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楠木氏による経営の本質論 ~クボタをケースに~ ESGの本質を捉え、長期利益を実現する クボタが掲げる「K-ESG」経営とは

ESGはビジネスの成功条件
利益は社会課題の解決へ

─今回、長期ビジョンと中期経営計画が発表されました。そこでは今後5年の最優先課題として「ESG経営の推進」が記されています。

吉川:これまでは事業計画を基に比較的好業績を続けてきましたが、これからはより長期を見据えた時間軸で考えていく必要があります。特に、E(環境)に関わるカーボンニュートラルでは長期的な視点が欠かせません。

楠木:私は常々、上場企業の目的は「長期利益の実現」と話しています。ESGはビジネスの成功と両立させる文脈で語られがちですが、本来はビジネスが成功する条件にESGが入っているはずです。つまり、商売のパフォーマンスを追求することがESGにつながり、長期利益の実現につながる好循環が生まれる。例えばどんな業界でも、地球環境を考えれば、サステナビリティが考慮されていない製品は好まれない傾向がある。すでに、E(環境)はお客様の実需となっているのです。S(社会)で言えば、従業員にとって働きやすい会社でないと結局はもうからない。もちろんG(ガバナンス)がしっかりしていなければ資本も集められません。

吉川:まさにその通りで、ESGは企業にとって当たり前の話になっています。クボタが提唱している「K-ESG」のSには、「ソーシャル」はもちろんのこと、お客様、従業員といったステークホルダーも含まれています。お客様にご購入いただいた製品やサービスの利益を「次の社会課題の解決」となる事業へ投資していく。そして、従業員には「クボタで働くことが社会貢献につながっている」と誇りに思ってほしいし、そうならないといけない。すべてのステークホルダーに、いかにクボタの活動に共感、そして参画してもらえるかが、今後の成長を支える重要なテーマの一つだと考えています。

楠木:近しい文脈で言えば、SDGsの目標の一つに「貧困の撲滅」がありますが、私は経営者なら、まずは社員の給料を増やすべきだと考えています。そのためにはもうけを出すことが必要で、利益が出れば必然的に多くの法人税を支払うことになる。結局、これが最もSへの貢献になる。そういった意味で、売り上げも利益率も高いクボタは立派な会社です。長期利益を上げ続けているのは、競争市場の中で独自の価値をつくり、ESGを実践できている証明ではないでしょうか。今後はそういった価値が、より多くのステークホルダーに浸透し理解されていくことを期待したいですね。

顧客接点に強いクボタだからできる
提供価値を向上させる真のDX

─「中期経営計画2025」では、DX推進の重要性にも触れられています。

楠木:ビジネスプロセスやコミュニケーションの改善におけるDXはもう当たり前の話で、重要なのは、顧客接点や顧客理解、トータルソリューションにおけるDXです。そういった意味で、顧客接点に強みを持つクボタは、DXと非常に親和性が高いはずです。

吉川:農業は、地域や農作物によって肥料のやり方も異なれば育て方も異なるため、それぞれの農家に適したサポートが必要です。クボタでは、その課題をデジタル技術を活用して解決・支援すべく、2014年から営農支援システム「KSAS」(クボタ・スマートアグリシステム)のサービスを開始しています。「KSAS」は、農業経営の見える化や省人化、収穫量向上の取り組みを支える、スマート農業のソリューションを提供しています。

クボタが実現するスマート農業
「KSAS(KUBOTA Smart Agri System)」

KSAS(KUBOTA Smart Agri System)
食料の生産性・安全性を高めるソリューション「KSAS(KUBOTA Smart Agri System)」
スマート農機と連携し、作業情報や作物情報をクラウド上に記録する営農支援サービス。
クボタでは「次世代農業ビジョン」として、「農機自動化による超省力化」や「データ活用による精密化」を通じて、日本国内のみならず、世界のスマート農業をリードしていくことをめざす

 また、今後は顧客接点にも注力していくべく、メンテナンス対応におけるDX化も進めています。どんな機械も必ずメンテナンスが必要になりますが、そのとき、修理も担うディーラーの存在が重要です。ディーラーの方の経験値や作業習熟度はどうしても人によって差が出るため、デジタルを活用して未熟な方でも対応できるようにする。ディーラーのスキルをデジタルで補うことができれば、稼働する機械を多く有する我々にとって、競争力の強化にもつながります。実例として、現在北米向けに建設機械の故障診断アプリ「Kubota Diagnostics」を開発していますが、より多くのお客様に新たな価値を届けるために、サービスの拡充を図っていく予定です。

DX化でメンテナンスサービスを効率化
建設機械の故障診断アプリ「Kubota Diagnostics」

「Kubota Diagnostics」画面
機械が発するエラーコードや不具合症状をアプリに入力することで、自動的に点検箇所や修理方法が示されるアプリ。従来はエンジニアによるマニュアル作業だったメンテナンスサービスをDX化することで、属人的だった技術を汎用化。アフターサポートの効率化および、迅速化も実現している

楠木:情報サービスが出尽くした今、デジタル自体でもうかることはあまりないでしょう。価値を生むのは、デジタルとリアルオペレーションの併せ技です。顧客接点のデジタル化が重要になる中で、ディーラーというリアルな顧客接点の強みを持つクボタなら、良いストーリーが描けると期待しています。

「リスクテイク」が経営の鍵に
その先に生まれる長期利益

楠木氏コメント

─未だ終息を見せないコロナ禍ですが、これからの日本企業に必要なことは何でしょうか。

楠木:表現は違えども、いつの時代も常に「激動期」と言われ続けてきました。常に一定の不確実性があるからこそ、リスクを取らないといけない。経営の本質はリスクを取ることですが、平均的に見ると、日本の上場企業は極めてリスク回避的です。その点、クボタの北米の「相乗効果」による成功例は、将来を見据えた投資であり、クボタが十分にリスクテイクをしてきたことがうかがえます。

吉川氏コメント

吉川:これまでクボタは、社会の課題に寄り添いながら成長曲線を描いてきました。しかしこれがいつまで続くのか分からない。だからこそ、どの事業にどれだけの経営資源を投入するのかを決断し、必要であればリスクも取る。長期的な利益の確保は、地道な社会貢献とリスクテイクがあってこそです。「K-ESG」やDXを推進させながら、長期利益を確保しつつより大きな社会貢献をめざしていきます。

楠木:長期利益を出して、その結果として、ステークホルダーに価値を提供し続けることが大切です。なんだかんだ日本の製造業は技術もあり強さを持っている。一方で、商売としては自己満足で利益が出ていない会社が少なくない中で、クボタはお客様に寄り添い、良質な製品を作り、それを売る販売網を持つ強さを持っています。ですから今後、製造業の普遍的な手本となっていくことを望みます。現時点ですでにそうですが、もっと多くの人に「これが製造業の正しい姿だ」と認知されていくことを期待したいですね。

吉川:ありがとうございます。成長をめざす上で、今後は共創も重要になってきます。クボタの事業に参画していただくということは、各々もリスクテイクしてもらうことになります。そのチャレンジを誇りに感じていただけるよう、すべてのステークホルダーに参画意義を感じていただけるような、5年後、10年後を見据えたストーリーを創っていきたいと思います。