九段は昨年、史上最年長で初タイトルを獲得されました。若手の躍進も注目を集めていますが、我々世代にとってはまさに希望の星です。最近の将棋人気をどう感じていらっしゃいますか。

木村 羽生善治九段の若い頃のように、藤井聡太さんの活躍によって、最近また将棋に興味を持っていただく機会が増えました。お子さんを持つ親御さんの関心も高いです。将棋は「子どもの根気を養うのにいい」と考えられているようです。

濱田 私と木村九段との出会いは、30年近く前になりますね。千葉県内の将棋教室で、当時奨励会三段だった木村さんにご指導いただきました。その後プロ棋士になられた際のお祝いに伺ってから長い間ご無沙汰しておりましたが、昨年、王位獲得の祝勝会にお邪魔して23年ぶりに再会しました。今や木村九段は「千駄ケ谷の受け師」と呼ばれる棋風で有名ですが、どうして相手の攻めを真っ向から受けるようになったのでしょうか。

きむら かずき

きむら かずき/1973年、千葉県四街道市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。棋士番号222。1997年にプロ棋士となり、2017年九段に昇段。2019年には、46歳3カ月という史上最年長で初タイトル(王位)を獲得。丁寧で分かりやすく、ときにはサービス精神旺盛な解説にも定評がある。体力づくりのために、週に2、3回、6〜7kmを走っている

木村 誰もが好きな手を指したいものです。しかし、勝つためには攻めだけではだめで、相手の狙いを防ぐ受けも必要です。受けは、思い切り攻めるための準備と考えています。

濱田 おっしゃる通り、「相手の狙いは?」「相手は何を嫌がるのか?」など、対局相手の狙いを深く考え、その胸中を理解しない限りなかなか勝てませんね。相手の出方を読みつつ自分の要求を通すことが大切なのだと考えていますが、これは、さまざまなステークホルダーと難題を話し合う状況と似ていると感じています。ところで、木村九段は史上最年長でのタイトル獲得が注目されましたが、年齢で変わるものは何かありますか。

木村 年をとればとるほど集中力を持続することが難しくなってきますね。それでも人生経験を積むことで、全力で何かに取り組むには、十分な備えや強い気持ちがいかに大切なのかということに気づかされたり、「こういう考え方もあったのか」と新しいアイデアにたどり着いたり、悪いことばかりでもありません。濱田さんは年を重ねられてからまた将棋教室に通われるようになりましたが、それは経営者になったことと関係はありますか。

濱田 いえ、藤井聡太さんと対局する木村九段を見て、純粋にまた将棋を指したいと思っただけです(笑)。将棋も経営も最善の策を見つけることは大変です。しかし、それ以上に大切なことは、決して悪い手を指してはならないことだと学びました。そういう意味では、将棋と同様、たった一つの悪い手が会社を傾けることにもなりかねません。

木村 どんなことを心掛けているのですか。

濱田 「短期と長期」「攻めと守り」「三方よし」など、さまざまな観点からバランスのとれた意思決定をするということでしょうか。まずは全体を俯瞰(ふかん)し、優先事項や優先順位をしっかりと見極めるようにしています。大局を見る、考え抜く、根気という点では将棋と共通するものがあるかもしれませんね。

複数の選択肢から最良の手を指す

木村 チェスをはじめ世界に将棋のようなゲームはたくさんあるのですが、相手から奪った駒を使えるのは、実は日本の将棋だけなんですよ。持ち駒を含めて、今自分が優勢なのか劣勢なのかを把握して、自分の勘や読み、データを頼りに指すべき手を数パターンに絞るんです。ときには堂々巡りをすることもあります。もちろん、最良の選択をしても、将棋は相手がいることなので指してみないと分からない部分もあります。

濱田 将棋は誰にも相談できませんからね。その点、企業は組織で動くことができます。私は役員から現場の社員まで意見をしっかりと聞き、最終的には経営トップとして責任を持って決断するように心掛けています。
 持ち駒というと語弊がありますが、経営資源としての社員の経験や知恵は不可欠です。将棋と違って、人は育てることでその力や可能性が無限に広がり、大きな戦力になります。コロナ禍で変わった環境にも社員はうまく適応して、進化を続けてくれています。木村九段の生活は変わりましたか。

木村 自宅ではパソコンで研究して、夕方になるとランニングして体力をつけてと、これまでと変わりません(笑)。ただ、ファンの方と交流するイベントが中止になっているのが残念ですね。将棋は大勢の観客がいるわけではありませんので、対局自体は予定通り行われています。そのための準備として、将棋ソフトで「同業者の気づかない手」などを研究して、柔軟な思考を身に付けるように努めています。保険の営業スタイルには変化はありませんか。

はまだ もとふさ

はまだ もとふさ/1964年、京都府生まれ。大阪大学理学部卒業。88年リクルート入社。92年、プルデンシャル生命保険入社、2004年執行役員、2012年取締役兼執行役員専務、2018年4月、代表取締役社長兼最高経営責任者に就任。京都産業大学通信制大学院(経済学研究科)を2019年3月に修了、研究テーマは「企業組織の集団的意思決定」

濱田 当社の保険営業は対面が基本ですが、コロナの感染拡大でお客さまに直接お会いする機会は激減しました。今年3月には顧客と社員の健康を守るために、対面営業を自粛しました。危機を回避するために、今は「守りに徹するべき」という判断でした。
 一方で、4月からオンライン商談の環境を整え、6月には完全にリモートで契約締結できるようにしました。おかげで、お客さまから平日のすき間時間に気軽にご相談いただいたり、一人暮らしのお子さまと実家のご両親を交えてライフプランを話し合ったりと、これまでにない事例も増えました。選択肢の限られるなかで緊急措置として講じた策ですが、結果的に対面とオンラインのハイブリッドという新しいスタイルを確立できたのは、いい意味で想定外でした。

木村 私もこの時期をプラスととらえ、将棋ソフトを使った研究をさらに深めたいと思っています。AI将棋ソフトの出現によって、戦術の常識が覆された部分もあります。ただ、自分独自の戦法にするには個性や工夫が必要です。機械に頼らず自分の頭で苦労して考えることが大切で、そのために必要なのは根気です。かつて「将棋は40歳を超えると無理」といわれましたが、意欲さえあればやれるはずです。その意味で、私自身が「実験台」だと思っています(笑)。「ここまでやった」と思えるよう、そして悔いのないよう、今後も研究と学びを続けていくつもりです。

濱田 生活の多様化が進んで保険を取り巻く環境も大きく変わりました。お客さまお一人お一人の人生を将棋の盤面ととらえると、ご契約後の時間経過とともに実にさまざまな“想定外”が起きるものです。不安やピンチが生じた際には、頼りになる当社のライフプランナーと最新の技術を駆使した「人×マシン」の戦略で寄り添い、次の手をご提案したいと思っています。本日はありがとうございました。

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