エムスリー・カンパニーが重視するのは、単にブランドの「認知」率を上げるだけではなく、消費者からの「支持」率を上げること。その結果として商品のブランド力向上や、クライアントの売り上げ向上に貢献することだ。食品とヘルスケア分野に特化し、独自の戦略を組み立て、「消費者を味方に付ける」情報を発信できるのが強みだ。
需要をつくるのが我々の仕事
「食品とヘルスケアの分野に特化し、クライアントの一番近くで成功をもたらす存在」。PR会社の中でも非常にユニークなアプローチを展開しているエムスリー・カンパニー(以下エムスリー)のビジネスを、代表取締役社長の松本淳氏はこう説明する。同社が他のPR会社と一線を画するのは、出来上がった商品に対してメディアリレーションを行うという通常のスタンスとは異なり、売れる商品をつくる段階から参加する、あるいは事業や商品の再定義を行い、クライアントと伴走しながら売り上げアップや事業成長に向けた戦略を組み立てている点だ。
同社に持ち込まれる相談の約半分は、「伸び悩むロングセラー商品の売り上げを何とか伸ばしたい」という類いのものだという。
その典型的な事例として、スナック食品会社が販売するグラノーラの事業再生がある。対象のブランドは、1980年代後半に発売、順調に売り上げを伸ばしていたものの2000年代の前半から伸び悩んでいた。この当時、マーケティング担当者には、3年で売り上げを100億円台に乗せるというミッションがあった。
当時、日本のシリアル食品の市場規模は約250億円。「強力なライバルが立ちはだかる中で、100億円の達成は非現実的であり、シリアル市場から視点をずらす、土俵を変えることが必要」と判断した。そこで取った戦略が、市場規模がシリアルの10倍以上あるヨーグルトを、さらにおいしく食べるための脇役戦略。そして、朝活と社会の潮流と朝食の欠食という社会課題を捉えて開発した“朝食革命”という求心力のあるパブリックインサイト戦略。これを通じて、新たな需要が生まれ、最終的には5年で300億円近くの売り上げを達成することができた。
ビジネスの土俵をつくる

エムスリーの戦略プランニング
エムスリーは、通常のマーケティングでよく使われる「消費者インサイト」に加え、社会全体が漠然と持っていてまだ充足されていない欲求である「パブリックインサイト」、医師や研究者などの専門家の他、ヘビーユーザーや熱狂的なファンが持っている見解や知識である「ディープインサイト」の3つのインサイトを使って戦略を立案する
消費者インサイト(消費者の購買行動の奥底にある本音や動機)に加え、社会全体が漠然と持つ欲求「パブリックインサイト」や、専門家やヘビーユーザーが持つ深い知識や常識などの「ディープインサイト」を加えた「トリプルインサイト」を活用して戦略を練るところにエムスリーの独自性がある。松本氏は、「特にパブリックインサイトは社会の未充足欲求や変化の兆しを拾い上げ、それと事業やブランドとの接点をつくることで新たな需要が生まれ、ビジネスの新たな土俵になる。需要をつくるには、社会全体を媒体と捉えて、消費者の認識や行動変容を促す。だからこそ、社会を巻き込むPRというコミュニケーションが有効」。また、松本氏は「社会の変化の兆しを取り込むことがパブリックインサイトの肝。戦略から商談、PRまで一貫したストーリーが組み立てられる」と考えている。

エムスリーの戦略プランニング
エムスリーは、通常のマーケティングでよく使われる「消費者インサイト」に加え、社会全体が漠然と持っていてまだ充足されていない欲求である「パブリックインサイト」、医師や研究者などの専門家の他、ヘビーユーザーや熱狂的なファンが持っている見解や知識である「ディープインサイト」の3つのインサイトを使って戦略を立案する
コロナ禍だからエビデンス・ベースドの価値発見
エムスリーが多くの実績を持つコミュニケーション手法に、EBHC(エビデンス・ベースド・ヘルス・コミュニケーション)がある。キウイフルーツやマイタケの需要づくりは、この手法でエムスリーがつくってきた。玉石混交の健康情報があふれる中、医師や研究者との意見交換、論文の調査と精査から、事業やブランドの新しい価値を発見するものだ。
コロナ禍による免疫への関心や「おこもり生活」による体調変化など、健康課題への関心が急激に高まっている。
そこで、EBHCを通じて、コロナ禍だからこそ求められる価値を発信する。松本氏は、「エビデンス・ベースドであるからこそ、生活者の信頼も得られ、上がった需要はなかなか下がらない。顧客だけではできない事業やブランドの価値を見いだすことが我々の存在意義」とニーズの高まりを感じている。
PRオートメーションサービス
昨年の緊急事態宣言直後の4月には、情報を発信したい企業と、報道関係者をオンラインでマッチングする「ネタマッチ」というオンラインサービスを立ち上げた。以前からプレスリリースの配信や掲載をするサービスは複数あるものの、企業側が発信したい情報を、メディアが取り上げたいネタとしてコンテンツ化されているのが新しい。しかも、メディア側は企画化サポートしてもらってもすべて無料。メディア側の負担を減らすことで、企業の商品を取り上げられやすくするのが狙いだと松本氏は説明する。
企業とメディアの情報マッチングサイト「ネタマッチ」


昨年4月にオープンした「ネタマッチ」は、食・健康/美容分野で情報発信したい企業とこれらの情報に関心がある報道関係者を結ぶマッチングサイトだ。PRオートメーションサービスの第1弾としてサービス提供。コロナ禍の企業の広報活動を支援するため、プレスリリースの無料掲載サービスを実施予定
松本氏は「メディアリレーションは、Face to Faceが基本。コロナ禍で変化した広報担当とメディアとのコミュニケーションをオンライン上で提供するのもネタマッチのもう一つの狙い」という。
オープン以来、テレビ、新聞社、Web、雑誌などのメディア関係者が、月間で数千人も閲覧しているという。近いうちに、メディア側と事業会社が直接やりとりできるサービスも開始する計画だ。
「社会が動けば消費者も動く。だから、社会を一緒に動かして、消費者も一緒に味方にしましょうというのが、基本的な戦略。そういうふうに事業とか、マーケティングを考えませんか」(松本氏)
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