―「開発プロデュース」という新しい業態の会社、久米開発プロデュースを立ち上げました。同じような業態の会社はこれまでなかったのですか。
山田 ありませんでした。建設や不動産開発に乗り出そうとするとき、安心して頼れるパートナーというのはなかなか見つからないものです。地方都市では、状況はさらに厳しいでしょう。
パートナーとしてまず思い浮かぶのは、設計事務所や建設会社、不動産の開発に長けたデベロッパーです。ただ、これらの会社と縁がなければ、どの会社にまず接触すればいいのか、悩ましいでしょう。たとえ縁があるにしても、まだ依頼するのは早すぎるし、開発事業の方向性が固まっていない段階で逡巡している事業主は多いと思います。急いだ結果、いいようにかじ取りされてしまったと後悔している企業も知っています。事業成長に向けて、公正中立の立場で突っ込んだ相談に乗ってくれるパートナーが求められていると考えました。
―建築設計事務所は頼れるパートナーにはならないのですか。
山田 建築設計事務所はあくまで設計業務が本業です。その前段階から業務にあたることはありますが、それを建築設計事務所の社員だけで対応するのは自ずと限界も生じます。また事業主の要望や意見を聞き入れ、資金調達やテナントイメージまで含めた設計条件を設定することも困難です。
―新しく立ち上げた久米開発プロデュースはそうではない、と。
山田 「開発プロデュース」をサービスではなく業務として受託します。そこには当然、責任が生じますが、事業主に寄り添い、目標の達成に向け、最適な方法やチームを提案・紹介します。久米設計グループのリソースも活用しながら、その他の企業もうまく取り入れながら、最適・最強のプロジェクト体制をフロントローディングで構築していきます。
建設や不動産開発の事業化に向けた超川上の段階から相談に乗れる会社はこれまで、あるようでなかったのです。
―久米開発プロデュースとしての強みは、どこにあるのですか。
山田 1つは着想力や構想力です。建築設計者として長年育んできた能力です。法律、コスト、技術の裏付けの上で事業性や収益計画を行うもので、思いもよらない付加価値を生み出すという建築設計者のDNAを生かしたコンサル会社だと考えています。
もう1つは、幅広いネットワークです。開発事業を成功に導くには、多様なプレイヤーとの連携が欠かせません。
当社では、デベロッパー、投資家、商業、ホテルのオペレーター、それに学校法人や医療法人、建設会社や建築設計事務所など、プロジェクトに必要な事業者を適宜紹介することで、開発事業に最適で具体的なプロジェクトチームを組成することが可能です。
―会社設立からほぼ1年。新しい業態は成り立ちそうですか。
山田 手応えは十分感じています。国内外ですでに2桁の案件を受託し、業務を進めています。例えば名古屋の中心部である栄地区で開発事業を検討中の民間企業から、その「開発プロデュース」を受託しました。
この地区で検討中・計画中の大型開発事業では、下層に商業施設、中層にオフィス、上層に高級ホテルを組み合わせたものが多く、このままでは同じような用途のビルで街の魅力を欠くばかりか、マーケットの食い合いさえも招きそうです。そうした中でどのような用途のビルを建設すべきか、事業計画の検討とテナントマッチングを依頼されたのです。
栄地区には、久米設計がコンサルタント業務を受託しているビルがすでに2棟ありますし、周辺のほかの事業主にも声を掛けて、複数の区域間で連携・調整を図りながら、栄地区全体の魅力向上を図るタウンマネジメントのプロデュースを実行していきたい、と考えています。
また神奈川県で漁港を活用した地域活性化の開発プロデュースに着手しました。漁港を有効活用しながら、ヨットハーバーやホテル、シーフードレストランなどを併設し、雇用も創出する漁港を生かしたまちづくりの事業計画を描いています。
―「開発プロデュース」という新しい業態に挑もうとする動きは今後さらに広がりそうですか。
山田 映画や音楽の世界ではプロデューサーの存在は定着していますが、建築をつくる、まちをつくる過程で開発プロデューサーは希少です。情報化で多様な社会の流れの中で、1社でなんでも出来る時代ではないと思います。
「開発プロデュース」に取り組む会社がその構想力やネットワーク力を発揮する事が定着すれば、事業主の成長にとっても確実にプラスに働くはずです。