日経ビジネス電子版 SPECIAL
日台間の連携をさらに強化し双方の産業を次の高みへ 日台間の連携をさらに強化し双方の産業を次の高みへ日台間の連携をさらに強化し双方の産業を次の高みへ
蔡力行 氏、野嶋 剛 氏 蔡力行 氏、野嶋 剛 氏
MediaTek 最高経営責任者 蔡力行 氏、ジャーナリスト 大東文化大学社会学部特任教授 野嶋 剛 氏

世界トップ15の半導体企業のうち最も操業年数が短いMediaTekは、ワイヤレス通信、スマートデバイス、スマートホームという3つの主要分野でチップ設計サービスを提供する台湾企業だ。アジアや欧米に50以上の拠点を構え、世界市場に深く関わってきたMediaTek。その最高経営責任者である蔡力行氏に、同社の開発戦略や日本企業との関係について伺った。

蔡力行 氏、野嶋 剛 氏

世界トップ15の半導体企業のうち最も操業年数が短いMediaTekは、ワイヤレス通信、スマートデバイス、スマートホームという3つの主要分野でチップ設計サービスを提供する台湾企業だ。アジアや欧米に50以上の拠点を構え、世界市場に深く関わってきたMediaTek。その最高経営責任者である蔡力行氏に、同社の開発戦略や日本企業との関係について伺った。

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MediaTekが近年注力している 技術開発分野をお聞かせください。

 MediaTekは、過去23年間で多様かつ豊富な知的財産データベースを蓄積してきました。これを迅速な製品開発に役立て、例えば5G分野では、最先端の5Gシステムオンチップ(SoC)であるDimensityシリーズを世界に先駆けてリリースすることができました。
 また、近年ではAI開発にも注力してきました。現在は、さまざまなスマートデバイスやアプリケーションの核となるテクノロジーを育成。オブジェクトトラッキング、顔検出、画質向上といった強力で安全なリアルタイムAI機能をエッジデバイスに提供しています。
 高性能エッジコンピューティング機能は今、端末のAI機能を進化させ、既存のAI体験を激変させることが予測されています。そのため当社では、 クラウドからターミナルへの移行を推進し、ターミナル型AIアプリケーション設計の技術力強化も図っています。

蔡力行 氏
世界のグローバル企業とはどのような連携をしてきたのでしょうか。

 MediaTekは世界で4番目に大きなファブレス(工場を持たない)半導体企業です。当社の半導体チップは、年間約20億台のデバイスを駆動させており、主要グローバルブランドのAndroidタブレット、スマートTV、音声アシスタント、インターネットなどに役立てていただいています。 また、コネクタやその他のチップ市場では既に主導的役割を担っており、スマートフォンやウェアラブル端末用チップの製品ラインは、世界で最も優れていると自負しています。
 ソニー、パナソニック、東芝、ヤマハなど日本を代表する企業とも長年にわたり協力関係にあり、深いつながりを維持してきました。 最近では、5G業界のエコロジー推進にも協力しており、国際的リーディンググループのメンバーとして、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクとも協力体制を築いています。

日台企業の技術連携に対する思いをお聞かせください。

 日本は、長きにわたり半導体技術の強固な基盤を形成してきました。その優れた人材と研究開発能力により、多くのコンシューマー向け電子製品は、非常に高いブランド認知度と世界的な影響力を持っています。 台湾と日本は、相互感情がよく交流も活発ですから、補完的な協力関係を築くことにより、利益をもたらし合うことができると考えています。
 MediaTekは、高度に統合された革新的なチップ設計ソリューションを提供し、迅速な製品実装を支援しています。より多くの日本のパートナーと強い信頼関係を築き、共に新たな市場機会をつかむことを楽しみにしています。

未来の生活を変える5GとAI分野で半導体産業バリューチェーンの最前線へ MediaTek 最高経営責任者 蔡力行 氏
#Journalist's view今こそ日台総合アライアンス計画に着手すべきとき
ブランドなき発展と二兎戦略の成功

 台湾には、自社ブランド(PB)を展開せずに成功を収めたTSMCやホンハイなどの企業がある。今や世界のサプライチェーンを支えている彼らは、製造技術の集約化と下請けの高度化を推進し、他の追随を許さない技術力を背景に世界市場における圧倒的シェアを確保した。
 一方で、OEMやODMで成長を遂げ、PBでも顕著な成功を収めた例がある。私はそのモデルを「二兎戦略」と呼んでいるが、二兎を得た例は、台湾の自転車産業に見ることができる。
 GIANTとMERIDAに代表される台湾自転車メーカーは、1970年代から欧米のメーカーに部品を供給、組み立てに至るまで請け負うようになった。その過程で技術を磨き、1990年代ごろからPB開発をスタートさせて成功を収めてきた。
 台湾企業がこれほどの飛躍を成し遂げた最大の理由は、グローバル化と国際分業である。世界中の大企業の下請けをしているうちに、技術力が向上。人件費が安い中国本土に製造拠点を設け、生産能力も高めていったのだ。
 これまでのPBなき発展や「二兎戦略」は、台湾製造業全体が注視すべき重要戦略だ。例えばスニーカー。台湾は世界のスニーカー製造において圧倒的シェアを誇っており、ナイキのスニーカーも多くが台湾製といわれている。しかし、生産力・デザイン力を有しているにもかかわらず、台湾にはまだ世界的知名度のある靴メーカーが存在しない。こういった分野は、台湾産業の高度化への貢献が期待されていると見て間違いない。

野嶋 剛 氏ジャーナリスト 大東文化大学社会学部特任教授 野嶋 剛 氏朝日新聞社で政治部、台北支局長、国際編集部次長などを経て2016年に独立。中国・台湾・香港・東南アジア問題に精通し、『台湾とは何か 』(ちくま新書、第11回樫山純三賞)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語 』(小学館)など著書多数。
自転車体験施設「MERIDA X BASE」MERIDAが昨年、伊豆に開業した世界最大級の自転車体験施設「MERIDA X BASE」。同社最新モデル自転車のレンタルの他、温泉施設なども併設。(写真提供:野嶋剛氏)
日台関係を深めるアライアンスの構築を

 台湾はこの10年ほどで「TAIWAN」のブランド力を向上させてきた。加えてコロナ禍中の大胆な政策が大きな成果を上げ、民主主義の健全さも世界中に知らしめた。また、コロナ禍の影響で、中核産業である電子産業や半導体ビジネスがプラス成長に。自転車産業においても、世界的な健康ブームが追い風になる。好条件が揃った今は、技術力を生かして世界に挑戦し、Taiwan Excellenceをはじめとする台湾製品の知名度をさらに高めていく絶好のタイミングといえる。
 米中貿易摩擦の影響により、米中サプライチェーンのデカップリングの促進も予測されている。実際に部品調達を中国から台湾へ移行するケースも増えてきているが、日本同様に台湾も操業コストの高さが課題だ。そこで、今注目されている生産拠点候補であるアジア新興国への進出に向け、日台企業や政府による共同出資などの方策を検討してもいいのではないだろうか。
 長年、台湾と日本の相互感情はとても良好であるにもかかわらず、産業界が望むほどの経済連携は進んでいない。だが今こそ、日台間アライアンスの構築に真剣に取り組むべきだと思う。
 そこで提言したいのは、産業連携を軸に文化交流や学術交流を連動させた総合アライアンス計画への着手だ。例えば、就業者や学生向けプラットフォームを政府レベルで構築するなど、次世代の人材流動を促進する多角的プロジェクトを立ち上げることで、日台関係はさらに深化するだろう。
 日台は、相互連携や補完関係を多面的に広げることで、産業や経済の関係が自然と深まっていくという好循環が目指せる。だからこそ、広い視野で長期的・総合的に緊密化を図ってほしいし、まさに今が最善の時といっても過言ではない。

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MediaTekが近年注力している技術開発分野をお聞かせください。

 MediaTekは、過去23年間で多様かつ豊富な知的財産データベースを蓄積してきました。これを迅速な製品開発に役立て、例えば5G分野では、最先端の5Gシステムオンチップ(SoC)であるDimensityシリーズを世界に先駆けてリリースすることができました。
 また、近年ではAI開発にも注力してきました。現在は、さまざまなスマートデバイスやアプリケーションの核となるテクノロジーを育成。オブジェクトトラッキング、顔検出、画質向上といった強力で安全なリアルタイムAI機能をエッジデバイスに提供しています。
 高性能エッジコンピューティング機能は今、端末のAI機能を進化させ、既存のAI体験を激変させることが予測されています。そのため当社では、 クラウドからターミナルへの移行を推進し、ターミナル型AIアプリケーション設計の技術力強化も図っています。

世界のグローバル企業とはどのような連携をしてきたのでしょうか。

 MediaTekは世界で4番目に大きなファブレス(工場を持たない)半導体企業です。当社の半導体チップは、年間約20億台のデバイスを駆動させており、主要グローバルブランドのAndroidタブレット、スマートTV、音声アシスタント、インターネットなどに役立てていただいています。 また、コネクタやその他のチップ市場では既に主導的役割を担っており、スマートフォンやウェアラブル端末用チップの製品ラインは、世界で最も優れていると自負しています。
 ソニー、パナソニック、東芝、ヤマハなど日本を代表する企業とも長年にわたり協力関係にあり、深いつながりを維持してきました。 最近では、5G業界のエコロジー推進にも協力しており、国際的リーディンググループのメンバーとして、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクとも協力体制を築いています。

蔡力行 氏未来の生活を変える5GとAI分野で半導体産業バリューチェーンの最前線へMediaTek 最高経営責任者   蔡力行 氏

日台企業の技術連携に対する思いをお聞かせください。

 日本は、長きにわたり半導体技術の強固な基盤を形成してきました。その優れた人材と研究開発能力により、多くのコンシューマー向け電子製品は、非常に高いブランド認知度と世界的な影響力を持っています。 台湾と日本は、相互感情がよく交流も活発ですから、補完的な協力関係を築くことにより、利益をもたらし合うことができると考えています。
 MediaTekは、高度に統合された革新的なチップ設計ソリューションを提供し、迅速な製品実装を支援しています。より多くの日本のパートナーと強い信頼関係を築き、共に新たな市場機会をつかむことを楽しみにしています。

#Journalist's view今こそ日台総合アライアンス計画に着手すべきとき
野嶋 剛 氏ジャーナリスト大東文化大学社会学部特任教授 野嶋 剛 氏朝日新聞社で政治部、台北支局長、国際編集部次長などを経て2016年に独立。中国・台湾・香港・東南アジア問題に精通し、『台湾とは何か 』(ちくま新書、第11回樫山純三賞)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語 』(小学館)など著書多数。
ブランドなき発展と二兎戦略の成功

 台湾には、自社ブランド(PB)を展開せずに成功を収めたTSMCやホンハイなどの企業がある。今や世界のサプライチェーンを支えている彼らは、製造技術の集約化と下請けの高度化を推進し、他の追随を許さない技術力を背景に世界市場における圧倒的シェアを確保した。
 一方で、OEMやODMで成長を遂げ、PBでも顕著な成功を収めた例がある。私はそのモデルを「二兎戦略」と呼んでいるが、二兎を得た例は、台湾の自転車産業に見ることができる。
 GIANTとMERIDAに代表される台湾自転車メーカーは、1970年代から欧米のメーカーに部品を供給、組み立てに至るまで請け負うようになった。その過程で技術を磨き、1990年代ごろからPB開発をスタートさせて成功を収めてきた。
 台湾企業がこれほどの飛躍を成し遂げた最大の理由は、グローバル化と国際分業である。世界中の大企業の下請けをしているうちに、技術力が向上。人件費が安い中国本土に製造拠点を設け、生産能力も高めていったのだ。
 これまでのPBなき発展や「二兎戦略」は、台湾製造業全体が注視すべき重要戦略だ。例えばスニーカー。台湾は世界のスニーカー製造において圧倒的シェアを誇っており、ナイキのスニーカーも多くが台湾製といわれている。しかし、生産力・デザイン力を有しているにもかかわらず、台湾にはまだ世界的知名度のある靴メーカーが存在しない。こういった分野は、台湾産業の高度化への貢献が期待されていると見て間違いない。 

日台関係を深めるアライアンスの構築を

 台湾はこの10年ほどで「TAIWAN」のブランド力を向上させてきた。加えてコロナ禍中の大胆な政策が大きな成果を上げ、民主主義の健全さも世界中に知らしめた。また、コロナ禍の影響で、中核産業である電子産業や半導体ビジネスがプラス成長に。自転車産業においても、世界的な健康ブームが追い風になる。好条件が揃った今は、技術力を生かして世界に挑戦し、Taiwan Excellenceをはじめとする台湾製品の知名度をさらに高めていく絶好のタイミングといえる。
 米中貿易摩擦の影響により、米中サプライチェーンのデカップリングの促進も予測されている。実際に部品調達を中国から台湾へ移行するケースも増えてきているが、日本同様に台湾も操業コストの高さが課題だ。そこで、今注目されている生産拠点候補であるアジア新興国への進出に向け、日台企業や政府による共同出資などの方策を検討してもいいのではないだろうか。
 長年、台湾と日本の相互感情はとても良好であるにもかかわらず、産業界が望むほどの経済連携は進んでいない。だが今こそ、日台間アライアンスの構築に真剣に取り組むべきだと思う。
 そこで提言したいのは、産業連携を軸に文化交流や学術交流を連動させた総合アライアンス計画への着手だ。例えば、就業者や学生向けプラットフォームを政府レベルで構築するなど、次世代の人材流動を促進する多角的プロジェクトを立ち上げることで、日台関係はさらに深化するだろう。
 日台は、相互連携や補完関係を多面的に広げることで、産業や経済の関係が自然と深まっていくという好循環が目指せる。だからこそ、広い視野で長期的・総合的に緊密化を図ってほしいし、まさに今が最善の時といっても過言ではない。

自転車体験施設「MERIDA X BASE」MERIDAが昨年、伊豆に開業した世界最大級の自転車体験施設「MERIDA X BASE」。同社最新モデル自転車のレンタルの他、温泉施設なども併設。(写真提供:野嶋剛氏)