先進企業の事例に見る未来予測・企業間連携・人材と
組織作りから考える、変革のヒント

小売業界内外から識者が集結し、DXに向けた業界連携や組織作りについて語られた「イオン SM-DX Lab」。各社の先進的な取り組みは、多くの企業にとって変革のためのヒントになるはずだ。

日本マイクロソフト
働き方改革ではなく、
生き残るための業務改革を進めてきたマイクロソフト

日本マイクロソフト株式会社
テクノロジーセンター
エグゼクティブアドバイザー
小柳津 篤 氏

先進的な働き方で日本中から注目を浴びる日本マイクロソフト。しかし、同社が進めてきたのは「働き方改革」ではなく、競争の激しい世界で生き残るための業務改革と経営革新だ。社員全員が「いつでも、どこでも、誰とでも」連携できる環境を目指した結果、組織力が向上し、「働き方改革」の先進企業として注目される様になった。

マイクロソフトは、年々ビジネスが複雑性・多様性を増すにも関わらず、社員を増やさずに労働時間の削減に成功してきた。

日本企業では、まだまだ高度経済成長期の成功体験に基づいた働き方が一般的だ。同質性や規律を重んじ、仕事においては工程や手順を重視する。一方で、マイクロソフトは「共感」をベースに、全員でビジネスを共創するスタイルへと変革した。

共創のための時間と機会を最大化するためには手続き型/プロセス型の業務を最小化する必要がある。(①業務の徹底的な整理整頓/断捨離 ②業務委託/アウトソーシングの活用 ③先進的情報通信技術(AIやRPAなど)の導入)この一連の業務改革を前提に、付加価値の求められる共創型業務を「テックインテンシティ」と「コラボレーション」という言葉で定義する。「テックインテンシティ」においては、エンジニア育成はもちろん、全社員が最先端のクラウドサービスやデータを活用し、各自の能力を底上げすることを意味する。そのうえで「コラボレーション」を行い、よりクリエイティブで難しい仕事に人を巻き込めるかが鍵となる。

シグマクシス
2030年、未来社会を考える

株式会社シグマクシス
常務執行役員
アライアンス担当
柴沼 俊一 氏

今後起きる社会全体の変化を都市・世代・市場・経済法則の観点から見つめることで、ビジネスにおいて今取り組むべきことが見えてきます。未来社会では、まず都市の在り方が変化します。「郊外に住み、都心で働く」モデルから、「職住一体」モデルにシフトしていくでしょう。そうなると、先に道を作り、住宅・商業・オフィス空間に分けるようなゾーニングでは多様な生活ニーズに応えられなくなります。これからは都市を中心に郊外が広がるのではなく、様々な特徴を持つ都市が衛星的に繋がるようになっていくと予想しています。オフィスや店舗も現在のように「箱」の中に存在するのではなく、移動型など全く違った形態が現れるでしょう。

さらに日本の主役世代と言われるシニア、Z世代、ミドル世代が全く異なる課題やニーズを持つため、世代間の違いを考慮したサービス開発が必要です。

人口増加・経済成長では成功方程式であった『規模の経済』に基づいた考え方ではなく、人口が減少し続ける社会においては、多様な価値を重ねていくことで採算をとる『範囲の経済』が基本となります。今後は時流に合った経済法則のもと、ビジネスを組み立てていく必要があります。

三越伊勢丹ホールディングス
仮想世界で、リアルに近い顧客体験を提供

株式会社三越伊勢丹ホールディングス
チーフオフィサー室関連事業推進部
仲田 朝彦 氏

三越伊勢丹ホールディングスは、「様々な背景や価値観を持った人々が多様なライフスタイルを追求できる持続可能な社会の実現」を目指し、リアルと非常に近い価値を体験できる場として、バーチャル伊勢丹新宿本店(以下、バーチャル伊勢丹)を制作中だ。バーチャル伊勢丹では、買い物客が店舗をバーチャル用にアレンジメントして再現した内観やブランドの世界観を楽しめるほか、店舗スタッフのアドバイスを聞きながら、自身のアバターが着る洋服のデータを購入するといった体験の取り組みを進行している。

デジタル化が進む今日だが、2019年の日本国内における小売のEC化率はわずか6.7%。これは顧客が買い物に対して効率性よりも、豊かな体験を得ることを求めていることの表れだと言えよう。バーチャル伊勢丹の経験から、小売りの成功体験は人と人とのコミュニケーションの中にあるという気付きを得た。リアルな世界における“買い物の価値”をバーチャルで体験できる世界を目指し、今後は他の企業とも連携を進めていく予定だ。

RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)
官民、業界を超えた共創イノベーション

小売業界のDXを進めるうえでは、官民・業界を超えた連携が欠かせない。共創活動の一環として、経済産業省が推進するサービス産業におけるロボットの社会実装に向けたプロジェクトについても、ステークホルダーによる活発な議論が繰り広げられた。

イオン株式会社
SM・商品物流担当付
北村 智宏 氏

イオン 北村 智宏 氏

経済産業省のDXレポート“2025年の崖”は多くの人が知っていますが、“2025年ロボットの崖”を認識している人はあまりいないと思います。日本にとっての2025年は団塊世代が後期高齢者入りする“超高齢化社会”の始まりの年であり、サービス産業にとっては本格的な人手不足が到来する年。「だったら人の代わりにロボットを使えばいい」と簡単に思いがちですが、社会に広く実装できるようにするにはロボットが活躍できる環境を業界連携して作っていく必要があります。 2020年代はコロナウィルス対応同じく、様々な社会課題にみんなで連携して取り組んでいく“競争”を超えた“共創”の時代。私自身も副TC(テクニカルコミッティー)長として参加するRRIの小売TCで、新しい時代の「業界連携のかたち」を積極的に進めていきたいと考えています。

まいばすけっと株式会社
代表取締役社長
古澤 康之 氏

まいばすけっと 古澤 康之氏

業界連携の取り組みをする中で重要なのは、「社会課題をマクロな視点で捉えること」です。単にデジタルツールを導入して目先の課題解決を図るのではなく、社会的な課題解決の視点を持ちながら事業領域を広げる。そこまで経営者の目線を上げなければ、施策が単発的になり、収益も見込めない。今後はデータを集めて業界内で共有し「この街でお客様に求められていることは何か」ということを把握し、顧客に選ばれる店舗づくりをしていく必要があると考えています。ただしこれらを単独の企業で実現することは難しく、やはり国と民間企業の連携は欠かせません。競争の前段階として「協調」領域を設け、業界全体の底上げを図ることが求められます。

経済産業省
製造産業局 ロボット政策室 室長補佐(総括)
福澤 秀典 氏

経済産業省 福澤 秀典 氏

ロボットは性能に注目されがちですが、技術がどんなに優れていてもユーザーが買いやすい価格になっていなければ普及はしません。つまりロボットの社会実装を進める上で、価格は性能と同じくらい重要な指標の1つです。その実現には流通の世界と同じく「大量生産」によってコストを引き下げることが大切ですが、ロボットメーカーやロボット導入の担い手であるシステムインテグレーターが多種多様なユーザーの個別の要望に真摯に対応し過ぎてしまうと、結果的に特定ユーザーしか使えない製品が出来上がってしまい、社会全体で見ると、いつまでたっても大量生産ができない、製品価格が高止まりしたままの状況に陥ってしまいます。これが現在、人手不足で苦しんでいるにも関わらずサービス産業になかなかロボットが普及しない原因の1つになっていると考えています。

その課題を払拭するためには、これまでの“所与の環境に適応するロボットをつくる”考え方から脱却して、ロボットを導入しやすい「ロボットフレンドリーな環境」にユーザー側の業務フローや施設環境を変革していく逆転の発想が必要です。その実現に向け、昨年6月にRRIに「ロボット実装モデル構築推進TF(タスクフォース)」を設立、産業界と協働しロボットフレンドリーな社会環境の構築を進めています。そのTFのもとには分野ごとの詳細な検討を行うTCがあり、小売TCについては主に小売業界のリーディングカンパニーで構成され、そこでロボットフレンドリーな業界協調の仕組みをつくり、その環境を業界全体に横展開することを目指して活動しています。具体的には、現在人手で行っている在庫管理、陳列、決済といった業務をロボットが代替する未来を創るべく、バーコードに代わってカメラで商品を認識するための参照データとなる商品画像マスターデータの構築に関する検討を進めています。今後も、官民で協力し小売業におけるロボットフレンドリーな環境を構築するための研究開発や規格化、標準化等の活動に取り組んでいきます。

参照

https://www.jmfrri.gr.jp/content/files/2020_RRI_Pamphlet.pdf

ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会
ロボット実装モデル構築推進TF・小売TC長
ソフトバンク株式会社
法人事業統括デジタルトランスフォーメーション本部
ビジネスプロモーション統括部 シニアプロダクトマネージャー
神成 昭宏 氏

ソフトバンク 神成 昭宏 氏

ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会のロボット実装モデル構築推進TF・小売TCでは、小売業界におけるロボットフレンドリーな環境構築に関する規格・標準化の検討等の出発点として、カメラを使って特定の商品を認識できる業界標準の仕組みづくりに官民連携で取り組んでいます。目標は「現場の人手による作業を半分に減らし、残りの半分をデジタルに置き換える」こと。イメージしているのは、「自動車業界の自動運転技術を支えるさまざまな情報を集約した業界共通デジタル地図の小売版」です。この基盤を作るためにはステークホルダーの協調が不可欠。業界標準の基盤が構築されてはじめて、お客様への価値提供という競争領域が生まれます。そういう意味で小売という産業は大きな可能性を秘めた、これからもっと面白くなる業界。ソフトバンクとしてもその未来の実現に貢献していきたいと考えています。

イオンリテール株式会社
執行役員 システム企画本部長
山本 実 氏

イオンリテール 山本 実 氏

例えば実店舗へのロボット実装。それには施設の設計段階から組み込んだ方が安全面、また総投資の視点からも合理的です。イオンリテールの今後の新店では、ロボットなどの新技術の導入を前提にした施設や設備の設計に取り組み始めました。一方で既存のインフラを活用する視点も大切。例えば店内の安全カメラを活用して導入コストを引き下げるなど、既存設備と組み合わせてなるべく低投資で展開できる技術の開発も重要だと考えています。

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部
流通サービス営業統括本部 
インダストリーエグゼクティブ
藤井 創一 氏

日本マイクロソフト 藤井 創一 氏

マイクロソフトでは1990年代から流通業IT活用環境の整備に向けて、国内ITベンダーと共に、店舗を中心としたIT国際標準仕様の策定に取り組んできました。様々な仕様を公開してきましたが、非接触決済市場拡大に向けた電子マネーRW関連仕様策定の際には、複数の電子マネー事業者が事業上の競争を超えて協調し、標準仕様作成に協力いただけたことで、実効力のある非常に良い仕様となりました。これによって、中小を含めた多くの小売事業者で電子マネー決済が利用できるようになり、市場全体の広がりの一助となったとも考えています。RRIの取り組みでも事業者の積極的な協力、参加を得ることが重要なポイントだと感じています。

パナソニック株式会社
エグゼクティブ インダストリースペシャリスト
大島 誠 氏

パナソニック 大島 誠 氏

コロナ禍の米国小売業では、以前からDXの推進をしていた企業の優れた対応が目立ちます。例えばCurbside Pickup(BOPIS)や配達の取組み、それらを支えるMFC(マイクロフルフィルメントセンター)を含めたPickingやDOM(Distributed Order Management)などの仕組みやシステム、Walmartが再度開始した商品の事前スキャンによるチェックアウト“Mobile Scan & Go”など。米国では「非接触」な環境への整備も進んでいます。コロナ禍を契機に、日本国内の各企業も店舗の在り方、流通SCM(サプライチェーンマネジメント)の在り方について再考する必要があるでしょう。

グランドデザイン株式会社
代表取締役社長
小川 和也 氏

グランドデザイン 小川 和也 氏

DXはデジタル化することが目的ではありません。「人々の生活をどのように変えたいのか」。このテーマを考えることがDXのスタートラインだと思います。例えばスーパーマーケットをはじめとする小売業は、街づくりや生活基盤において欠かせない要素。「もし街からお店が全て無くなったら」と想像すると、ディストピアな感じすらします。街と融合し、ワクワクするお買い物を実現するためのグランドデザイン。我々は小売業のDXをお手伝いすることで、街と人の新たな関係づくりに貢献することを目指しています。

日本マイクロソフト
テックインテンシティを高め、
AIの民主化を目指す

日本マイクロソフト
エンタープライズ事業本部
流通サービス営業統括本部
インダストリーテクノロジーストラテジスト
岡田 義史 氏

マイクロソフトでは流通業界に向けて、先述の「テックインテンシティ」と「コラボレーション」を高めるためのサポートを行っています。データやAIを限られた技術系の人材だけでなく、ビジネスを理解する人材が使いこなすことで、効果的な企画、課題解決、業務改善につなげたいと思っています。ビジネスやテクノロジーを分けて考えることはせず、差別化すべき領域と、協調すべき領域に対してデータ戦略を創り上げていくことが重要です。

これまで小売業はデジタルやITを社内の専門組織や外部ベンダーに任せることが多かった。しかし今後は自社内でAIやデータを使える人材を増やし、テックインテンシティを高める必要があります。マイクロソフトは独自で開発したDX人材のスキルトレーニングや Microsoft Azureを活用し、業界に特化したトレーニングと様々なプロジェクト、コミュニティ活動を進めています。

シグマクシス
「サービスデザイン」で顧客と価値を共創

株式会社シグマクシス
サービスデザインチーム ディレクター
田村 浩二 氏

産業のデジタル化が著しい昨今、事業構造と価値提供方法が大きく変化しています。デジタル化された市場での価値創造を図るためには、顧客との長期的な関係を築く必要があります。市場にモノ・コトがあふれている今、いかに顧客体験を提供し、市場での差別化と価格決定権を得られるか。それを実現する手法としてシグマクシスが提唱するのが「サービスデザイン」という考え方です。

サービスデザインとは、リーン・アジャイルの手法で、実験と学習を繰り返しながら顧客と価値を共創していくもの。我々は、サービスデザインをビジネスに生かすためのDX人財の育成や仕組み構築を支援しています。現在はイオングループのSMと商品13社の経営幹部30人に対し、座学とワークショップとフィールドワークを組み合わせ、徹底した顧客視点と変革のリーダーシップ、デジタル知識といったDXに必要なケイパビリティを習得するための実戦型DXリーダートレーニングを企画・実施しています。

参照

https://www.sigmaxyz.com/business/digital-academy/

NTTデータ
DX時代に必要な組織の役割と機能とは

株式会社NTTデータ
ITサービス・ペイメント事業本部
SDDX事業部 サービスデザイン統括部
シニアコンサルタント
田邉 裕喜 氏

従来ビジネスでは目標を確実に達成するための「計画実行型」の組織が重視されてきましたが、不確実性の高いビジネスの探索には学びや発見を最大化する「試行錯誤型」の組織づくりが求められます。新しい型を使いこなすためには「ビジネスの変革」「組織力の変革」「境界線の変革」の3つの推進が不可欠です。たとえば組織力を高めるためには、トレンド探索やCoE活動など組織を超えた知識の探索・深化を担う枠組みの整備や、人財戦略や職場環境などDXを下支えするコーポレート機能のアップデートも必要。企業の境界線にとらわれず、社外パートナーとのエコシステムを築くこともオプションの一つです。このような新しい組織の役割や機能をどのように既存組織に埋め込んでいくかも重要なテーマとなります。

自組織やビジネスのみを近視眼的に捉えるのではなく、広く未来を想像することで、イノベーションに必要なものが見えてくる。そして、生活者・社会・暮らしを向上させるために必要なことを具体的なビジネスに落とし込む。これが実現してはじめて、より柔軟な市場が生まれるのだ。「イオン SM-DX Lab」のような場を通して、小売業界全体の変革への意識はますます醸成されていくだろう。同業界の更なる躍進に期待が高まる。

ーお問い合わせー

https://azure.microsoft.com/ja-jp/