物流大革命! フィジカルインターネットがもたらす衝撃

オンラインショッピングの利用者が急増している日本では、ECの物流量が拡大する一方で、物流要員不足が深刻化し「モノを容易に運べない」 という危機的状態が到来している。この苦境を打開する可能性の1つが、通信業界を一変させたインターネットをフィジカルな物流の世界でも実現する「フィジカルインターネット」の活用である。ヤマトグループ総合研究所は2020年1月17日、国内外におけるフィジカルインターネットの取り組み状況を解説するシンポジウム「物流大革命! フィジカルインターネットがもたらす衝撃」を都内で開催した。

戦略的イノベーション創造プログラムを土台にした
取り組みで日本の中長期的な物流構造改革に貢献

一般社団法人ヤマトグループ総合研究所
理事長
木川 眞 氏

講演に先立ち、一般社団法人ヤマトグループ総合研究所 理事長の木川 眞氏から、2019年11月に創業100年迎えたヤマトグループの記念事業として立ち上げたヤマトグループ総合研究所の活動について紹介があった。ヤマトグループ総合研究所では2020年から、「フィジカルインターネットを中心とした物流の高度化 」「社会課題の解決」という2つのテーマに絞って、本格的に活動を進めようとしている。

フィジカルインターネットの概念をひと言で表すと、「物流のシェアリングやオープン化、あるいはそれを実現するための標準化である」と木川氏は説明する。しかし、この概念を社会実装するには非常にハードルが高く、「一企業や一業界の域を超えた広がりをもつテーマである」(木川氏)

現在、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中で、ヤマトホールディングスの常務執行役員がプログラムディレクターを務める「スマート物流サービス」についての取り組みが進んでいる。「この取り組みを土台にして、フィジカルインターネットの方向性が作られていく」(木川氏)

一方で、木川氏は「SIPの議論だけでは、デジタルデータを活用した物流のスマート化や効率化を実現することは難しい」と見ている。そこで、ヤマトグループを含む物流事業者が自前主義を脱して互いに経営資源をオープン化し、「デジタルデータの活用とフィジカルな面での進化が 車の両輪となり、日本の物流構造を改革する流れが不可欠である」と述べた。

サプライチェーン全体の最適化に向けた施策

経済産業省
商務・サービスグループ 消費・流通政策課
物流企画室 室長
内田 隆氏

基調講演では経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 物流企画室 室長の内田 隆氏が、まず、物流業界の現状について触れた。自動車貨物輸送における営業用貨物自動車の積載効率を見ると、平成元年の60%から平成27年には40%にまで下がっている。一方で、トラックドライバーに関しては若手人材の確保が困難となり、高齢化が進んで人手不足に陥っている。「このように積載効率が減少したのにドライバー不足となっている現状を改善するには、物流システムにおける生産性向上の課題を解決することが重要である。そこでは、小売り業者やメーカーなども協力し、サプライチェーン全体で取り組む必要がある」(内田氏)

物流システムにおける生産性向上を目指す取り組みとして進められている、SIPの「スマート物流サービス」の実現には、サプライチェーン全体が結び付くことのメリットを打ち出す必要がある。そのキーワードが「共同配送」であると内田氏は指摘した。

内田氏はSIPの中で共同配送の実証を進めていけば、「日用消費財」「ドラッグストア・コンビニなど」「医薬品医療機器など」「地域物流」などの分野において、推計で3割程度配送コストが削減できると見ている。それを証明するために、小売り業者やメーカーも協力した実証を行い、共同配送におけるコスト削減効果の検証結果を、2020年の9月までに公表すると紹介した(図1)。「まずは、サプライチェーン全体でのメリットを数字で示すことが重要です。その上で、ソサイエティ5.0に近づいていく技術の組み合わせを考えるという、2段構えで取り組んでいく」(内田氏)

図1 共同配送の実証に向けたスケジュールと出口戦略

また、内田氏は自動走行ロボットによる新たな配送サービスの構築についても触れ、「物流現場ではロボット化や無人化の取り組みが遅れている。そこについても、フィジカルインターネットの議論と合わせて考えていけばよい」と述べた。

フィジカルインターネットで究極のオープンな共同配送を実現
~課題を抱えた物流を構造改革する~

東京理科大学 経営学部 教授
荒木 勉氏

東京理科大学 経営学部 教授の荒木 勉氏は、「フィジカルインターネットとは、各社ごとに作られた専用の物流ネットワークではなく、複数企業がシェアする物流ネットワークである」と紹介。複数の荷主が共同在庫保管拠点やOCDC(Open Cross Dock Center)を設置した共同配送を利用することで、物流に関わるさまざまな課題が解決できると述べた(図2)。

図2 シェアリングで共同配送するフィジカルインターネット

フィジカルインターネットは、従来のデジタルインターネットがサーバを介して世界中に情報を流通させているように、荷物をそれぞれの物流センターを介してリレーさせ、物流の効率向上を目指す。そのためには、まず容器の規格化が必要になると荒木氏は述べる。「大きさや形はバラバラでも構わないが、最終的に組み合わせれば標準のパレットに収まるようなものが求められる」(荒木氏)

共同配送の海外事例として、荒木氏はカナダのケベックからアメリカのロサンゼルスまで約5000キロの長距離陸上輸送を、単独での輸送から約300km間隔のリレー型(ドライバー計17人が交代)の輸送に変えることで、「早く、かつ、安く」実現できることを紹介した。

日本式のフィジカルインターネットを作るには、海外動向に配慮しながら、日本の法律や規制、慣習に合わせる必要があると荒木氏は指摘。「一番大切なのは、消費者のニーズに合わせること。一方で、自由経済競争の維持、独占禁止法遵守が重要となり、従来のビジネスモデル(郵便、宅急便など)が排除されてはならない」(荒木氏)

2019年末に設立させた「フィジカルインターネット研究会」には、現在18の企業の他にオブザーバの立場として経済産業省、国土交通省、農林水産省が加わっている。最終的には「フィジカルインターネット協議会」の設立を目指し、容器の規格化などをプレーヤーで決めていく。ただし、「プレーヤーだけで決めると声が大きな企業の意見が通るので、中立的な立場として大学教授が調整役として入っていくことも必要」であるとの見解を示した。

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