日経ビジネス電子版 SPECIAL
物流・ロジスティクス チャンネル 物流総論 02

欧米中の企業に
物流で後れを取る日本企業

経営課題として向き合い、
物流DXで巻き返しを図れ

経済産業省
商務・サービスグループ
消費・流通政策課長 兼物流企画室長
中野剛志

2010年代半ばから、日本では何度か「物流危機」が叫ばれてきた。かつては物流事業者の供給力が需要を上回っており、モノを運ぶことにそれほど大きな苦労はなかった。しかし、需要と供給の関係は逆転しつつある。今や、物流がボトルネックの時代である。
経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長兼物流企画室長の中野剛志氏に、日本の物流の課題とその解決への展望を聞いた。

「供給>需要」から
「需要>供給」の時代へ
物流がボトルネックになる

2018年9月に発表された経済産業省の『DXレポート』は、産業界全体に大きなインパクトを与えた。とりわけ、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムのリスクを指摘した「2025年の崖」というフレーズは、経営層が危機意識を高める上でも大きな役割を果たした。

この『DXレポート』を経済産業省の担当課長としてまとめたのが、中野剛志氏である。中野氏は現在、商務・サービスグループの消費・流通政策課長兼物流企画室長として、日本企業の物流に警鐘を鳴らしている。

「物流は宅配便などBtoC物流のイメージで語られがちです。しかし、BtoC物流は日本全体の物流の1割程度。残りの9割はBtoB物流で、中でもサプライヤーがメーカーに部品を運ぶ調達物流が大きなウエートを占めています。調達物流の生産性は製造業の競争力に直結しますが、日本企業は物流を重視しているようには見えません。この状態を放置すれば、日本の産業の柱である製造業の競争力低下にもつながりかねません」

日本企業のITと物流には似たような構造がある。かつては、いずれの機能も内部に抱える企業が多かったが、やがてIT子会社や物流子会社が設立された。さらに、これらをアウトソースする企業が増え、内部の専門的なノウハウが徐々に失われていった。

「かつて、物流の供給が需要を上回っていた時代には、コスト削減のためのアウトソースも合理的な経営判断だったかもしれません。しかし、今は逆です。EC(電子商取引)の成長などを背景に、物流の需要は増すばかりです。

ジャスト・イン・タイムによる輸送の高頻度化、多品種少量生産による貨物の小口化も進んでいます。加えて、自然災害が増えており、物流が寸断されることも多い。供給側の負荷が高まる要素ばかりが目立ちます。今や、物流がボトルネックという時代です」(中野氏)

最近のトラックドライバー不足は、しばしばニュースになるほどだ。また、図1の物流サービス価格指数の推移も、「需要>供給」を裏付ける。

1990年前後のバブル期に上昇した物流サービス価格指数は、その後、なだらかに低下した。ところが、2010年代半ばに再び上昇基調をたどり、今日に至る。「物流が安かった時代は終わりました」と中野氏は話す。

図1 企業向けサービス価格指数
(2015年基準)

道路貨物輸送サービス価格は、2010年代後半にバブル期(1990年の規制緩和以前)の水準を超え、過去最高(物流コストインフレ)。とくに宅配便の価格の急騰が顕著。対照的にインターネット付随サービス(情報流)の価格は低下・安定

欧米中の企業は
物流とITを経営戦略に。
それを競争力にしている

製造業にとって物流の課題は、物流コストの上昇による利益の縮小にとどまらず、ビジネスモデルの進化を阻害する可能性がある。

現在、多くのメーカーがマスプロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(個別設計・生産)を融合するマスカスタマイゼーションを掲げ、個々の消費者ニーズを捉えた製造を検討、または実行している。「物流インフラの質が低ければ、こうしたビジネスモデルは成り立たないかもしれません」と中野氏は語る。

「マスカスタマイゼーションは物流の複雑性を大幅に高めます。今でも部品を運ぶのに苦労しているのに、これ以上オペレーションが複雑化すれば、物流はパンクしかねません。物流インフラが弱い日本のような場所では、マスカスタマイゼーションの成長は望めなくなります。一方、強靱な物流の仕組みを持つ国では、マスカスタマイゼーションの成長する可能性は日本よりはるかに高くなるでしょう」

ホームグラウンド市場で新しいビジネスモデルを育てられない日本企業は、海外企業との競争において不利な立場に追い込まれるかもしれない。物流は単にコストの問題ではなく、日本の製造業の将来に関わる問題でもあるからだ。

ビジネス活動にボトルネックが生じれば、経営は優先的にリソースを投入し対策を講じなければならないはずだ。しかし、「日本企業の動きは鈍い」と中野氏は警鐘を鳴らす。

「企業の物流担当者は問題の所在を分かっていますし、強い危機意識を持っています。しかし、その声がなかなかマネジメント層に届かない。届いたとしても聞いてもらえない。おそらく今はそういう状態だと思います」

中野剛志 氏

一方、海外に目を転じると、物流の強みを競争力につなげている企業が目立つ。例えば、20年の「ガートナー・サプライチェーン・トップ25」には、シスコシステムズやネスレ、ウォルマート、BMWなどの欧米企業に加え、アリババやレノボといった中国企業も名を連ねている。しかしここに、日本企業の名は見当たらない。

「欧米や中国のグローバル企業の多くは、物流やITを経営戦略の中核に位置付け、企業内で専門の人材を育成しています。日本企業とは対照的です」(中野氏)

今後の物流DXの進展を考えると、物流やITのノウハウを融合させる必要がある。その準備が整っている日本企業は、どれほどあるだろうか。

「物流とデジタル技術の親和性は高いです。自動運転技術やトラックの隊列走行、倉庫のマテハン機器など物流分野におけるデジタル技術活用の発展が一層進み、世界の物流先進企業はさらなる効率化を目指すでしょう」

日本企業としても、後れを取るわけにはいかないはずだ。こうした現状については政府も危機意識を高めており、物流課題への対策を進めている。

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