GENERAL REMARKS

今こそ経営に求められるマーケティング視点

マーケティングの世界にも、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が確実に押し寄せている。広告テクノロジーは飛躍的に進化し、効果の可視化、有効なデータの大量取得など、恩恵は多い。だが、複雑化するマーケティングに苦悩する企業も多い。変化を捉え、データの価値を最大化するために、マーケティングにおいていかに舵(かじ)を取ればよいのか。国内外のDX事情に詳しい江端浩人氏に、マーケティングDXの思考法や取り組みのポイントを聞いた。

Profile 江端 浩人氏

江端浩人事務所 代表 / エバーパークLLC 代表 / 情報経営イノベーション専門職大学 教授
米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでiマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長、アイ・エム・ジェイ執行役員CMOなどを歴任。現在は各種企業のDXや次世代デジタル人材の育成に尽力。WONDER BOWLINEの代表も務める。

「あるべき姿」から
逆算して考える

江端浩人事務所 代表 / エバーパークLLC 代表
情報経営イノベーション専門職大学 教授
江端 浩人氏

「DXの最近の成功事例を見ると、数年先の未来を見越して準備していたものが、コロナ禍で時間が早まり、大きな成果につながったケースが多いです」(江端浩人事務所代表/エバーパークLLC代表の江端浩人氏)

例えば、マクドナルドやスターバックス コーヒーは、数年前から将来の需要を見越してモバイルオーダーの仕組みを構築していた。それがコロナ禍を経て収益向上の起爆剤となった。シェアメディカル(東京都千代田区)のデジタル聴診器「ネクステート」は、もともと聴診器の耳の痛さ軽減のためにデータをデジタル化し、好みのヘッドホンで聴けるようにしたいという発想で開発されたもの。それが今、非接触診療や遠隔診療のニーズに乗って爆発的に売れている。

こうしたDXの成功の共通点は何か。江端氏によれば、数年先の「あるべき姿」を想定し、そこから逆算して考える思考方法「バックキャスティング」だという。現状の課題から未来を想定する「フォアキャスティング」とは逆のアプローチだ(図1)。

DXとは文字通り「変革」のことであり、その答えは現状の延長線上にはない。だからこそ、未来の理想形を先に考え、そこから逆算して今を捉える思考法が奏功する。「いま技術がなくても、こういう未来やサービスがあると望ましいという発想で考えていくと、有益なDXにつながることがよくあります」(江端氏)。

図1 : フォアキャスティングとバックキャスティングの違い。DXにはバックキャストによるアプローチが効く
出所:江端浩人 著『マーケティング視点のDX』

マーケティングDXに有効な
「4Pモデル」

マーケティングDXにおいても、未来志向の重要性を江端氏は指摘する。「広告技術の進化は大いに歓迎すべきです。ただ、データも有効に活用できなければ宝の持ち腐れになる。はやりの技術に飛びついてばかりでは、つまずく恐れがあります。最近では『ゼロパーティー・データ』(個人が意図的に広告主に共有するデータ)がトレンドと言われます。個人情報保護の観点によるCookie規制の流れは今後も続くでしょう。技術の進化も日進月歩ですし、未来を予測することは容易ではありません」(江端氏)。

「だからこそ、未来志向で考えるフレームワークが重要」と語る江端氏は、マーケットと向き合うフレームワーク「4Pモデル」を提唱している(図2)。

図2 : 江端氏の提唱するマーケティング視点のDX「4Pモデル」
出所:江端浩人 著『マーケティング視点のDX』

データの目利きと
パートナー選定がより重要に

広告の世界でも、DXは急速に進む。一例は、テレビCMだ。近年、スポットCMをオンラインで1枠から購入できる「スマート・アド・セールス」が開始され、出稿の門戸が拡大された。ビデオリサーチは、2020年3月から視聴率を刷新。従来の世帯単位から個人単位に変更され、テレビCMのデジタルマーケティング化が加速した。

「数年前から注目されている運用型広告は、1つのメディアだけでなく、複数のメディアと広告を組み合わせて運用する形へと進化しています。例えば、テレビ広告とタクシー広告と検索広告の3つを連動させ、リード獲得の確度を上げるなどです」(江端氏)

定量化が難しいとされてきたテレビ広告の効果も、大量のデータを分析することで可能になり、専用のIT基盤を提供する企業が登場している。

広告配信プラットフォームの進化も著しい。メガプラットフォーマーと呼ばれるGAFAに限らず、個性的なプラットフォームが続々と誕生している。

「可視化されるデータの『目利き』、配信プラットフォーム選びの『目利き』がますます重要になります。データを目的化せず、本質を捉え、活用する。当たり前のようですが、見失いがちな点です。とにかく過去の成功体験や既成概念にとらわれすぎず、データと向き合うことが大切です」(江端氏)

江端氏は、マーケティングDX成否の鍵は「人」だと力説する。「デジタルマーケティングの世界は業務が複雑化され、分業化も進んでいます。プロの人材を採用し、育てることは不可避。もちろん、その分野に精通したパートナーの力を借りることも重要です。そして、最後に強くお伝えしたいのが、ぜひマネジメント層にマーケティングDXをもっと学んでほしい。ITなどの知識を若い人から学ぶ『リバースメンタリング』という手法を取り入れる企業もありますし、欧米では通学による学び直しも珍しくありません。結果に対してジャッジするマネジメント層こそ、マーケティングDXについて理解を深め、データドリブン経営を実現してほしいですね」(江端氏)。

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