日経ビジネス電子版Special

「社会と分かち合える価値の創造」というグループミッションの下、三菱ガス化学は独自技術で気候変動問題の解決に貢献しようと動き出している。3月には「2050年カーボンニュートラル達成」に向け温室効果ガス排出削減長期目標を示した。その具体的な削減策の1つがCO2などから製造する「環境循環型メタノール」の実現だ。取り組みや展望について聞いた。

これまでの気候変動問題への対応についてお聞かせください。

高村化学会社にとって気候変動問題は重要な経営課題という認識の下、長年にわたり温室効果ガス(GHG)削減に向けた取り組みを続けています。化学物質のライフサイクル全体で環境・安全・健康の確保を目指す「レスポンシブル・ケア」活動の一環として、1990年代半ばから事業所ごとに省エネ、プロセス改善、原料転換など地道な削減活動には取り組んできました。2000年に年間150万トンを超えていたGHG排出量が19年に85万トンまで減るなど、着実に成果も出ています。 2019年10月以降は「CSR推進室」を設置して全社的なCSR経営に取り組んでおり、その中で重要な課題としてGHG削減を推進しています。2020年に特定したマテリアリティにも気候変動問題に関係する複数の要素を盛り込みました。

高村 光喜 氏
CSR・IR部
CSR推進室長
高村 光喜 氏

GHG削減の目標と具体的な施策を教えてください。

高村2050年にカーボンニュートラル達成を目指します。マイルストーンとして2023年に13年度比28%、2030年に同36%削減する目標を立てています。引き続き地道な省エネ活動を継続するほか、ポートフォリオの再構築によるGHG削減も検討します。再生可能エネルギーの導入、水素など新エネルギーシステムの開発、CCUS(CO2の回収・貯留・活用)にも取り組み、目標の達成を目指します。今年4月に政府の30年のGHG削減目標が13年度比46%減に引き上げられました。当社の目標は精査し公表した数字ですが、可能な施策は前倒しを図り、政府目標に近づけられたらと考えています。 具体的な施策の1つが、当社が得意とするメタノールやアンモニアをエネルギー源とするクリーンエネルギーシステムの構築・提供です。再エネ由来の「グリーン」、またはCCUSやEOR/EGR(石油/ガスの増進回収法)を活用した「ブルー」なメタノール、アンモニアや水素によって、カーボンニュートラル実現を目指したいと考えます。

図1:三菱ガス化学のカーボンニュートラル達成ロードマップ
図:三菱ガス化学のカーボンニュートラル達成ロードマップ
2013年のCO2排出量111万トンに対し、2050年には省エネルギーや再生可能エネルギーの導入で45%(緑字部分)、クリーンエネルギーシステムの確立やCCUSの実装、原料転換などを通じて55%(青字部分)のCO2 削減を見込む。今後の技術のブレイクスルーがカーボンニュートラル達成の鍵となる

3月に発表した「環境循環型メタノール構想」の概要を教えてください。

宮本環境循環型メタノールとは、工場等から大規模に排出されるCO2や廃プラスチックなどの廃棄物から生産されるメタノールです。メタノールは現状、天然ガスなどの化石資源から生産されていますが、新たな構想では再生可能な資源からの生産へと大きく転換し、持続可能な事業活動を目指していきます。主に回収CO2と再生エネルギーから生成される水素を原料にするケースと廃棄物を原料にするケースがあります。生産された環境循環型メタノールは、プラスチック原料や燃料、発電用途に活用され、そこで生じたCO2や廃プラスチックを再びメタノールの生産原料とする流れを作り、メタノールを媒介した循環型社会を実現します。 8月に新潟工場で実証実験を開始しており、当面は年間1万~10万トンのメタノール生産に挑戦します。1万トンのメタノールを作ることで1.4万トンのCO2を利用することになります。排出CO2の削減や廃棄物の再利用を本格的に検討されている企業、自治体などと協業し、「Win-Win」のビジネスモデルを構築したいと考えています。

宮本 隆行 氏
執行役員
基礎化学品事業部門
化成品事業部長
宮本 隆行 氏

構想を実現する上での課題は何ですか。

宮本通常は天然ガスから(CO、CO2、水素を経由して)作るメタノールを、CO2と水素だけで作るのは技術的な難度が高くなります。長年メタノール事業を手掛ける中で培った触媒技術を進化させ、実現したいと考えます。廃プラスチックなどの廃棄物を利用したメタノール製造に関しては、ガス化の技術を持つ企業が複数あり、技術的には確立しています。これらの企業と協業し、当社のメタノール合成技術と最適にマッチングさせることが必要となります。 最大の課題はコストです。回収するCO2や再生エネルギーから生成する水素のコストは大幅に低減させる必要があります。原料となる廃棄物は体積が大きく、効率的に収集・運搬することと、メタノール製造設備のスケールメリットのバランスが重要となります。自治体や民間の収集業者と連携して経済的に成り立つ仕組みを構築することが求められています。

図2:環境循環型メタノール構想
図:環境循環型メタノール構想
環境循環型メタノールは化学品・プラスチック用途や、水素キャリアーとして発電や燃料用途に用いることができる。発電所などで排出されるCO2や廃プラスチックなどをメタノールという形で再利用することで環境循環を実現する

気候変動問題の解決に向けた、今後の展望をお聞かせください。

宮本現在、世界で取引されるメタノールは年間8,700万トン(2021年)で、そのうち日本は160万トンを輸入しています。当社は触媒の改善などさらなるイノベーションを実現し、2040年頃に環境循環型メタノールの生産量を国内外で年産100万トン以上に拡大し、長期的には世界で消費されるメタノールの主要な供給源として位置付けられるようにしたいと考えています。大気中のCO2を直接回収する「ダイレクトエアキャプチャー」技術とグリーン水素でつくることができれば理想的です。メタノールは燃料にも化学品にもプラスチックにもなる極めて有用な物質です。環境循環型メタノール構想の実現により、地球規模で気候変動問題の解決に貢献したいと考えています。

高村クリーンエネルギーシステムの構築・提供に加えて、大気中に排出されるCO2からメタノールに加えポリカーボネートを製造する技術の確立も目指しています。今後もこれまで培ってきた技術力・開発力を活かしたイノベーションを通じ、化学会社だからこそ可能なGHG削減に挑戦します。

Page Top