知財・法令・基盤―― AI活用の“壁”をどう乗り越えるか? AI後進国・日本の課題を安全・安心のデータ流通で解決する

欧米や中国に比べ、後れを取る日本のAI活用。AIそのものの開発で水を空けられているだけでなく、その精度を上げるデータの流通が滞っていることが大きな課題だ。流通促進の仕組み作りを行う一般社団法人AIデータ活用コンソーシアムに、課題解決のための取り組みについて聞いた。

AI活用データの流通を促進する仕組み作りに取り組む

写真:渡部 俊也 氏

AIデータ活用コンソーシアム 副会長
東京大学 未来ビジョン研究センター
教授・副センター長

渡部 俊也

1984年、東京工業大学無機材料工学専攻修士課程修了、94年、同大学無機材料工学専攻博士課程修了(工学博士)。東京大学執行役・副学長、政策ビジョン研究センター教授(副センター長)などを歴任。AIデータ活用コンソーシアム 知的財産・契約検討ワーキンググループ主査。

自動運転、チャットボット、スマートフォンによる音声アシスタント機能など、AIを活用したサービスは、私たちの身の回りに着実に浸透している。

しかし、日本におけるAI活用の研究やソリューション開発は、欧米や中国に比べて遅れているのが実情だ。その背景にあるのは、活用できるデータの不足である。

例えば、音声認識一つ取っても、日本語は地域差、年齢差、性差などで単語や言い回しに複雑な違いがあり、それらをしっかり識別できる広範なデータをAIに読み込ませないと誤認識や誤作動を招いてしまう。諸外国に比べて不利な状況に置かれているとも言えるが、日本固有のデータを可能な限り集めてAIに学習させないと、社会課題に適合したサービスを生み出すことはできない。

写真:田丸 健三郎 氏

AIデータ活用コンソーシアム 副会長
日本マイクロソフト
業務執行役員NTO

田丸 健三郎

1992年、マイクロソフト入社。米国 Microsoft Corporation(Redmond)にてメッセージングシステム、ディレクトリサービスの研究開発などを担当。現在は深層学習のソリューションへの応用、AI学習用データの様々な課題に取り組んでいる。AIデータ活用コンソーシアム データ基盤ワーキンググループ主査。

そこに立ちはだかりデータ流通を妨げる“壁”となっているのが、知的財産権や法令、データ共有基盤の未整備といった課題だ。

これらの課題を解決し、AI学習で活用されるデータの流通を促進する仕組み作りに取り組んでいるのが、一般社団法人AIデータ活用コンソーシアムである。大学や研究機関の研究者などによって、2019年4月に設立。現在では産学官が連携するオールジャパンの枠組みとして、AIで活用されるデータを効率的に流通させるためのプラットフォームとコミュニティーの構築に取り組んでいる。

写真:下川 和男 氏

AIデータ活用コンソーシアム 理事
日本電子出版協会 副会長
イースト 取締役会長

下川 和男

1976年、ソーシアル サイエンス ラボラトリ(現、富士通SSL)入社。85年、イーストの設立に参加。国産初のWindows版日本語ワープロ「Text Writer」の企画、設計、販売を担当する。2006年、イースト代表取締役社長、16年、同社取締役会長。AIデータ活用コンソーシアム 紙文書活用サブワーキンググループコンテンツ座長。

同コンソーシアムは現在、4つのワーキンググループを設けて活動を行っている。そのうち、知的財産・契約検討ワーキンググループの主査を務める東京大学 未来ビジョン研究センター 教授・副センター長の渡部俊也氏、データ基盤ワーキンググループの主査である日本マイクロソフト業務執行役員NTO(National Technology Officer)の田丸健三郎氏、紙文書活用サブワーキンググループでコンテンツ専門家会議のリーダーを務めるイースト取締役会長の下川和男氏に、それぞれの活動分野における課題と取り組みについて聞いた。

AIデータ活用コンソーシアムが取り組む3つのテーマ

AIのためのデータ活用における課題の検討および解決のため作業部会(WG)を設置、AIの研究開発、ソリューション実現に寄与する。

  • 知的財産

    学習で使用するデータ、AIにより生成されるデータの権利関係の検討。

    学習結果であるモデルの知財をどのように考えるのか。また、生成系アルゴリズムによる学習データと生成されたデータにおける権利関係の検討を行う。

  • 法令

    海外で進むゲノム、個人情報を含むデータ活用における法令、ガイドラインの調査、および検討。

    国際的に競争力のあるAI研究、およびデータ活用における課題の検討、提言、法令解釈について作業を行い、AIにおける国際競争力強化に貢献する。

  • データ共有基盤

    多種・多様なデータを共有する上で求められるサービス基盤の検討。

    機密性の高いデータ、NDAなどの契約が必要となるデータ、一部有償のデータをホストする上で求められる基盤の検討。また、データ活用における利便性についても検討。

  • 契約の標準化、関係省庁との調整

    想定される知財、個人情報、プライバシーなどを考慮した手続きの確立。円滑なデータ、AIモデル取引基盤の実現。

  • データ収集・活用

    基盤となるデータ収集、およびデータホルダーリレーションの構築。AI研究、イノベーションによるビジネス活用の推進。

  • AIモデル、データ共有・取引基盤の構築

    多様なトランザクション要件を満たした、多様なデータのストア・共有、AIモデル実行基盤の構築。

AIデータ活用コンソーシアムが取り組む3つのテーマ、知的財産、法令、データ共有基盤。同コンソーシアムはAIのためのデータ活用における課題の検討および解決のため、作業部会(WG)を設置。AIの研究開発、ソリューション実現に寄与している

次のページ:安全・安心なデータ取引を実現できる契約書生成システムを開発