シーナリーインターナショナル 代表 齋藤 峰明

エルメスの元副社長として、経営者の立場から「ものづくりの本質とは何か?」を
追求してきた齋藤峰明氏。「スコッチの王道」と呼ばれるバランタインのものづくり精神は、
「エルメスらしさ」を問い続ける創業家や職人たちのこだわりに通じるものがあるという。

「いい加減なものをつくるな。これで売れてしまったらどうするんだ」

齋藤峰明氏の耳には、エルメスの5代目社長がデザイナーや職人たちに言い聞かせた言葉が強烈に残っている。

「何をつくったら売れるかではなく、いかに役立ち、喜ばれるものをつくるかを追求するのがエルメスの商品企画です。そこで重要な物差しとなるのが、『エルメスらしさ』。らしくないものを一つでも世に出してしまったら、200年近くにわたって築き上げたブランドの価値が一瞬で崩れてしまうからです」

19歳で渡仏し、三越のパリ駐在所長を経てエルメスに入社。エルメスジャポン社長からエルメス本社副社長へと、経営幹部としての階段を上り続けた。

そもそもエルメスに転職したのは、「職人を大切にするという会社のものづくりはどんなものかを、この目で見たかったから」だと齋藤氏は振り返る。

革製のバッグなどを丹念につくり上げる職人技には目を見張るものがあった。

しかし、それ以上に齋藤氏の心をつかんだのは、大量生産・大量消費の風潮に流されず、手間暇をかけてでも、誰もが「エルメスらしい」と納得するものをつくろうという精神が、職人一人ひとりに深く浸透していることであった。

「つくるものこそ、時代とともに変わりましたが、企業には自らの原点やレゾンデートル(存在理由)を保つために、変えてはいけないものがある。そうした創業家の強いこだわりが、職人やデザイナーたちにもしっかりと共有され、エルメスの伝統が守り抜かれているのです」

副社長として経営の一翼を担った齋藤氏は、当時唯一の外国人の視点からそんなエルメスの価値を改めて見いだし、世界に広めることに取り組んだという。

その後、20年以上勤めたエルメスを2015年に退社。シーナリーインターナショナルというプランニング会社を創業し、人間本来の生きる喜びが得られるライフスタイルの提案を行っている。フランス人デザイナーがアマゾンに暮らすインディオの履物をヒントにつくった「イグアナアイ」というフットウェアなど、ユニークな商品を数多く手掛けてきた。

齋藤氏がプロデュースした「イグアナアイ」。まるで裸足で歩くような皮膚感覚を持つユニークなフットウェアだ