環境負荷をできるだけ減らしながら企業を大きく成長させる。企業にもサステナビリティが求められる時代になってきているが、口で言うほど簡単に実現できることではない。だが今、この課題に愚直に向き合っている企業がある。ドイツに本社を置く消費財メーカーのヘンケルだ。同社は2025年をめどに全てのパッケージをリユース・リサイクル可能なものに切り替えると発表。さらに製造工程の見直しやサステナブル教育にも力を入れている。創業以来、145年にわたって世界78カ国で事業を展開し、アドヒーシブ テクノロジーズ(接着技術)、ビューティーケア、ランドリー&ホームケアの3分野で生活に密着した商品を提供してきた同社には、創業者の「生活者を思い、生活を豊かにするための製品を作り続ける」DNAが培われていた。ヘンケルジャパンの浅岡 聖二社長に、同社のこれまでのあゆみと今後について聞く。
聞き手:藤井 省吾(日経BP 総合研究所 副所長)

「消費者の生活を豊かにする」を理念に、
サステナビリティを追求

藤井省吾(以下、藤井) ここ数年、マイクロプラスチックの問題もよく聞くようになりましたが、よく考えてみると自然界に存在しているもの以外はほとんどが合成物。生活に必要なものをそろえるだけでも、石油由来の製品に囲まれているということになります。自社の成長とサステナビリティを両立させるという視点は、今後は非常に重要になってくると思います。

ヘンケルジャパン株式会社
代表取締役社長
浅岡 聖二氏

浅岡聖二社長(以下、浅岡) プラスチックというとケースやビニールを思い浮かべるかもしれませんが、整髪料のヘアワックスの原料にも使われています。それくらい、プラスチックは現代の生活に密着しているのです。一部の原料をナチュラルなものに置き換えることにも積極的に取り組んでいきたいですが、まずはパッケージなどのリユース・リサイクル可能なものから見直していく。それが私たちのような石油を原料にした製品を扱う企業の使命だと考えています。

日経BP 総合研究所 副所長
コンサルティングユニット長
藤井 省吾

藤井 ヘンケルの本社はドイツにあります。欧州はダイバーシティ、サステナビリティの取り組みなどで常に世界を牽引してきました。御社がサステナビリティに積極的に取り組む背景にも、その影響はあるのでしょうか。

浅岡 欧州の企業であることに加えて、創業時の思いが今も引き継がれているのが大きいです。ヘンケルは1876年にドイツで洗濯洗剤の会社として誕生し、徐々に取扱製品を拡大してきました。1954年、日本に代表事務所が設立され、現在は接着技術、ビューティーケアの2事業を展開しています。

当社の製品、サービス、ソリューションを通じて消費者の毎日の生活を豊かにし、向上させることを目指しています。サステナビリティの分野においてリーダーとしての役割を拡大し続けることへのコミットメントは、ヘンケルの企業価値に深く根付いています。創業者のフリッツ・ヘンケルが洗剤を開発した背景には、当時、女性の家事の負担を少しでも軽減したいという思いがありました。創業以来、その思いを受け継ぎながらイノベーションを起こしてきたことが、今日のヘンケルにつながっています。今は資源の消費量を増やさずとも成長し、生活の質をさらに高めていく方法を模索中です。サステナビリティを追求し「新たな価値」を創出しながら、企業として社会に還元できることを増やしていきたいと考えています。

2030年に向けた20年目標は、事業や製品、サービスによる環境フットプリントに対して、創出する価値を3倍にする。

ビジネスに関連するサステナビリティの関連課題と機会を反映した6つの注力分野を定めている

生活者とともに
サステナビリティについて考え、取り組む

藤井 サステナビリティについて、現在はどのような目標のもと、具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか。

浅岡 大きく分けて3つの視点で捉えています。1つ目はモノを作る過程。ヘンケルでは2010年に2030年に向けたサステナビリティに関する20年目標を立てました。ヘンケルの事業活動や製品やサービスによって生じる環境フットプリントに対して創出する価値を3倍にするというものですが、私たちは2020年までにCO排出、廃棄物、および労働安全に関する目標を達成し、全体の効率が2010年比で64%改善する大きな進展を遂げました。効率アップはコストの削減のみならず、電力や水道の使用量も減らします。つまり、「資源を使いすぎない」という環境保全にもつながっているのです。日本には接着剤の基幹工場が4つありますが、電力と水道の使用量を年間5%ずつ減らしていくことを目標にしています。

ヘンケルはCO排出、廃棄物、および労働安全に関する数多くの成果を残してきた(基準年:2010年)

2つ目は、商品そのもの。パッケージのリユース・リサイクルを推進しており、2025年までには全てのパッケージを100%リサイクル可能・再利用可能な素材にします。また、石油由来のバージンプラスチックの一般消費財への使用を50%削減します。再生プラスチック使用比率を30%超まで増やす、プラスチックの全体的な使用量を減らす、バイオプラスチックの使用を増やす、などの手段で達成できる見込みです。

そして、3つ目は生活者とともに考え、取り組むこと。ヘンケルジャパンでは、2018年から年に1~2回、サステナビリティ教育を受けた社員による、小学校への出張授業を行っています。子どもたちにも分かりやすく、普段の生活の中でできるプラスチックごみなどの減らし方や、環境負荷の少ないヘンケルの技術について実験を交えて教えるなどしています。

サステナビリティについて、ヘンケルジャパンの社員が実際に子どもたちに授業を行っている

藤井 次代を担う子どもたちにサステナビリティについて学んでもらうのは、とても重要なことだと思います。将来の消費行動にも良い影響を及ぼしそうですね。

浅岡 生活者の視点に立つことが重要です。企業の独りよがりで、「いい商品だから使ってほしい」と押し付けることだけはしたくありません。AとBという2つの似たような商品があって、「AはBよりも価格が15%高いけれど、環境負荷が少ないからAを買ってほしい」と言われたら、それだけで果たして選んでもらえるでしょうか。環境に負荷をかけない商品を作り、さらにそれを消費者に選択してもらえるような「価値」と伝え方を工夫すること。その結果、選んでもらえるというような好循環を作っていきたいのです。

まずは知ってもらうこと。例えば、レトルト食品のパッケージなどに使われている接着剤。リサイクルをしようと思っても、アルミとポリプロピレン、ポリエチレンのフィルムの間に全て接着剤が使われていて分解できず、リサイクルもリユースも、燃やすことすらできないということがあります。接着剤自体は便利で必要なものだから、不要になったあとも環境を考える存在でありたい。そこで私たちが開発したのが、ある特殊な薬剤を使ったときだけ簡単に剥がれる、という接着剤。これはすでに瓶ビールのラベルなどに採用されていて、水などでは剥がれないので生活者の利便性に影響しません。

ヘンケルの中でもパッケージに関する戦略は重要な位置を占める。2025年に向けた3つの目標達成へ前進を続ける

藤井 欧州の小学校では「一見紙に見える素材を土に埋めて、分解されないことを確認する」といった授業も行われていると聞きました。出張授業の取り組みは欧州発の企業ならではの視点だと思います。イノベーションと発信を積み重ねていくことが変革につながるんですね。

地域に合った取り組みで、
少しでも環境をニュートラルに

藤井 ヘンケルは2017年に、海洋プラスチックの流出を食い止めて貧困に苦しむ人々に機会を 提供することを目指す社会的企業である「プラスチックバンク」とパートナーシップを結んでいます。これはグローバル展開する消費財メーカーとしては世界初だそうですね。

浅岡 「地球規模で考える」という視点も忘れずに持ち続けたいと思っています。日本ではペットボトルのリサイクルが根付きつつありますが、世界に目を向けるとまだその意識がないか、経済的に余裕がないためにリサイクルにまで手が回らないという国もあります。そこでヘンケルのプラスチックバンクへの協力により、廃棄物管理のための基本的施設が整っていないハイチに3つのプラスチック収集センターを開設しました。地域住民がここにプラスチックを持ってくると、金銭や品物と交換できます。これからの地球を考えると、企業も個人も一体となって取り組んでいかないといけないと感じます。この取り組みは現在、フィリピン、インドネシア、エジプトにも広がっています。

藤井 洗剤も接着剤もビューティーケア製品も、世界中の誰もが使うものです。企業として発展していくためには地球規模で環境保全に取り組むという、高い視座からのお話に大変共感します。

浅岡 先ほども申し上げましたが、化学品を扱うメーカーとして、環境負荷を全くのゼロにするのは難しいという自覚があります。だからこそ、少しでもニュートラルな状態にしたいのです。

私は今年で57歳。小学生の頃から「石油はそのうちなくなる」「このまま負荷をかけ続けると、地球はいつか壊れる」と教えられてきました。それでも生活利便性の向上や社会の発展のために、石油は欠かせないと思われてきたのです。ヘンケルという一組織だけでは小さな活動かもしれませんが、少しでもサステナビリティへの取り組みの輪を広げていきたい。たとえ時間がかかっても、取り組み続けることが大事だと、私たちは考えています。

ヘンケルジャパン株式会社
代表取締役社長
浅岡 聖二

1988年京都大学工学部化学工学科卒業、同年カネボウ・エヌエスシー(後の日本エヌエスシー)入社、94年神戸大学大学院より工学博士号取得、2008年ヘンケルテクノロジーズジャパン取締役営業統括本部長、09年ヘンケルジャパン取締役工業用接着剤事業本部長、16年取締役副社長兼接着剤部門統括本部長(工業用接着剤事業本部長を兼任)。2019年より現職。

ヘンケル 会社概要

ヘンケルはバランスのよい、多角的なポートフォリオを備え、産業および一般消費者向け事業をグローバルに展開しています。優れたブランドとイノベーション、テクノロジーを誇るヘンケルは、アドヒーシブ テクノロジーズ(接着技術)、ビューティーケア、ランドリー&ホームケアの3分野において、グローバルリーダーとしての地位を維持しています。1876年に創立し、140年以上に及ぶ成功の歴史があるヘンケルは、ドイツのデュッセルドルフに本社を置き、世界に約53,000人の社員を擁しています。
ヘンケルの日本法人ヘンケルジャパン株式会社は、東京・品川区に本社を構え、ヘンケルのアジア太平洋地域における重要拠点として、グローバルな事業活動の一翼を担っています。日本ではアドヒーシブ テクノロジーズ(接着技術)、ビューティーケアの2つの事業を全国的に展開し、お客様のニーズに応えたきめ細かなサービスを提供しています。サステナビリティの分野をリードする存在として評価されるヘンケルは、多くの国際的指標やランキングでトップの地位を維持しています。2020年の売上高は190億ユーロを超え、営業利益はおよそ26億ユーロでした。ヘンケルの優先株はドイツ株価指数DAXのリストに入っています。

お問い合わせ

ヘンケルジャパン ウェブサイト

www.henkel.co.jp

ヘンケル ウェブサイト(英語)

https://www.henkel.com/