「水ビジネス」
今後世界を動かす、知られざる大事業

生きるためになくてはならない水。
いまだ海外には、明日の生活用水確保にも難儀する土地がある一方、
国内に目を向けると、盤石と思われたインフラは更新期を迎えている。
100兆円市場ともいわれる水ビジネスで、いかに社会貢献をするのか?
国内外で巻き起こる水問題の解決に、どんな商機があるのか?
日本企業の技術力、まさにその集大成を発揮する時が来た。

総論

世界で、日本で、動き始めた大事業
水ビジネスで脚光、ニッポンの技術力
知られざる「100兆円市場」の最前線

2030年には110兆円市場への成長が予測される水ビジネス。世界では人口増加や途上国の都市化・産業の進展による上下水道の整備需要が拡大。国内に目を向けると、インフラの老朽化による更新需要が高まる。今、世界から熱い視線を送られているのが、「蛇口をひねれば水が出る」極めて高水準な日本の技術力だ。現場では官民連携の動きが加速している。巨大市場の最前線に迫る。

自治体の運営に限界、
水ビジネスの巨大市場が立ち上がる

自治体の手で運営してきた水道事業が、限界に来ている。

少子高齢化による人口減、節水機器の普及などにより、日本の水道使用量は年々減少。国内約1400の水道事業体の収益を合算すると、10年前は約2兆5000億円あったものが毎年200億円ペースで下落し、2兆3000億円まで落ち込んだ。

設備の老朽化も深刻だ。水道管の法定耐用年数は40年、電気設備は7年、機械設備は15年だが、ほとんどの事業体ですでに超過している。全国の水道管を見れば、年間2万件以上の漏水事故が起きている状況だ。

それだけではない。近年、地球温暖化による集中豪雨によって河川の氾濫が多発し、河川近隣にある浄水場や取水場が浸水する事故が増えている。昨年の台風19号で浸水被害を受けた浄水場と取水場は14都県で15施設に及び、8万1298戸に影響が出た。社会インフラの強靭化は喫緊の課題だ。

こうした状況を受け、官民連携の推進に政府も動いた。2011年にはPFI法(民間資金を活用した社会資本整備法)を改正、2018年には水道法が改正された。各自治体は行き詰まった水道事業に民間の活力を導入する動きを加速している。

これをチャンスと見て、すばやく動き出した企業がある。世界最大の水メジャー、仏ヴェオリアグループだ。

グローバルウォータ・ジャパン代表
国連テクニカルアドバイザー
吉村 和就 氏

グローバルウォータ・ジャパン代表で国連テクニカルアドバイザーの吉村和就氏は、2002年に来日したヴェオリアの重役と会談した。その重役は「日本の水市場は可能性に満ちている」と語ったという。人口1億人以上の市場規模、水道システム全体の漏水率は全国平均7%(東京都は3%)、水道料金の未払い率は0.1%以下と、日本の水市場は極めて質が高い。水ビジネスで160年以上の歴史を持ち、世界の水市場を見てきたヴェオリアからすれば、日本は非常に魅力的な市場に映るのだ。その後、ヴェオリアの日本進出は現実のものとなる。

宮城県、189万人の上下水道と
工業用水の運営を民営化

宮城県は経営が難しくなった上下水道と工業用水の運営権を、20年間に限り一括して民間に売却することを決めた。その規模は過去最大だ。給水人口は約189万人、下水道処理対象人口は約73万人に上る。宮城県ではこれを「上工下水一体官民連携運営(みやぎ型管理運営方式)」と名付け、9事業合計で247億円のコスト削減効果を見込む。

上工下水一体官民連携運営(みやぎ型管理運営方式)の要旨広域化のメリットを生かし、資材の調達や設備管理の面でコスト削減効果を見込む
出所:「令和元年度『みやぎ型管理運営方式』に関する県民向け事業説明会資料」をもとに作成

入札の末、宮城県との優先交渉権を得たのは企業10社から成るグループだったが、その中にはヴェオリアがいた。同グループには水ビジネスに関する技術とノウハウを持つ企業だけでなく、建設会社やファイナンス会社など、多彩な企業が名を連ねる。「ヴェオリアが宮城県に提案したのは、老朽化設備を広域化のメリットで改善していくというプランでした」(吉村氏)。つまり、広域化こそ水問題を解決するカギであり、そこに大きな商機を見いだしているというわけだ。

ヴェオリアは、水処理の分野で優れた技術を持つ日本企業11社をすでに傘下に収めている。各社が得意とする分野を効果的に組み合わせ、水処理システムの大規模な効率化を目指しているのだ。

自治体の水道事業を
広域化により再生させる

30万人以上の人口を抱える大きな自治体の水道事業は、どこもひっ迫している。自治体が単独で改善しようとしても効率が悪く、資金も足りない。また、経験のある優秀な技術者が定年退職し、技術の継承が途絶えているところも多い。

「この30年間で、日本の上下水道はヒト、モノ、カネのすべてを失っています。広域化と統合化、官民連携による資金や人材の活用が急務になっているのです」(吉村氏)。設備の老朽化や温暖化問題を解決し、水ビジネスに市場性を持たせるには、ヴェオリアが構想するような大規模な効率化が不可欠だ。

自治体ごとに縦割りだったサービスをつなぎ合わせて広域化し、設備も電力も薬品も一括購入してスケールメリットを出す。設備のあらゆる工程にIoTセンサーを配置し、水質のモニタリングや分析、コントロールを集中管理してコストを下げる。減りつつある水の専門家を広い範囲で効果的に活用する。そうした合理化を進めることで、水道事業は大きな収益を生むビジネスに生まれ変わる。

広域化による問題解決は、宮城県以外にも多くの自治体が検討している。岩手県の北上市と花巻市、紫波町の3つの自治体は、水道事業を統合して広域化を実現した。また、浜松市は市内に11ある下水道処理区のうち、最も大きい西遠処理区の3施設を2018年4月から20年間にわたり「運営委託方式(コンセッション方式)」で運営している。施設の所有権を自治体に残したまま、運営を民間事業者に委ねる方式だ。

こうした自治体の動きは、今後さらに加速していく。

過疎地域で求められる
小型分散型の水ソリューション

大きな自治体が広域化のメリットを引き出そうとする一方、過疎化が進む小さな集落でも水の問題が深刻化している。そうしたエリアでも水設備の老朽化は進み、維持が難しくなっている。

「この分野でも民間の活力を生かして多くの課題を解決できる可能性があります」(吉村氏)。いわゆる限界集落と言われる地域は資金力が乏しく、古い設備をリニューアルできない。そこでは、広域化とは全く異なる視点でハイテクを生かしたミクロな対策が期待されている。

「広域化とは正反対の、小型分散型のソリューションです。集落に1つの高性能な浄水器を導入し、IoTの仕組みを使って遠隔地から低コストにモニタリング、コントロールできるようにします。同じシステムを大量生産し、多くの過疎地域に展開することで市場性を生み出すのです」(吉村氏)

これを実現するには、水に関する技術を持つ企業だけでなく、電気設備やIoT、ネットワークなどに明るい異業種の企業が協力し、システム全体をトータルに設計する能力が求められる。それを実現できる企業グループに勝機がある。

小規模な集落の水事情を解決できるこのようなシステムは、世界的に見ても需要が高い。国内で実績を積むことができれば、東南アジアに点在する多くの過疎地や山岳地帯などで活躍できるだろう。水分野で高い技術力を持つ日本企業は、その最短距離にある。

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日本が持つ要素技術は世界が欲しがるトップレベル

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