
業務効率化がDXではない――あらためて「DXの本質」とは何でしょうか。
繰り返しになりますが、DXとは経営そのものなのです。経営者は企業の維持や発展の責任を担う存在ですから、DXの課題をIT部門やCDO(最高デジタル責任者)などに任せきりにするのではなく、まずは経営者自らが「何をしたいのか」ということを明確にしなければなりません。経営者自らがデジタルを意識した経営ビジョンを打ち出し、社員や株主をはじめとするステークホルダーに発信することから始める必要があります。発信しなければフィードバックもありません。DXとは、単なるデータの活用方法などを言っているのではありません。企業の意思、方向性を明確に示した上で、それが世の中に対して分かりやすく説明できているかどうかがポイントです。とくに中小企業においては、外部を含む様々な“融合”が必要ですが、発信しなければ何も始まらないのです。
まずはいま一度経営の原点に立ち戻り、自社の経営戦略や課題をしっかりと明確化した上で、初めて自社に適切な情報システムの導入といったシステムの刷新へとつながります。今ではSaaS(Software as a Service)をはじめとした様々な便利なツールが提供されているので、大半の情報システムはそれらを活用すれば良く、自社にとって大事なところだけは変化に迅速に対応できるようにアジャイルに変え、自らで作り込んでいくことが必要だと考えます。
今までは基幹システムを丸ごとITベンダーに依頼していた企業が多くありましたが、各々の企業が自社でIT人材を抱えツールを活用して素早く対応できるようになれば、日本の産業構造自体も変わってくるようになるでしょう。
本質的なDX推進の先にある――DXは決して厄介なものではなく、取り組むことで企業の発展に大きく貢献するものになるということですね。
とくに中小企業は大企業に比べて組織が小さいので、社員全体にDXを推進する意識が浸透しやすいと思います。「DXレポート2」では、今すぐ導入できるデジタルツールは活用していこうと伝えています。そして時間をかけながら自社の方向性を見つめ直し、それに対して社内での推進体制を作っていく。そして中長期的には人材の確保もするようにと示しています。すなわち、中小企業には明らかにDXのチャンスがあるのです。
――今後はどのようなメッセージを発信されていくのでしょうか。
経営の方向性にお悩みの企業が多いとのお声を受けて、企業形態を大きく4つに分解し、各々がDXを進めた場合にどのような姿になるかを示せるよう、専門家の方々と議論をしながら進めているところです。方向性や経営ビジョンを策定する上で参考となる共通モデルを示すことができれば、経営者がもう一歩踏み込めるヒントになるのではないかと考えています。

――今回、経済産業省がここまで踏み込んでDXを推進する背景は何でしょうか。
国際機関が発表する各国のデジタル化の進展度合いの指標を見ると、日本は各国に比べて極めて立ち遅れています。日本の良さは現場が強いことだと思いますが、「デジタル」という新しいフェーズになると、それが逆に足かせになっています。日本企業は、担当を割り当てられた業務をこなすという意味においては、おそらく誰よりも優れたアウトプットが出せると思いますが、DXは、その枠組みであるビジネスカテゴリーを壊すことにもなります。DXは異分野との融合であり新しい発想なので、人材が流動化しているほど優位になりますが、日本はどうしても組織を大事にする企業文化が根強く、圧倒的に人材の流動化が進んでいません。一方でそれが日本の働きやすさでもありますが、デジタル技術はそれらすべてをたたき壊す破壊力を持っています。
――決して日本の良さをDXでたたき壊そうと考えているのではなく、日本に合うDXの形を推奨しその手立てを示されていると思います。DXを進めることで、日本の中小企業はどのような発展を遂げると考えますか。
中小企業間でのDXがさらに進めば、トップ企業を筆頭としたピラミッド型の取引構造が崩れていくことになるでしょう。迅速にお客様に対して価値を提供するとなると、今までの取引構造では立ちいかなくなるからです。それはすなわち、中小企業が大企業に依存した従来の取引構造を超えられるということです。もちろん、その企業の製品やサービスに価値と需要があることは大前提ですが、デジタルは国境を越えるので、グローバルな取引も圧倒的にやりやすくなるはずです。組織規模と、従来の構図を超えて展開できる潜在的な優位性を考えると、むしろ中小企業の方がDXの恩恵を受けやすいと言えます。
コロナ禍以前には戻らない――中小企業のDX推進状況をどう見ていらっしゃいますか。また、DXに対して課題を感じている中小企業の経営者の方々にメッセージをお願いします。
これだけ非接触や3密などと叫ばれる社会になり、社会的な強制力が働き、否応なしにDXが推し進められることになりました。今までデジタル化の課題から目を背けてきた企業も、テレワーク制度の導入などを機に本格的なDX推進の入り口に立たされたことは確かです。DXは、変化に素早く対応できる企業文化を作るということなので、まさに試験問題が突如降ってきて試されているといった状況と言えるでしょう。
繰り返しになりますが、DXは中小企業にこそチャンスがあります。大切なことは、まずは経営者が自社の価値とは何かを改めて見つめ直すことです。シンプルなことのようですが、そうすることで必ず自社の差別化要因が見つかりますし、そこで初めてデータを活用する発想につながり、そしてそこで初めて価値を発揮するのがITなのです。システムの刷新だけに目を向けその課題から入ってしまうと、テレワークの導入やペーパーレス化といった単純な業務効率化だけにとどまってしまい、DXの本質である経営変革にまでたどり着くことはできません。厳しく言えば、DXをしない企業は淘汰される可能性がある、そんな時代に突入しています。中小企業の経営者の皆様の多くは、潜在的にこの危機感を感じているはずです。
奇しくもコロナ禍が日本企業全体のDX推進を後押しし、中小企業がDXの第一歩を踏み出すまたとない機会となった今だからこそ、DXの本質を改めてご理解していただき、さらなる発展に向けて、私たちが皆様の第一歩を踏み出せるようお手伝いできればと思います。