日経ビジネス電子版 SPECIAL
特別対談 建築家 妹島 和世氏 UACJ 代表取締役社長 石原 美幸氏

意匠性の高さで世界的建築家も採用 建築物への活用で広がるアルミニウムの可能性

意匠性の高さで世界的建築家も採用 建築物への活用で広がるアルミニウムの可能性

飲料缶やアルミケースなど生活の中でよく目にするアルミニウムは、それ以外にも様々な分野で暮らしを支えている。建材としてアルミニウムを印象的に使用した「すみだ北斎美術館」を設計した建築家、妹島和世氏と素材提供を行ったUACJの代表取締役社長、石原美幸氏に、アルミニウムの役割について多様な視点から語り合ってもらった。

周囲との関係が持てる設計、アルミニウムがヒントになる

 国内最大手のアルミニウムメーカー「古河スカイ」と「住友軽金属工業」が経営統合し誕生した「UACJ」。アルミニウム板の生産能力は年間100万t以上、国内シェアは5割強を占め、世界でもトップクラスに位置する。そのUACJが外壁用のアルミニウム素材を提供したのが、東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」だ。葛飾北斎の作品展示などを通じて、新しい交流を生み出す地域活性化の拠点でもある。

UACJ 代表取締役社長 石原 美幸氏

UACJ 代表取締役社長 
石原 美幸

1957年生まれ。81年に住友軽金属工業入社。生産本部副本部長や名古屋製造所長を歴任し、2013年に古河スカイとの統合により誕生したUACJの執行役員に就任。取締役兼常務執行役員 生産本部長などを経て現職。

 初めて同美術館を目にしたときの印象を、「アルミニウムに青空や風景が映り込み、周囲と一体化して溶け込んでいました」とUACJ代表取締役社長の石原美幸氏は振り返る。設計は、妹島和世氏。建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞をはじめ、様々な国際的な建築賞を受賞している建築家だが、「すみだ北斎美術館」のデザインは簡単ではなかったという。作品保護のために非常に閉じたものが求められながら、同時に地域の人々のために開かれた性格も求められた。周囲にはマンションや小さな民家、線路、公園など様々なスケールが存在している。数多くの制約がある中で選んだのは、大きな1つの塊にするのではなく、周りのスケール感に合わせた小さな塊をつなげて、1つの建物に仕上げるというデザインだ。妹島氏は「江戸時代から歴史をつないできた下町感のある土地に、立派すぎる建物をそびえ立たせるのではなく、周囲と関係が持てる設計にしたかった」と語る。そこで重要な役割を担った素材がアルミニウムだ。

アルミ板の反射率を調整し街中の光を溶け合わせる

建築家 妹島 和世氏

建築家 妹島せじま 和世

1956年生まれ。伊東豊雄氏に師事し、87年に妹島和世建築設計事務所を設立。95年に西沢立衛氏と共にSANAAを設立。日本建築学会賞、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞、紫綬褒章などを受賞。

 「外壁の仕上げに反射率が高いアルミニウムを採用することで、建物に風景が映り込んで、周囲との一体感が高まりました」と妹島氏。さらに、「北斎は、1つの絵に異なる遠近法を入れ込んでいます。そこからならって外壁に角度を付けて、周囲の風景が歪んで映り、実際には一緒に見られない風景が同時に映り込んだりして、不思議な新しい風景を生み出すことを考えました」と教えてくれた。妹島氏の話を聞いた石原氏は、建材としてのアルミニウムの利点を以下のように語る。

 「様々な形への加工が容易で、軽くて施工や設置もしやすい。それでいて、剛性も高いのが特徴です。外壁として使う場合は、耐摩耗性や雨風でも劣化しにくい耐食性の高さが評価されています。そして、光沢があり美しく装飾としても人気があります」(石原氏)

 今回、外壁に採用されたアルミニウムの種類は、UACJが得意とする光輝アルミ合金。マグネシウムを含み美しい仕上がりが特徴で、化学研磨とアルマイト処理の組み合わせによって光沢度の調整もできるため、高級化粧品の容器にも使われる。妹島氏は、「何度も表面の仕上がりの調整をして、公園側は映り込みを強く、マンションや線路側はあまり反射しないように仕上げてもらいました」と工夫を語る。