ECの普及、モール型ショッピングセンターの台頭によって、百貨店の存在意義が問われている。日本の百貨店文化を牽引する三越伊勢丹は、お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売りグループで、最高の顧客体験提供のため、リアル店舗とオンラインを融合したシームレスな顧客体験価値の創出に取り組んでいく。三越伊勢丹は“あるべき姿”の実現に向けて、場所や空間、時間を超えたお客さまとの接点の拡大を進めている。その最先端に立つのが、VR(仮想現実)を活用したスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」である。百貨店の枠にとどまらず、新宿という“まち”を舞台に、リアルと仮想空間にわたる三越伊勢丹の挑戦が始まった。

1人の社員の思いから始まった
三越伊勢丹の新たな価値創造

一昔前は、休日に家族で百貨店に出かけるのは大事なイベントだった。しかし、少子高齢化やライフスタイルの多様化に伴い、百貨店の存在理由が希薄になってきているのではないかという声も聞かれる。「百貨店が過去から果たしてきた役割は、世の中の変化に対し先進的かつ革新的に取り組むことです」と、三越伊勢丹の菅沼武氏は指摘し、こう続ける。

株式会社三越伊勢丹
MD統括部 オンラインクリエイショングループ
デジタル事業運営部
部長
菅沼 武 氏

「三越は、1673年(延宝元年)正札による店頭販売というビジネスモデルを世界で初めて実現し、伊勢丹は昭和初期に百貨店の中にアイススケート場を開設するなど新しい文化をいち早く取り入れてきました。百貨店は、商品を販売するだけでなく、トレンドを発信するメディアやエンターテインメントなどとして様々な役割を果たしてきました。デジタル化が進む中で、百貨店の存在意義とは何か? 2018年4月に三越伊勢丹が策定した考え方や行動指針の中で掲げたのが『変化せよ』でした。目指すのは、お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループとして、これまでにない最高の顧客体験の提供です」

2018年に、三越伊勢丹グループでは変革を生み出す人材を見出し、組織として支援するために社内起業制度を立ち上げた。第一期の応募者の中に、VRを活用したスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS」の事業計画を提出した仲田朝彦氏の姿があった。しかし、実現可能性が見えないということで落選。2019年に再チャレンジした仲田氏は、CG(コンピュータグラフィックス)のモデリングを独学で勉強しスキルを高め、CGを使って重要なサービスを視覚的にプレゼンテーションするとともに、全体のロードマップを示しながら最初のステップとしての目標を明示した。

「仲田さんが練り直した事業計画には、REV WORLDSのビジョンを実現するために、やるべきことの内容と期限が描かれており、審査する私たちにも将来への道筋が明確に見えました。まずは最初のステップに挑戦してほしいと、事業化の候補として認められました」(菅沼氏)

当時、社内起業制度の事務局を担当していた菅沼氏は、仲田氏の“思い”に強く惹かれたと振り返る。「仲田さんがまず語っていたのは、REV WORLDSは『最高の顧客体験を提供するプラットフォーム』に繋がるということ。また、リアルと比べて実験的な取り組みも容易に行えるため、サプライヤーの皆さまと一緒に価値を創出する“場”としても大きな意義があるとの仲田さんの提案には、非常に共感できました」

コミュニケーションを伴う
買い物体験をデジタル世界で実現

REV WORLDSは、スマートフォン向けアプリをインストールすることで、アバターを操作して仮想都市を歩きながら、家族や友人はもとより様々な人とのコミュニケーションやショッピング、イベントなどを楽しむことができる。デジタル世界でコミュニケーションや体験を重視する理由について、菅沼氏は次のように説明する。

「EC化が進む海外の小売業でもEC化率は50%を超えないといわれています。その要因として、ECはモノを購入し所有するまでの利便性が高い一方で、体験価値の提供が不足しているからだと考えています。目利きのバイヤーが選んだ商品に関する販売員との会話、家族や友人とのショッピングを通じた楽しいひとときなど、コミュニケーションを伴うお買い物体験をデジタル世界で実現することにより、リアルでもECでもない新しい価値を提供できます。仮想伊勢丹新宿店では接客のおもてなしを大切に、リアル店舗の販売員を3G化したアバターがお客さまをお迎えします」

仮想新宿で散策を楽しみ、出会った人と気持ちや意見をシェア。リアル店舗の販売員がアバターとなって接客してくれる。

REV WORLDSの事業としての可能性について菅沼氏は言及する。「仮想伊勢丹新宿店はREV WORLDSのパーツの1つに過ぎません。新宿という多国籍かつ多様性に富む“まち”を仮想空間に再現し、リアルとデジタルの2つの世界を合わせたミラーワールドの実現にビジネスとして無限の可能性があります。また、場所や空間を超えてお客さまのパーソナルな領域に踏み込むという、三越伊勢丹の成長戦略にとっても重要な要素となるものです」

株式会社三越伊勢丹
MD統括部 オンラインクリエイショングループ
デジタル事業運営部計画推進(仮想都市プラットフォーム事業)
プランニングスタッフ
池田 英生 氏

事業化の候補となったREV WORLDSは、仲田氏に加え、同氏の考えに賛同した三越伊勢丹社員の池田英生氏と丸山透氏の3人で開発を進めた。2020年4月、仲田氏が最初のステップとして設定した世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット4」に仮想伊勢丹新宿店を出店。CGを使った店内装飾やバーチャル販売員による接客も含め、仮想空間におけるリアルな伊勢丹の高い再現性が話題となった。2020年10月にREV WORLDSプロジェクトは、仮想都市プラットフォーム事業としてスタートを切った。

REV WORLDSは、三越伊勢丹が目指すビジョンを実現するために自社VRアプリ開発とし、CG制作も外部だけに頼らず内製化している。「私は店頭で販売員を10年以上経験しました。お客さまが買いやすい定数定量を意識した商品配置、什器の向き・大きさ、窮屈さを感じさせない通路幅など、リアルな店頭づくりで培ったノウハウを仮想世界で展開することにより、“百貨店らしさ”を再現できます。また、商品陳列の配置や什器のバリエーションなどが頭の中でイメージできることから、開発スピードも速くなります」(池田氏)

株式会社CRAFTAR
執行役員
川島 英憲 氏

しかし、内製化だけでは新宿のミラーワールド化といった壮大なビジョンを実現できない。開発パートナーの選択では、ビジョンの共有が重要なポイントとなった。アニメーションやVRを活用したソリューションに強みを持つCRAFTARの川島英憲氏は、バーチャルマーケット4出店時の仲田氏のインタビュー記事に共感し、すぐに仲田氏にコンタクトをとったという。2020年11月に、三越伊勢丹は開発パートナーとしてCRAFTARの採用を決定、わずか4カ月の構築期間でスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS」のリリースまで漕ぎ着けた。川島氏は「当社と三越伊勢丹メンバーが一体となって取り組んだことで短期間構築を実現できたと思っています。三越伊勢丹さんの目指すビジョンの実現に向けて、成果の最大化に貢献することが当社の役割です。今も、新機能や改善点など三越伊勢丹さんとは頻繁にディスカッションを行っています」と話す。池田氏は「今やCRAFTARさんと私たちは1つのチームです」と笑顔で付け加える。

「REV WORLDS」の開発に携わる三越伊勢丹のメンバー。

老若男女が利用するREV WORLDSでは
安心安全がベースとなる

コロナ禍で外出自粛が続く中、時間と距離を超えて仮想伊勢丹新宿店に来店できるという新たな体験は、多くの人々の関心を集めた。2021年3月にREV WORLDSリリース後、利用者からは「今後も楽しみ」といったプラスの意見が多く寄せられていると池田氏は話す。

「バーチャルは敷居が低いため、初めて伊勢丹を訪れたという若い方も多くいらっしゃいます。印象的だったのは、『イセタンメイクアップパーティ』という化粧品の催し物をバーチャルで開催した際に、“リアルの場では、男性1人では入りにくい雰囲気がある中、バーチャルの世界ではアバターを操作して気兼ねなく、ゆっくりと見ることができました”という男性のコメントでした」

コスメに関心のある男性も参加しやすい、バーチャルコスメ催事。
※2021年3月10日(木)~30日(火)で開催。現在は開催しておりません。

老若男女が利用するREV WORLDSでは、安心安全がベースとなる。REV WORLDS のITインフラに Microsoft Azure (以下、Azure)を採用した理由について池田氏は話す。「最強のセキュリティはもとより、マイクロソフトが明示している『小売業と競合せず、顧客データを利用しない』という企業ポリシーに賛同しています。この企業ポリシーは、テックカンパニーとしての役割を果たす上で必須要素と考えており、マイクロソフトの強みであると認識しています。今後、デジタルデータの販売とともに、コンテンツ開発や接客サービスの向上、パーソナライゼーションなどにREV WORLDSで蓄積したデータの活用も想定されることから、マイクロソフトの企業ポリシーはより重要性を増していきます」

日本マイクロソフト株式会社
インダストリーテクノロジーストラテジスト
岡田 義史 氏

日本マイクロソフト株式会社
流通サービス営業統括本部
アカウントテクノロジーストラテジスト
内藤 奈々 氏

Azure の採用は、サポート面もポイントになったと池田氏は付け加える。「マイクロソフトさんには技術やシステムの基盤構成はもとより、アプリに閉じた話ではなく、アプリの中で“ユーザ体験やビジネス上の広がりを踏まえて、こういうコンテンツをつくることで外部との連携やシナジー効果が広がる”といった多角的な視点からアドバイスをいただいています」日本マイクロソフトの岡田義史氏は、「マイクロソフトは、流通小売業界のお客さまを支援する領域を、顧客理解、従業員強化、サプライチェーン変革、そして新規ビジネス創造の4つにフォーカスしたEnabling Intelligent Retail(知的な小売の実現)を掲げ、デジタルテクノロジーの提供を通じてお客さまや開発パートナーを支援しています」と話し、こう続ける。「“三越伊勢丹”という誰もが認知している既存ビジネスの概念を大きく変える、REV WORLDSという新たな顧客体験の創造に挑む同社の変革を支えるべく、これからもマイクロソフトのテクノロジーとケイパビリティを存分に活かしてサポートしていきます」

日本マイクロソフトの内藤奈々氏は、「三越伊勢丹さん社内では店舗の皆様を中心にデジタル活用が進んでおり、社内組織のデジタル人材の育成にも注力されています。チャレンジ精神を大切にする社風とともに、デジタル化の素地がREV WORLDSという革新的な取り組みのベースにあると思います。今後も社内から革新的なプロジェクトが次々に生まれていくことで、新しい企業文化が根付いていきます。ソリューションだけではなく、デジタル文化の醸成も支援していきたいと思います」と付け加える。

共創プラットフォームとなるREV WORLDSでは、業界の垣根を超えたパートナシップが非常に重要になると池田氏は強調する。「REV WORLDSの初期フェーズでは、ゲームやエンターテインメントに関する知見や技術を習得し早期に立ち上げるために、マイクロソフトさんの技術スタックを採用しました」

川島氏は開発の観点からマイクロソフトへの期待を述べる。「今後、REV WORLDSの進化を考える際に、世界有数の実績を誇る家庭用ゲーム機Xbox、Hololens 2 といったMR(Mixed Reality)デバイスなど、ソフトウェアだけでなく端末の最新技術や知見を取り入れることができるメリットは非常に大きいと考えています」

REV WORLDSはまだ生まれたばかりだ。REV WORLDSのREVは、“回転や活性化”を意味するという。「REV WORLDSの中で、人やモノ、サービスが繋がり相乗効果により活性化していく、新しい世界の創造を目指します。リアルとデジタルの間を自由に行き来し、自身の可能性を広げる“きっかけ”になってほしいと思います」(池田氏)

「きっかけを、インストールしよう」、これまでにない顧客体験で自身の可能性が広がる。
https://www.rev-worlds.com/

菅沼氏は、「季節ごとの催事や、デジタル世界を活かしたイベントはもとより、仮想空間での生活を楽しむためにアバターが着るファッションデータの販売など、集客に向けたコンテンツを生み出すことが喫緊のテーマになります」と話し、こう締めくくる。「自社だけでなく、様々なパートナーと連携しREV WORLDSを盛り上げていくことが重要です。新宿のミラーワールド化により、人生を2倍楽しむことができる新しい顧客体験を提供できるよう、全力を尽くしていきます」

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ソリューション

今こそ知っておきたい流通・小売業向けソリューション

売上4.8倍の経営メソッドをクラウドサービス化 データ経営で「企業の稼ぐ力」を創り出せ!新しい店舗運営のかたちに挑戦する老舗企業

株式会社EBILAB/有限会社ゑびや

小売

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来店促進

新たな顧客体験の提供を目指す VR(仮想現実)を活用した三越伊勢丹の新たな試み

株式会社三越伊勢丹

小売

経営

来店促進

コミュニケーション

ウォルマート、ワークマンなどの成功事例に学ぶ あらゆる顧客接点を総動員し、実効力のあるブランドコミュニケーションを

日本マイクロソフト

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パートナーソリューション

Microsoft Azureが支える次世代配送サービス「EAZY」 デジタルが変えるeコマース物流の未来のカタチ

日本マイクロソフト

流通

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ニトリ、IKEAなどの成功事例を動画で学ぶ! 激変する流通小売業に最新テクノロジーが起こすパラダイムシフト

日本マイクロソフト

小売

流通

EC

経営

ウォルマート、コカ・コーラの先進事例に学ぶ 小売業・消費財製造業のDXを成功に導く4つのテーマとは?

日本マイクロソフト

小売

流通

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業務改革

【後編】イオン SM-DX Lab活動から考える流通小売業DXの最適解 カギはデジタルの民主化

イオン株式会社

小売

流通

EC

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パートナーソリューション

【前編】イオン SM-DX Lab活動から考える流通小売業DXの最適解 カギはデジタルの民主化

イオン株式会社

小売

流通

EC

経営

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店舗のリモート化、デジタル化、省人化を支援する多機能、低価格なAIカメラソリューション

AWL株式会社
AWL BOX、 AWL Lite

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経営

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来店ユーザー分析や来店販促リテールメディア開発による収益化まで実現

株式会社アドインテ
リテールメディア開発 OMOソリューション「AIBeacon/AITag」

小売

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空き時間に事前にモバイル注文・決済、レジに並んで支払いしなくても商品を受け取り

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
CTC ECモバイルオーダー

EC

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パートナーソリューション

商品棚の前にいる顧客の属性や行動を把握/分析し、マーケティングの高度化、店舗レイアウトの改善につなげる

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
CTCスマートシェルフ

小売

来店促進

業務改革

決算管理

パートナーソリューション

来店客が手に取った商品をスマホで決済、機会ロスとレジ付近の混雑を解消する新しい決済サービス

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
CTCスマホレジ決済サービス

小売

決算管理

業務改革

パートナーソリューション

従業員が持つ業務用端末をスマホ1台に集約し、クラウドサービスの利用で店舗DX化も低コストに

グローリー株式会社
店舗業務支援アプリShoppers Cloud

小売

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業務改革

パートナーソリューション

Teams の活用によるECサイトと店舗の次世代のオムニチャネル施策ソリューション

株式会社ecbeing
OMO・オムニチャネル支援[ECソリューション]

小売

EC

コミュニケーション

AI

パートナーソリューション

スマートで安全な「クラウド手のひら認証」の導入による、手ぶらキャッシュレス決済ソリューションでレジの混雑解消を実現

株式会社ノルミー
クラウド手のひら認証サービス

小売

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パートナーソリューション