小売業界のDX推進を目指して開催された「イオン SM-DX Lab」。未来のありたい姿から考える業界内外の連携可能性や、それを支える人材、組織作りについて議論が交わされた。先進企業の取り組みから見える、小売業界の次の一手とは。

いち早く小売業のDXの取り組みを始め、“イオン SM-DX Lab”を主催したイオン株式会社 北村智宏氏と、北村氏と伴走する日本マイクロソフト 岡田義史氏の対談は前回記事にてお読みいただけます。

強烈な危機感から始まった
小売業のDX推進

イオン株式会社
SM・商品物流担当付
北村 智宏 氏

小売の現場の人たちを発火点に、業界全体のDXに繋げていくための取り組みとしてスタートしたのが「イオン SM-DX Lab」だ。主催者のイオン株式会社 SM・商品物流担当付の北村智宏氏は、「SM(スーパーマーケット)業界もDXの必要性は叫ばれているが、他業界に比べてまだ本気度が甘い」と語る。「改革は現場が主役。当の本人たちが本気にならないと上手くいかない」(同氏)。改革推進の土台作りを目的に、DXを自分事として捉えるためのリーダー向け視察会や勉強会を3年前に開始。その後は対象を経営層にも広げ、1歩ずつ着実に土台固めを行ってきた。

これら取り組みの過程で、日本マイクロソフトのトレーニングプログラムなどを使った人材育成の取り組みにも力を入れてきた。イオンSMでは現場でデータを分析できる体制を作るべく Microsoft Azure などを用いた環境整備を進め、そのための資格取得やトレーニング、実証実験なども行っている。

2020年はコロナ禍により、それまで対面で行っていた勉強会や視察会を「イオン SM-DX Lab」の名のウェビナーに変更。すると対面やリアルタイムでは参加できなかった地方の店長や担当者、直接DX推進に関わっていない部署の人たちや海外からも申し込みが殺到。年内4回目となる2020年12月のイベントはグループ内外70社、600人以上が参加する一大企画に成長した。

2020年は、改めて小売業のデジタル化の必要性が問われた1年となった。リアルにも独自の価値がある。この体験と価値を活かしつつ、DXによって新たに生まれる価値を業界全体でどのように生み出していくべきなのか。今回はイオンの藤田副社長やカスミの山本社長を筆頭に、小売業界におけるステークホルダーが将来の姿を展望しながら熱い議論が繰り広げた。

イオングループのトップが語る
将来への展望と危機感

現場を主役にDXを推進してきたイオングループSM。それを企業全体の改革に昇華させるためには経営側のリーダーシップやコミットメントが不可欠で、経営者自身がDXを自分事にする必要がある。イオングループの2人の経営者に、DX推進への考えを聞いた。

イオン株式会社 代表執行役副社長
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
代表取締役社長
藤田 元宏 氏

「小売業のDXについて、本腰を入れて取り組む時代が到来した」とイオン株式会社 代表執行役副社長 兼 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 藤田元宏 氏は述べる。

「今まで小売業は、デジタル化にほとんど取り組んでこなかったといっても過言ではありません。様々な社会課題が小売業の世界にも押し寄せる中、デジタル化を行うことで何が起こるのか?そしてその先にどのようなものが顕在化してくるのか?こうした視点を改めて整理しながら、小売業のデジタル化のベネフィットを発信することが必要だと思います。これを発信しないことにはお客様はもちろんのこと、パートナーの皆さんにも共感は得られません。発信と共感をベースに業界全体の協業・共進を促していきたいと考えています」(藤田氏)

ここで重要になるのは、単独の活動にとどまらず、様々なパートナーとのコラボレーションの可能性を念頭に置くことだ。例えば商品画像の活用。画像による商品認識が可能になると、従来のバーコードを使うよりも多くの情報を取得でき、自動化と組み合わせて買い物体験や従業員の働き方を大きく変えることが出来る。ただ、これらの実現は業界標準の商品画像マスターの仕組みづくりと官民様々な分野のパートナーとの連携が不可欠。自社のみならず業界全体でどのようなメリットが創出されるのか。それを考えながらデジタル化を進めていくことが大切だ。決して排他的にはせず、ステークホルダーみんなで価値を共創することを念頭に置くことが重要である。

また藤田氏は、「今まで小売業界は『お客様にいかに近づいていくか』というアプローチをしてこなかったという反省があります。早急に対策をしなければ、市場から退場を命じられるという強い危機感を持っています。先進企業に追いつきながら様々な取り組みをしていくためには、全体を見渡す広い視野を持ち、業界全体で新たな価値を共創することを念頭に置いて、人材の育成やパートナーシップの強化に取り組んでいくことが必要だと考えています」と、小売最大手だからこその危機感や将来展望を語った。

株式会社カスミ
代表取締役社長
山本 慎一郎 氏

長年、デジタル化の重要性が訴えられてきた日本の小売業界だが、即座に収益に結びつかないデジタル化への投資は後回しにされがちであった。「その結果、生産性の向上が阻害され、他の業界や諸外国の小売業から大幅な遅れを取るようになってしまった」と語るのは株式会社カスミ 代表取締役社長の山本慎一郎氏だ。

今年11月に開催された「リテール&ITリーダーシップフォーラム2020」では同氏がメンバーを務める日本小売業協会CIO研究会ステアリングコミッティから「日本の小売業 CEO、CIO への提言書」が発表された。これは小売業界におけるデジタル化の現状と、課題解決に向けた取り組みについて語られたものだ。同氏はこの発表の内容を用い、小売業のDX成功に向けた経営の在り方について問題提起した。

小売業のDXを進めるうえで一番重要な点として、山本氏は「経営トップの意識改革」を挙げる。まず、小売業がDXにより生産性を向上させることは、社会的責任を果たすうえで極めて重要であるということを経営トップが認識する必要がある。小売業は日本の家計最終消費支出において大きな割合を占める産業であり、小売業の生産性向上は、日本全体の生産性や経済に大きなインパクトを与えるといえるだろう。

また、小売業がDX により生産性を向上させるには、顧客である生活者の顧客体験価値向上を追求することが重要だという認識も持つべきだろう。例えば現在は、小売店がデジタルを活用してオンライン販売を始めたくても、在庫の可視化ができず実現ができない企業が多い。限られたリソースでこれを実現するためには、サプライチェーン全体での情報伝達と連携の必要がある。「小売流通のサプライチェーンを構成する全産業がコラボレーションすることではじめて『全体最適の視点での生産性向上』が可能になります。さらにその意思決定を小売業全体でオーソライズしていく仕組みの構築が極めて重要です。このような仕組みづくりに官民の連携が欠かせません」(山本氏)

逆に言えば、小売流通には適切な連携によってチャネルとしての強さを発揮できるポテンシャルがあるとも言える。そのため業種や業態を横断した取引ルールや業界標準化の確立を急ぐ必要がある。山本氏は「業界全体で国際標準コードなどを使用し、情報伝達の統一化をすることが重要だと考えています。オープンソースの活用などで、業界全体の効率化と標準化を図っていく必要があります」と力を込める。

最後に山本氏は、DXを推進するうえでの心構えを次のように語った。「DX自体が目的ではなく、DXの先に何を見据えるかが大切です。目標となる未来を定めた上で、そこを起点に現在を振り返り、今何をすべきかを考えていく必要があります」

DXの推進は企業の生産性の向上をはかり、企業体質の強化・収益の向上につなげ、中長期的に企業の成長を後押しする。成長するビジネスを通じ、最終的には環境問題、社会的課題の解決につながっていくのである。

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