日経ビジネス電子版 SPECIAL
エンタメ産業を進化させる産学協同プロジェクトが始動
岡本 美津子 氏、松田 洋祐 氏

累計出荷・ダウンロード販売本数8000万本以上の「ドラゴンクエスト」シリーズや、同1億4900万本以上を記録している「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズをリリースしてきたスクウェア・エニックス・ホールディングスは、130年以上の歴史を誇る東京藝術大学との産学協同に取り組んでいる。
本稿では、今年度から「大学院映像研究科ゲームコース」を新設した東京藝術大学の副学長、岡本美津子氏を招き、同社代表取締役社長である松田洋祐氏とともに産業界、学術界双方に及ぼす連携の効果などについて語り合っていただいた。

エンタメ産業を進化させる産学協同プロジェクトが始動岡本 美津子 氏、松田 洋祐 氏

累計出荷・ダウンロード販売本数8000万本以上の「ドラゴンクエスト」シリーズや、同1億4900万本以上を記録している「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズをリリースしてきた株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスは、創立130年以上の歴史を誇る東京藝術大学との産学協同に取り組んでいる。
本稿では、今年度から「大学院映像研究科ゲームコース」を新設した東京藝術大学の副学長、岡本美津子氏を招き、同社代表取締役社長である松田洋祐氏とともに産業界、学術界双方に及ぼす連携の効果などについて語り合っていただいた。

連携の発端は双方の課題意識

連携の発端は双方の課題意識

岡本 美津子 氏

ゲームを体系的に学ぶ機会を提供し次世代を切り開く人材を育成したい 東京藝術大学 副学長(国際・ダイバーシティ推進担当)  岡本 美津子 氏

ゲームを体系的に学ぶ機会を提供し次世代を切り開く人材を育成したい 東京藝術大学 副学長(国際・ダイバーシティ推進担当)  岡本 美津子 氏

松田 ゲームは総合エンターテインメントであると同時に、総合芸術の域に達しています。日本はゲーム産業が盛んでありながら、ゲーム全体を研究対象とする学術機関が少なかった。ゲームに対する認識を教育現場から変革していきたいと考えていたところ、東京藝大から連携のお話をいただきました。
岡本 実は2015年ごろ、CG-ARTS協会の方から「ゲームクリエーターには生物の骨格構造や重心、重力の作用など基礎的な知識が必要であり、プログラミング・スキルだけでなく芸術的な力量も求められる」と御社スタッフが話されていたと耳にしました。
 一方、「映画」「アニメーション」「メディア映像」専攻を保有している本校大学院映像研究科が、映像表現の進化版ともいえる「ゲーム」を扱わなくていいのか、という問題意識も顕在化していた。そこで、御社に話を伺いに行ったのです。
松田 発想を具現化する学生たちの試みがゲームの幅を広げるはずだし、ゲーム開発者も学生との共同作業から新鮮な着想を得るに違いない。連携は弊社にとっても魅力的な話でした。
岡本 芸術分野ではゲームに関する教育ノウハウが蓄積されておらず、しかもデジタルネイティブ世代の学生相手ですから、産業界の協力は不可欠でした。
 カリキュラム開発には2年ほどかかりましたね。将来的にはゲーム学科設立を目指し、まずは2017年に「東京藝術大学ゲーム学科(仮)展」がスタート。2018年は「ゲーム学科(仮)0年次展」として取り組み、ついに昨年、ゲームコースの設立がかないました。

発想優先のメンター制度を構築

発想優先のメンター制度を構築

松田 洋祐 氏

藝大生の豊かな感性と具現化力がゲーム業界に新たな視点をもたらす スクウェア・エニックス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 松田 洋祐 氏

藝大生の豊かな感性と具現化力がゲーム業界に新たな視点をもたらす スクウェア・エニックス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 松田 洋祐 氏

岡本 映像研究科では、学生1人当たり1プロジェクトを遂行していますが、各プロジェクトに御社社員が専任で付いてくださる「1プロジェクト1メンター制度」を採用してくださった。このぜいたくな計らいに感謝しています。教員もメンターのアドバイスや進捗状況をリアルタイムで確認することができるこの制度は、スムーズな指導にもつながっています。
松田 メンターに任命された社員にはそれなりの負担もあると思いますが、人に教える経験は、将来の後進指導にも役立つはず。結果的に彼らのスキルアップにもなっています。
岡本 メンターの方々は、マジョリティに向けたコンテンツの開発者であるにもかかわらず、学生のアイデアや目標を尊重してくださいます。新しいものを受け入れる土壌が整い、かつ、社長が目指す産学連携の意図を社員が理解している会社なのだということが表れています。
松田 エンターテインメント・ビジネスは、お客様の期待をどう超えていくのかを自問し続けることが大切。メンターにとっては、そういう意味での鍛錬になりますし、藝大生の素晴らしい発想を潰さず創造力に転じさせるという点では、力量が試されるいい機会だと思います。
 とはいえ、藝大生もメンターもクリエーター。お互いリスペクトし合っているからこそ、理想的な協力関係が築けているのではないでしょうか。

芸術視点でゲームを体系化

芸術視点でゲームを体系化

大学で今年度開催した講義

岡本 大学で今年度開催した全8回の講義は、キャラクターデザインからサウンド、ローカライズに至るまで、エンターテインメント産業におけるゲームの歴史や位置付け、その芸術的側面を体系的に網羅した内容でした。音楽、美術、映像など藝大生の学術分野がゲーム業界にリンクしていることが理解できる講義だったため、学生たちの心にも響いていたようです。
松田 ゲーム未経験の受講生もいましたね。関心が高まったという感想をいただき、間口を広げられたという実感が湧きました。
 ビデオゲーム産業は1970年代に興った比較的歴史の浅い分野ですが、太古からある「遊び」という人類文化の本質的なものを構成しています。それがここ3-40年で加速度的に進化し、UIやAIなどゲームによって高度化したテクノロジーが他の産業で生かされているケースも少なくありません。これまで、あらゆる技術や技法を取り入れ、取捨選択し、洗練させてきたゲームは、学術機関に格好の研究材料を提供できるはずです。
岡本 アートもゲームもゼロからイチを生み出すもの。FF15の制作チームは、荒野を描くためにまず高山に赴き、空気感を肌で感じたというエピソードを講義で聞きましたが、アートと共通する部分があり印象的でした。

松田 肌で感じ、手で生み出すアートと高度なテクノロジーが融合することで、最高のゲーム表現ができるようになると思います。貴校には学術的アプローチで優秀な人材を育成する土壌を整えていただくことを期待しています。
岡本 ゲームコースでは「Animation to Game」を研究テーマとし、アニメーション表現にゲーム性を付加することで、より高度な映像体験が実現するという仮説を立てています。インタラクティブ性が付加された映像という視点で研究する姿勢は、芸術大学だからこそできることと自負しています。
松田 ゲーム制作は、時代ごとの最新テクノロジーを用い、ユーザーが面白いと感じる仕掛けを突き詰めていく作業です。ゲームの基礎的な研究と学習の機会を提供する教育機関の存在は、その体系化に大きく貢献し、結果、ゲーム産業全体にいっそうの深みと広がりをもたらすに違いありません。

業界発展に貢献する人材の育成

業界発展に貢献する人材の育成

業界発展に貢献する人材育成のための講義

松田 ゲームに用いられるデバイスやプラットフォームは劇的に進化し続けています。その進化にしなやかに対応しつつ、未知の体験、未知の面白さを開発する。関わる人間の多様性を生かし、面白い発想を具現化していくことが、我々エンターテインメント企業の使命だと考えています。
岡本 産業界も学術界も、次世代を担う人材の育成と継続的発展のためにはダイバーシティを目指すべきですよね。アートという新しい視点が、ゲームの多様性をさらに広げる可能性もあるのではないでしょうか。

松田 教育機関や研究機関が関わってくださることで、ゲームはさらに進化するでしょう。その期待感から、弊社は今後も教育機関との連携を継続、強化していきたいと考えています。
岡本 藝大というフィールドに求められている開発能力の育成を継続し、さらに発展させるためにも、これからもぜひよろしくお願いいたします。