新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、業務フローのデジタル化が進んでいる。在宅勤務やテレワークのための環境整備という側面もあるが、デジタル化の目的はそれだけではない。業務効率化、コスト削減から新しい価値創造へと発展させ、中長期的な経営戦略に落とし込む必要があるからだ。大成建設は約20年前からデジタル化を積極的に進め、現在では契約まで電子化する割合が相当数になっているという。コロナ禍で電子化ニーズが高まる中、同社の取り組みの現在と未来について話を聞いた。
建設業界において、大成建設は先駆的な取り組みを行ってきた。1998年から取引先とのEDI(電子データ交換)に着手し、現在は広範な取引をカバーする電子調達システム「総合調達・SUPER-TRIO」を運用。2019年度実績では、建築・土木合わせて、全契約件数の約93%がこのシステムを使い、電子契約した比率は約57 %に上る。2020年度上期でこの数字が約62%まで上がっているが、「コロナ禍による働き方改革が背景にある」と、同社の佐藤賢人氏は話す。
「テレワークが進む一方、契約が書面のままだと『押印のために出社』というケースもあり得ます。感染予防と業務効率化の両面から、契約まで電子化を希望する取引先が増えています」 同社東京支店の飯島 一成氏、大澤龍生氏が所属する建築管理部購買室は、同支店建築の契約を最終承認する部署で、月間契約件数は1000件を超える。
「東京支店購買室では4、5月の在宅勤務率は7 ~ 8割でした。既に電子契約のスキームが確立しているため、取引先が対応していれば双方出社せずに契約遂行が可能です。2020年を通じて電子化の流れは加速したと感じています」と飯島氏。
東京支店建築の電子契約率は、2019年度の71.8%に対して、2020年上期は76.5%まで増えている。コロナ禍で電子契約のメリットに気づき、導入する取引先が増えた証だが、コロナ禍だけでなく、「新たなサービスの利用が起爆剤になった」と3人は口を揃える。それが、コンストラクション・イーシー・ドットコムが提供する電子契約サービス「CECTRUST-Light」だ(図1)。
導入を機に、東京支店建築では約500社の取引先に電子契約の新規利用案内を行った。賛同した取引先は458社。9割以上が新たに電子契約サービスへの参画を決めたという。なぜ、これほど受け入れられたのか。「取引先がメリットを感じやすい仕組みだったため」と飯島氏は言う。
「従来システムでは取引先にも導入・利用コストが発生し、そこで躊躇するケースが多々ありました。業務が効率化するといっても、コストがかかるならメリットは感じにくい。CECTRUSTLightは取引先にコストがかからないので、メリットしかありません」
そのメリットの一例が、契約書類作成にかかる手間の削減だ。大澤氏は実務面でのメリットを強調する。書面での契約の場合、取引先(受注者)が契約書を印刷、製本、押印、印紙を貼って送付し、受け取った大成建設(発注者)でも内容確認、押印、1部返送などの手間がかかる。
「電子契約なら、取引先は電子契約するという方式を選択して提出。当社は内容を確認し、署名。最後に取引先が署名するまでの流れを、すべてクラウド上で完結できます(図2)。また書面契約の場合、契約書類は履行される現場を介してのやりとりとなるため、多くの現場があるとどうしても契約締結までに時間がかかってしまいます。電子契約なら、この書類のやり取りが不要となり、現場としても収集・確認の手間が省け、ここでも効率化が可能です。書類保管スペースが不要になるところも、大きなメリットとして感じられるようです」(大澤氏)
契約データはセキュアなクラウド上で管理され、パソコンですぐに検索できる。これも実感しやすいメリットだろう。CECTRUST-Lightの導入効果を東京支店建築で試算したところ、一連の契約業務に伴う作業時間を75%削減できたという。
これは衝撃的な数字である。削減した分、人的なリソースを他の業務に割り振ることが可能になるため、効率化を起点に生産性、アウトプットの質向上にもつなげられる。こうした効果は大成建設だけでなく、電子契約を交わす取引先も受けられるものだ。
今後、電子化の流れはさらに加速していくと3人は予測している。飯島氏は、現場での皮膚感覚でそれを確信しているという。
「コロナ禍での在宅勤務対応と、電子化による様々なメリットをもたらしてくれるCECTRUST-Lightには、取引割合や一度の取引金額が少ない取引先でも導入の機運が高まっています。この先数年で、相当な割合に増えるのではないでしょうか」
約20年前から取り組んできた電子化の流れを、大成建設は今後も全社をあげて進めていく。
「電子契約の比率を限りなく100%に近づけることが当面の目標です。工事契約などに限らず、様々な領域で契約の電子化を進めていきたい。来年度からは、グループ会社での導入推進を進めていく予定です」と佐藤氏は今後の展望を語った。