—— ディズニー コンシューマ・プロダクツ(以下、ディズニー)がパートナー企業向け新プロジェクトとして始めた「ディズニー ヘルシー・テイメント」とはどのようなものですか?
「ヘルシー・テイメント」とは、「ヘルシー」と「(エンター)テイメント」を組み合わせた造語です。現代では、あらゆる面でサステナビリティの観点が求められており、その視点で製品開発や社会活動を行う企業は少なくありません。
ヘルシー・テイメントは、そうした「人や社会、地球をヘルシーにする活動」を行う企業とパートナーシップを組み、ディズニーが持つ「キャラクターや作品のストーリー」の力を使って企業の製品や活動を“楽しいエンターテイメント”にし、パートナー企業の活動のお手伝いをするものです。
優れた取り組みや商品、サービスを持っている企業の中には、その良さをゲスト(消費者)に伝えきれずに悩んでいるケースもあります。一方、ディズニーの強みは、その価値をしっかり、正しく、楽しく伝えられることです。一社の力だけでは思うように進まないケースでも、それぞれの得意な分野を掛け算することで大きなシナジーを生むことができると考えています。
—— ヘルシー・テイメントを立ち上げた背景には何があったのでしょうか。
本社では、2006年からディズニー独自の栄養成分に関するガイドラインを採用しています。これは家族が一緒に楽しみながら健康的な食品を選べるようにサポートする活動です。
米国では子供の肥満が社会問題化しており、子供の健康的な生活の推進が急務でした。将来を担う子供たちの健康のため、ディズニーでは独自の栄養成分ガイドラインに適合したパートナー企業の食品や飲料に「ディズニー・チェック」のマークをつけて販売してもらっています。
これにより、ゲストはディズニー・チェックを目安に楽しんで食品を選ぶだけで、自然にヘルシーな商品を選択でき、健康に近づけることを目指したのです。
どの国や地域の栄養成分に関するガイドラインも、現地での調査に基づき、食事に関する文化や習慣、最新の勧告などを反映し、科学的根拠に基づいた栄養豊富な食事を促進するものです。もちろん日本も例外ではありません。
こうした取り組みはゲスト一人一人の健康に寄与するためのものですが、これを社会や地球の健康というより大きな取り組みに広げたいとの考えから、ヘルシー・テイメントを始めました。
—— ヘルシー・テイメントで目指しているものは何ですか。
ゲストの中には、健康や環境に役立つことをしたいと思っていてもどうすれば良いかがわからない人や、面倒だという人もいらっしゃると思います。
私たちのプロジェクトでは、そうした人たちに “気づき”の機会を作り出し、新たな選択肢を持っていただくことを目指しています。
私たちが大切にしたいのは、正しいことを難しく伝えるのではなく、楽しい方、面白い方を選択したらヘルシーやサステナブルな行動をとっているという状態を生み出すことです。無理なく行動変容を促すことができ、より良い結果へとつながると思っています。
野菜を例にとると、単に「体にいいから食べよう」といっても子供の心には響かず行動を変えることは難しい。しかし、「野菜を使って自分で作った」、「キャラクターの形でかわいい」 などの“楽しい”付加価値で“後押し”するだけで、野菜をおいしいと感じて食べるようになります。そうした一人一人の行動変容の積み重ねが大切で、多くの人がそれを習慣化できれば大きなムーブメントになると信じています。
ヘルシー・テイメントには、「体を整える」、「身に着ける」、「家で過ごす」、「未来を知る」の4つの柱があります。柱を「フード」や「ファッション」「おもちゃ」といった従来の業種や組織を連想させる“名詞”ではなく、“動詞”にしたのは、より良い選択というアクションによって、結果がついてくるというイメージを持ってもらえると考えたからです。
—— 実際に行ったヘルシー・テイメントの実例を教えてください。
まず、カゴメさんが行っている野菜摂取推進活動『野菜をとろう あと60g』に賛同し、さまざまな場面で協業しています。
その一つに、カゴメさんとABCクッキングスタジオさん、ディズニーの3社の強みを生かしたイベントの開催があります。カゴメさんの商品を使用し、ABC クッキングスタジオさんとディズニーがディズニーの栄養ガイドラインに準拠したレシピを共同開発。ミニーマウスをモチーフとした料理を作る料理教室を一緒に開催しました。
また、在宅時間が増え、自宅で料理する機会が増える中、家庭で健康的な食事を子供と一緒に食べられるようにオイシックスさんと連携し、ディズニーデザインのミールキットを発売しています。
さらに、2021年4月のアースデイには、食品廃棄物から生まれた染料で彩られた布や服、アクセサリーを展開するプロジェクト、フード テキスタイルを使用したディズニーストア商品をはじめ、複数のパートナー企業と一緒に、地球環境に配慮した200種類以上のライセンス商品を開発・販売しました。
レッグスさんと一緒に展開している「OH MY CAFE」も評判の良い取り組みです。特定の作品やキャラクターをテーマにして、1〜2カ月ごとに料理や内装を変え、非日常空間の中でディズニーの世界観をゲストに楽しんでいただいています。カフェのメニューはすべて栄養ガイドラインに準拠しています。SNSでのコメントは、当初ほとんどが「カワイイ」というものでしたが、徐々に「ヘルシー」「体に優しい」へと変化しており、ヘルシー・テイメントの意図がゲストに伝わった結果とも感じています。
今後は、食事とともに健康に欠かせない運動や、自然の中で体を整えるアウトドア領域をはじめ、さまざまな領域のビジネスにパートナー企業と協業しながら取り組んでいきたいです。
また、取り組みを継続することが大事なので、ディズニーストアでのサステナブル製品の販売やアースデイのイベントを続け、さらに回収した製品のアップサイクルを始めることも考えています。
—— ディズニーでは今後どのような企業とパートナーシップを組みたいと考え、それによりパートナー企業のビジネスの可能性をどのように広げることができるでしょうか?
ヘルシー・テイメントでは商品の物質的な豊かさだけでなく、ゲスト一人一人の心を豊かにするような、ヘルシーでサステナブルな商品やサービスを生み出したいと考えています。まずはこうした理念に共感していただけることが大前提ですが、お互いの専門分野での強みを生かし、スピーディーに動ける企業とのパートナーシップを望んでいます。
ただし、その際忘れてはならないのが、「ゲストセントリック(消費者目線)」であること。ディズニーではテーマパークやあらゆるビジネスにおいて、お客様のことを常に「ゲスト」と呼び、大切にしています。
B to Bビジネスではとかくお互いの企業の目線で事業を進めがちです。しかし、大切なのはその先にいるゲストの満足感。常にこれを念頭に、ゲストの志向のスピードに対応し、期待を超える商品を提供することが長期に渡る成長のカギだと考えています。
これまでディズニーが培ってきたたくさんのコンテンツやキャラクターのファンは多く、パートナー企業にはその幸福で楽しい世界観や情緒的価値を付加することで、ブランド価値を高めていただくことが可能だと考えています。
さらに、企業や団体の活動を楽しい体験に変えれば購入者や参加者増も見込めるのではないでしょうか。