Transformation to BEV Vol.1

アウディの新戦略「Vorsprung 2030」が
意味するものとは

新たな価値の創造に向けた
アウディの革新的な挑戦

株式会社伊藤忠総研
上席主任研究員
深尾 三四郎

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株式会社伊藤忠総研
上席主任研究員
深尾 三四郎

1981年生まれ。2000年独フォルクスワーゲン本社でインターンシップを経験。03年英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)地理・環境学部卒。ヘッジファンドや国内外金融機関でのアナリストを経て、19年より現職。自動車業界で世界最大のブロックチェーン国際標準化団体「MOBI」ではアジア人として唯一の理事も務める。

国際的にカーボンニュートラルを目標に掲げ、脱炭素化の機運が高まる中、温暖化対策を制約やコストではなく、成長の機会と捉える企業が現れている。それは“100年に一度の変革期”とも言われる自動車産業においても言えることだ。電気自動車の開発競争が激化する中で発表されたアウディの革新的な電気自動車シフト新戦略「Vorsprung 2030」の狙いをひも解いてみる。

VWが20年前から取り組む
経営戦略としての環境対策

 2021年11月10日、英国グラスゴーで開催されたCOP26において、主要市場では35年までに、世界全体では40年までに、販売されるすべての新車を電気自動車(EV)などのゼロエミッション車とすることを目指す共同声明が発表された。世界24カ国と、自動車メーカー11社などがこの声明に署名。そして議長国である英国は、30年までに温室効果ガスを排出する内燃エンジン車の新車販売を禁止する方針を打ち出している。

 また21年には欧州の自動車メーカー数社が、30年までに電気自動車専業メーカーへと転身する方針を打ち出している。その決定はいささか急進的にも思えるが、こうした欧州の環境対策は今に始まったものではないと、伊藤忠総研・上席主任研究員の深尾三四郎氏は、自身の経験を基に振り返る。

 「私が英国にある国際学校を卒業した直後の00年8月、独ニーダーザクセン州ヴォルフスブルクにあるフォルクスワーゲン(VW)の本社で4週間インターンシップを経験しました。そのときに師事したのが当時のVWの環境戦略部長だったホルスト・ミンテ博士です。ミンテ博士には環境報告書の作り方や持続可能な開発について学びました。インターン期間中に、フェルディナント・ピエヒ会長がふらっとオフィスにやって来て、ミンテ博士と『環境(Umwelt)対策は重要な経営戦略(Strategie)だ』と話していて、その2つの単語はとても強く印象に残っています。そのとき作成に携わった『VW環境報告書2001/2002』では、Life Cycle Inventory(LCI)の重要性を説いているのですが、読み返してみるとそれは今のLife Cycle Assessment(LCA)のことであり、改めて多くのことを気づかされます」