「顧客基点」を基にブランドを強化していくべくCX戦略を加速させている三井住友海上火災保険(以下、三井住友海上)。電通デジタルが実施する神戸大学経営学部の寄附講義では、新たな顧客体験の創造を目指す同社の取り組みが紹介された。登壇した三井住友海上のCX戦略の先導者である木田浩理氏に、電通デジタルの髙山隼佑氏が講義を行った神戸大学にて改めて話を聞いた。
電通デジタル・髙山隼佑氏(以下、髙山)木田さんは、多彩な経歴をお持ちですよね。
三井住友海上・木田浩理氏(以下、木田)キャリアのスタートは、新卒で入社した大手通信会社での営業職でした。ただ、私は面白そうと思ったことは、やってみないと気が済まない性格で、その1年後、政治家の秘書になりました。秘書は私一人で、エリアマーケティングや資金集めなど、すべて自分でやらねばならず、ここでデータ分析の基礎を学びました。
その後、データ分析への興味が深まり、統計解析ツールを販売する外資系企業に営業として転職します。お客様に使い方の提案をするには、自社のツールを深く理解していなければなりません。このツールを突き詰めて勉強していたら、いつの間にかデータサイエンティストになっていました。
このデータサイエンティストのスキルを現場で生かそうと、次に転職したのが老舗百貨店です。全く未知の業界で、婦人服売り場に配属されました。現場で接客をする中で多くのことを学びましたね。また、突然店舗スタッフ100人ぐらいを取りまとめることになり、ここでマネジメントを学べたことも大きな経験でした。

木田 浩理氏
三井住友海上火災保険株式会社
経営企画部部長 兼 CXマーケティングチーム長
CMO(チーフマーケティングオフィサー)
NTT東日本、SPSS/日本IBM、アマゾンジャパン、百貨店、通販企業等を経て2018年に三井住友海上にデータサイエンティストとして入社。21年10月より現職。一般社団法人データサイエンティスト協会前理事。一般社団法人金融データ活用推進協会理事、一般社団法人UXインテリジェンス協会所属。最新著書「ビジネストランスレーター ~データ分析を成果につなげる最強のビジネス思考術」日経BP社より3/6発売予定。
髙山その後も数社に転職されて、今の三井住友海上に入社したのが、2018年5月です。
木田三井住友海上のようなトラディショナルな会社を、変えていける面白さがあるのではないかと考えました。最初はデータサイエンティストの組織を立ち上げ、「RisTech(リステック)」と呼ばれる事故や災害などリスクデータの解析で価値を生み出すサービスをリリースしました。その後、当社には顧客基点の強化が必要と思い、社長に進言しまして現在に至ります。今は、データサイエンティストからマーケターになった感じですね。
髙山そして21年10月、木田さんがリードされる「CX(カスタマー・エクスペリエンス)マーケティングチーム」が立ち上がりました。このチームは、どのような役割を担う構想だったのですか?
木田このチームでは、あらゆる行動において、顧客基点であることが最優先事項となります。大きな判断軸は「顧客のためになっているか否か」だけです。顧客体験価値の向上戦略に基づき、しっかりとしたブランドの強化を進め、収益につなげていくことが大事だと考えています。
デジタルマーケティングでは、広告やSEOなどから始めて、オフラインとオンラインを併合するOMOのあり方を考えたり、UX(ユーザー・エクスペリエンス)を改善してアクセスや資料請求をどう増やすか考えたりしています。デジタルデータの取得とお客様のUX改善提案を、同時並行して1年やってきて、やっと形になってきたと思っています。
最初は5人でスタートしましたが、今では、強力なメンバーにも入ってもらい、20人ほどのチームになっています。経営層の中でも「CX」や「顧客基点」という言葉が頻繁に交わされるようになりました。
髙山顧客基点でデータ活用を加速させようということですよね。その重要性を木田さんが訴えるのは、これまでのキャリアの経験があるからですよね。

髙山 隼佑氏
株式会社電通デジタル
ビジネストランスフォーメーション部門
部門長補佐
2007年電通デジタルの前身、電通イーマーケティングワン入社。12~15年に電通へ営業兼デジタル担当として出向。20年より現職。幅広いデジタルマーケティング領域の経験を基にDX/CX組織の立ち上げ支援、マーケティング戦略、アジャイルによる施策の実施、検証等を行う。企業の社内研修講師や、早稲田大学、神戸大学、大阪大学にて招聘講師、非常勤講師として登壇。
木田顧客基点で考えていかなければ、すべてのマーケティング施策は意味がないと思っています。マーケティングのないデータ分析は意味がないですし、データ分析のないマーケティングも意味がありません。この二つが合わさって初めて中身が伴うのです。
損害保険業界で差別化していくためには、機能や価格もそうですが、とくにCXこそが重要なのだというのが我々のチームの考えです。