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トップインタビュー / IIJ専務取締役 北村 公一氏

デジタル変革推進する2つの戦略
世界日本企業躍進貢献したい

世界を一変させたコロナ禍、あらゆる産業に押し寄せるデジタル化の波――。大変革期の中、多くの企業がDXに向けた頼れるパートナーを求めている。そのパートナーとして存在感を増している企業が、サービスプロバイダー大手のインターネットイニシアティブ(以下、IIJ)だ。インターネットの発展に貢献してきた高いネットワーク技術を強みに、クラウドやセキュリティ事業も展開する。総合力を生かし、新たな事業戦略も打ち出した。それは顧客にどのような価値を提供するのか。IIJ 専務取締役の北村 公一氏に話を聞いた。

不可逆的なデジタルシフトが加速し、
事業・組織変革がより重要に

株式会社インターネットイニシアティブ 専務取締役 北村 公一氏
株式会社インターネットイニシアティブ
専務取締役
北村 公一
桔梗原 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ニューノーマル時代を迎えつつあります。現在、それから今後の日本企業を取り巻く環境をどのように見ていますか。

北村 以前から多くの企業が働き方改革やダイバーシティの推進を目指し、テレワークに代表されるオフィスIT環境の整備に取り組んできましたが、コロナ禍によってこの流れが一気に加速しました。このインパクトは非常に大きいものの、パラダイムシフトはコロナ禍以前から始まっています。

 現在は第4次産業革命といわれる変革期の真っ只中にあります。18世紀後半の蒸気機関の発明に代表される第1次産業革命、それに続く19世紀の産業分野の技術革新を指す第2次産業革命、そして20世紀後半のコンピュータの出現による第3次産業革命を経て、世界経済は大きな発展を遂げました。しかし、第4次産業革命はこれまでの革命と性質を異にするものだと考えています。

桔梗原 第4次産業革命がこれまでと違う性質を持つのはどのような点なのでしょうか。

北村 第3次産業革命までは、主に製造業をはじめとする「供給サイド」を中心に経済が成長しました。一方、第4次産業革命においてはインターネットをはじめとするITの目覚ましい進化によって、ネットを介したグローバルな「需要サイド」の経済成長モデルが発展しています。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)はその象徴です。IoTやデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業も増えています。このデジタルシフトは不可逆的です。コロナ禍がこの流れを加速させ、国内外のビジネス環境を劇的に変える可能性を秘めている。そんな印象を抱いています。

日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫
日経BP 総合研究所
フェロー
桔梗原 富夫
桔梗原 このような変化の中、企業のDXやITインフラの変革をIIJはどのように支援していくのでしょう。

北村 IIJは強みである「ネットワーク」「クラウド」「セキュリティ」という3つの技術を柱に、サービス事業やインテグレーション事業を展開しています。中でも近年はモバイル/IoT領域のサービス需要が大幅に伸長し、コロナ禍にあっても業績は増収増益を達成しています。

 今後はこれをお客様の事業変革や組織変革につなげていくことが重要です。こうした考えのもと、IIJは2つの戦略的アプローチを展開しています。

 1つはデジタルワークプレース(DWP)の推進です。DWPとは場所や時間に捉われない多様な働き方を実現できるデジタル上のオフィス空間のこと。具体的には、従業員がストレスなく仕事に集中でき、なおかつ意識しなくてもセキュリティを担保できる環境を指します。ただし、これによってシステム管理者の負担が増えるのでは本末転倒です。システム管理者に負担を強いることなく、誰もが・どこでも・どんなデバイスでもセキュアかつ快適に仕事ができる。それがIIJの考えるアフターコロナを見据えたDWPです。

 もう1つはデジタルビジネスプラットフォーム(DBP)の推進です。DWPによる新しい働き方を企業の変革の力にするためには、先進的なネットワークやクラウド、セキュリティ機能を取り入れ、DXを推進する基盤をつくることが重要です。この市場をIIJは「ビジネスクラウド市場」と捉え、それらの企業の先進的な取り組みをIT面で支援するDBPの提供を進めています。

デジタルワークプレースによる
ニューノーマルな働き方を支援

桔梗原 2つの相乗効果で変革を支援していくわけですね。それぞれ具体的にどのような価値を提供できるのでしょうか。まずDWPについて教えてください。

北村 DWPに必要となるメールやインターネット、ファイル管理、仮想デスクトップなどの機能を、IIJはアセットレスのサービスとして提供しています(図1)。  例えば、「IIJフレックスモビリティサービス」は、独自の仕組みによって従来のVPNの課題を解消し「切れない、速い、遅れないリモートアクセス」を実現します。「IIJ IDサービス」は多様なクラウドサービスとのID連携に対応し、多要素認証でのシングルサインオンを可能にします。自宅や外出先などからのリモートアクセスでも、あるいは私物PCを含む多様な端末からのアクセスでも安全・安心な環境で仕事に取り組めます。

桔梗原 多様なサービスをどのように組み合わせるべきか。そうした支援も行っているのですか。

北村 その通りです。DWPで大切なことは「オフィスに集まって仕事をするよりも、生産性を向上させるプラットフォーム」を実現すること。これは3つのステップで段階的に進めていくのが現実的です。

 第1段階は業務の主軸を支える情報システムをクラウド化し、社外でも業務ができる環境をつくること。第2段階は、いつでも・どこでもセキュアで安心して業務に専念できる環境をつくること。そして第3段階は、従業員の成果を見える化して生産性向上に寄与し、管理者も安心して仕事に取り組める環境をつくること。IIJはこの3つのステップに沿って、お客様に最適なDWPの実現をサポートします(図2)。 桔梗原 昨今はサイバー攻撃がますます高度化・巧妙化し、テレワークに象徴されるように社外で仕事をすることも多いため、セキュリティリスクが高まっています。こうした状況を踏まえ、DWPに対してどのような対策を進めていますか。

北村 テレワークが前提となった今、「ゼロトラスト」の考え方が注目されています。ゼロトラストとは、文字通り「信頼しない」ことを前提としたセキュリティの考え方。場所に捉われず、ユーザーやデバイスの状態に応じて「つなぐ」「つながない」を判断・制御できる仕組みが求められています。

 どういう権限の人が、どういう端末なら、どのシステムにアクセスしていいか。あるいは時間を限ってアクセスできるような仕組みが必要になる場合もあるでしょう。お客様ごとのニーズに応じた多様なポリシーに対応できなければいけません。テレワークを支える通信制御の高度化も必要です。

 IIJはこのゼロトラストの考え方を実現するための技術、サービスの開発に力を入れています。これまでの取り組みのベストプラクティスをまとめた「ゼロトラスト実践ガイド」をWeb上で公開し、最適な活用法をお客様と共に考えていく活動も始めました。

デジタルビジネスプラットフォームを軸に
IoTを活用したビジネス変革に貢献

桔梗原 もう1つの戦略の柱であるDBPとは、どのようなソリューションなのですか。

北村 DWPが主に新しい働き方を支えるソリューションなのに対し、DBPは企業の事業部門向けのソリューションとなります。IIJの次世代クラウドサービス「IIJ GIO」を軸にしたオンプレミス資産のクラウド移行、IoTを含む多種多様なデータの収集・蓄積・可視化、閉域網によるマルチクラウド環境のセキュアなデータ流通などを支援します。

 従来の経済モデルは、製造者と消費者が卸や商店、物流業者といった仲介者を通して結び付けられる「1(製造者)x1(仲介者)x1(消費者)」のパイプライン型モデル。物流期間やコストなどの制約が大きいため、地産地消のリアル店舗が経済の主流でした。

 しかし、GAFAに代表される成長企業は、ITの驚異的な進化を支えに複数の製造者と複数の消費者をネット上でつなぐプラットフォーム型モデルを実現しています。このモデルは「N(製造者)x1(プラットフォーム)xN(消費者)」の関係です。時間と場所を飛び越えて、あらゆるモノやサービスがグローバルで流通しています。必然的に地産地消型経済は弱まり、シェアリングエコノミーに代表されるように所有から利用へと消費者の価値観も変化しています。

 パイプライン型モデルからプラットフォーム型モデルへの変革を支援し、新しい事業や新しい顧客体験を創出する。それをITで全面的に支援することが、DBPの目指すところです。

桔梗原 DBPによってどのようなことが可能になるのでしょうか。その具体例があれば教えてください。

北村 ご紹介したい事例は大きく4つあります(図3)。1つ目は製造現場のデータ活用です。生産ラインのセンサーやPLCのデータ、カメラ映像などを閉域ネットワークでつなぎ、製造業に特化したクラウドサービスとエッジコンピューティング技術で有機的に連携させ、生産性と品質の向上に貢献しています。  2つ目が農業分野の取り組みです。農業のIT化の期待が高まっていますが、広大な圃場では電源を確保することが難しい。そこでIIJは低消費電力で広範囲をカバーする通信技術LPWA(Low Power Wide Area)を用いたサービスを開発しました。センサー類は電池で約1年間動きます。これを使って、圃場の水位管理や遠隔監視を実現。深刻な社会課題である農業の人手不足を補い、農作業の効率化を目指す取り組みを支援しています。

 3つ目が生活支援です。家庭内に設置したセンサーで居住者の活動データを取得し、普段と変わりがないかを察知するというもの。主に独居老人の見守り支援に活用されており、AIによる介護予防の実証も進めています。

 4つ目が店舗、マンション、工場、オフィスビルなどのエネルギーマネジメントです。スマートメーターを活用してエネルギー消費を管理することで、無駄な消費電力を削減し、電気代の節約やCO2削減に貢献しています。

桔梗原 IoTの活用がメインなのですか。

北村 もちろん、IoTは注力分野の1つですが、それ以外にも様々な取り組みを行っています。身近なところでは、コロナ禍で利用が急増した動画配信サービスを支える配信プラットフォームを提供し、多数の動画配信事業者に利用されています。並列メモリ処理技術を駆使したFX(外国為替証拠金取引)システム「IIJ Raptorサービス」、地域の医療連携を支える多職種連携プラットフォーム「IIJ電子@連絡帳サービス」など、金融やヘルスケア分野でもプラットフォームの開発・提供を進めています。

あらゆる場所のデータをつなぎ、
価値創出基盤へと発展させていく

日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫
桔梗原 なぜこうしたソリューションを提供できるのか。IIJの強みについて教えてください。

北村 IIJは約30年前に、日本で最初の商用インターネットプロバイダーとしてスタートしました。その後ネットワーク技術、クラウド技術、セキュリティ技術に加えて、大規模なバックボーン、データセンター、さらにMVNOも自前で保有するサービスプロバイダーへと成長してきました。特にMVNOに関しては、SIMの発行からフレキシブルな通信制御まで行える、数少ない「フルMVNO」事業者です。

 IoTビジネスやDXを推進する場合、アプリケーションはもちろん、ネットワーク技術、クラウド技術、セキュリティ技術のすべてが必須となります。これらについて豊富な実績と経験で培った高い技術力を持ち、それをワンストップで提供できるのがIIJの最大の強みです。

 また先ほど紹介した動画配信プラットフォームのほか、デジタル通貨の実用化を目指す関連会社も有し、IIJ自らが新たなデジタルシフトをけん引していく積極的なマインドに溢れています。これもIIJの強みであり特徴であると自負しています。

桔梗原 IIJの強みを生かした提案やプラットフォーム強化にも注力しているそうですね。

北村 DXが今一つ進まない理由として、データの所在管理と連携の問題があると考えています。企業内データはホストやオンプレミス、流通性の高いデータはパブリッククラウドといった分散環境で保有されることが多いからです。これを低リスクで有機的に連携・活用するためには、既存システムに手を加えず、APIやETLを活用したデータハブ機能が必要となります。

 そこでIIJは企業内データや機微データはIIJ GIOのような国内のセキュアなクラウドへ、利用頻度の高いデータは国内外の各種クラウドサービスへ保存するアプローチを推奨しています。これを支えるプラットフォームやネットワークの拡充も進め、安全・安心なデータのやり取りの実現を目指しています(図4)。  その一環として、2019年5月に千葉県白井市に新たなデータセンターをオープンしました。AIやIoTによるデータ爆発時代を見据えた、大規模な自社データセンターです。

桔梗原 顧客企業のデジタルシフトを支援するため、今後どのような活動を推進していきますか。

北村 IIJは今年12月に創業30年目を迎えます。これを一つの節目として、さらなる技術革新を進めていきます。特にビジネスのパラダイムシフトを牽引するビジネスクラウド市場の取り組みには大きく注力していく計画です。

 こうした活動を通じ、価値ある利用モデルやベストプラクティスを創出し、それを新たなITサービスとして提供していく。それが20世紀最後かつ最大の発明であるインターネットをビジネスの礎とするIIJの使命であり、必然の戦略と考えています。

 第3次産業革命までの日本経済は製造業を中心に飛躍的な成長を遂げてきました。ところが第4次産業革命の今日は、かつての隆盛が影を潜めています。再び日本経済が元気を取り戻し、世界で存在感を示す日本企業が1社でも多く台頭してきてほしい。IIJはお客様と共にデジタルシフトを進め、その実現に向けた活動を全力でサポートしていきます。
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