「ミナ ペルホネン」を設立したデザイナーの皆川明氏と三井デザインテック社長の檜木田敦氏
「ミナ ペルホネン」を設立したデザイナーの皆川明氏と三井デザインテック社長の檜木田敦氏
「ミナ ペルホネン」を設立したデザイナーの皆川明氏と三井デザインテック社長の檜木田敦氏

持続可能な価値とデザインを語り合う“時間当たりの価値”を上げる大切さ

独創的なファッションブランド「ミナ ペルホネン」を設立したデザイナーの皆川明さん。その活動は今や、インテリア、宿泊施設のディレクション、食の世界へと広がっている。三井不動産グループの一員として、住宅、オフィス、ホテルなど幅広い分野のデザイン・設計・施工を手がける三井デザインテック。2020年10月に旧三井デザインテックと三井不動産リフォームが統合し、新しく生まれ変わった。「クロスオーバーデザイン」を主軸に、これまで以上に幅広い分野での提案を目指している。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い暮らしが大きく変化するなか、モノづくりはどうあるべきなのか、皆川さんと三井デザインテック・檜木田敦社長が語り合った。

檜木田 先日、皆川さんが手がけられた宿「京の温所 釜座二条」に伺いました。旅先での“非日常”を味わえると同時に、まるで自宅にいるかのようにリラックスし、ゆったりと心地よい時間を過ごすことができました。

皆川 ありがとうございます。あの宿は「住むように泊まる」をコンセプトに、建築家・中村好文さんに設計して頂きました。あの町家は10〜15年宿として使った後、オーナーが住居として住み継ぐことが決まっている。ですから、“住まう”ことに軸足を置いてきました。

三井デザインテック社長 檜木田 敦氏

檜木田 皆川さんは以前から、「ずっと使える服」や「いつまでも飽きないデザイン」を追求され、「ミナ ペルホネン(以下、ミナ)を100年を超えて続くブランドにしたい」とおっしゃっていますよね。一方で現実のファッション界では、半年ごとに新しいモノが求められる。皆川さんの考え方は、受け入れられなかったのではありませんか。

皆川 当初は「そんなことで続くものか」と言われることもありましたが、僕は逆に「そうしなければ続かない」と確信していました。ブランド熟成に100年かかるとして、僕が受け持つであろう30〜40年の間だけでは到底到達できません。次へ、その次へとつないでいくことが必要です。

檜木田 いいものを長く使い続けるという考え方は、弊社とまったく同じです。環境への配慮という面からも、かつてのようなスクラップ・アンド・ビルド(古くなったものを廃棄し新しいものに置き換える)というわけにはいきません。「リニューアルしながら使い続けていく」というサステナブル(持続可能)の視点が欠かせなくなっています。

皆川 サステナブルの考え方は、私どもも重視しています。

檜木田 建物の性能は近年格段に良くなってきており、これに伴い質のいい中古物件が増えています。そこで「こうした物件をリノベーション・リフォームしながら使っていこう」というニーズに応えることが狙いです。
 昨年の2社統合のもう一つの狙いは、お客様の好みの多様化に応えること。事業領域を限定してしまうと、領域と領域の中間の“曖昧な領域”が手薄になりがちです。そこで今回、両社を統合してあらゆるニーズをカバーすることを目指しました。

皆川 事業を広げていくことのメリットは大きいですよね。ミナでは、テキスタイル(布地)という材料を軸に、洋服からバッグなどの小物へ。そして、椅子の張り地やラグ(敷物)などの形で、インテリアへと広げてきました。自分たちの物づくりの姿勢を他の分野でもきちんとお伝えしていくことは、信頼を得ることにつながります。

檜木田 フォルム(形状)からではなくテキスタイルから考える、これは皆川さんのデザインの大きな特徴ですね。先日、東京・青山にあるミナのショップ「call(コール)」にお邪魔し、美しくて丈夫なデニム地のトートバッグを買わせていただいたんですよ。

皆川 あのトートバッグは、デニム工場で出てしまう“半端になる反物”で作ったものなんです。洋服を作る場合、生地として使うのは布のおよそ8割。一般的には2割が廃棄されてしまう。
 この2割の布地を使ってバッグを作れば、雇用を生み出せるし、工賃が発生します。材料を無駄なく使うことの意味はかくも大きい。あのバッグはデニム工場で作っているので、シンプルですがとても丈夫なのも魅力です。

檜木田 皆川さんはファッションやインテリアから空間づくりへと、活動の領域を広げていらっしゃいます。知的障害者の支援施設にお仕事を提供されたり、商品を通じてアフリカの女性たちへの支援活動もされていらっしゃると聞いています。今、いちばん大切にしている価値とはなんでしょうか。

「ミナ ペルホネン」設立者・デザイナー 皆川 明氏

皆川 デザインの価値が「買われる方」だけに向かうのでなく、ものづくりのプロセスに関わる人たちにも満足感を与えるものにできたらいいと思っています。デザインの設計図は、作る人には「生活の糧と作る喜びを与えられる」ものであり、お客様には「買う価値を見いだせる品を提供する」ものでなくてはなりません。これをしっかりやっていきたい。SDGs(持続可能な開発目標)でいえば、モノ・資源が循環するスピードをいかに遅くするかを追求したいのです。
 労力がかかっていて品質は確かだけれど、売値が通常品の2倍のモノがあったとします。売値が2倍でも、耐久性が通常品よりずっと高く、購入者がその品から得られる愛着も大きければ、社会に残る時間は通常品の10倍だとしましょう。すると、時間あたりの価格は5分の1になる。こうした“時間当たりの価値”を上げていくことが大切だと思うのです。

檜木田 当社は、住宅、ホテル、オフィスなど様々な空間デザインを手がけていますが、その知見を互いに共有し、お客様の課題解決につなげる「クロスオーバーデザイン」が高い評価を頂いています。これを、これまで以上に推進していくことが大切だと考えています。デザインとはソリューションそのものであるという認識を持つことが欠かせないと思うのです。

実例1

実例1)三井デザインテックがインテリアデザイン・設計・施工を手掛けた三井ガーデンホテル京都新町 別邸のエントランスの内観。「京の伝統を継承し再生する」をコンセプトに、もともとあった歴史ある建物の梁を活かし、現在に甦らせている。

実例2

実例2)オリジナルの建物の梁をカットして建築を継承し、その板を活かして新しくアートとして再生。濃い木は経年で色が着いた梁の表面で、明るい木は今回カットした梁の中身の色で、新旧を表現している。

檜木田 ところで皆川さんはご著書の中で、北欧の魅力を書いておられますね。

皆川 ええ。19歳の時にフィンランドに行き、フィンランド独特の生地、デザインに触れたことが大きかったのかな。行くたびにまた来たいという気持ちになります。

檜木田 実は当社はフィンランドの国立労働衛生研究所の協力の元、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の研究を進めているというご縁があります。ABWとは、仕事の内容によって適した場所を選んで働くというワークスタイルです。この考え方を、ビジネスシーンでの豊かさや生産性の向上につなげられないかと、東京大学と共同研究しています。フィンランドのワーカー(働き手)は幸福度が高いといわれていて、こうした点などからも我々が学ぶべきことは多いように思います。

皆川 僕も住んだことはないのですが、フィンランドの “個”に根ざした学校教育の影響が大きいのではないでしょうか。日本に根強く残る“画一的な評価”というところから離れて、“個”の持つ特徴に目を向けてみることが必要なのかもしれません。

檜木田 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、人々の暮らし方や働き方が変化しています。皆川さんは、今の状況をどうご覧になっていますか。

皆川 大きな社会変化は、新しい思考・システムを形づくる機会だと思います。
 新しい価値にシフトすることで、経済をしっかり維持することが必要でしょう。そのことを念頭に置いて、デザインに変換できればと思っています。

檜木田 コロナ禍はテレワークやワーケーション(リゾート地でテレワークすること)を急速に浸透させ、人々のライフスタイルやワークスタイルを劇的に変化させつつあります。
 その結果、「住宅=住む場所」、「オフィス=働く場所」という定義自体も大きく変わろうとしています。こうした中、オフィスでやらなくてはならないことは何か?それは単純作業ではなく、人と人が集まってコミュニケーションする中で出てくる「クリエイティビティ(創造性)」の創出だと思うんです。

皆川 お話をしていて、「セルフホスピタリティ」という言葉を思いつきました。自分のいる場所を心地良くしていくことが幸福感につながり、そのための経済的なバランスを考える。こうすることが心地良い働き方につながれば、それがいずれ社会の仕組みになっていくのではないでしょうか。

檜木田 なるほど、セルフホスピタリティ。その新しい考え方を軸に弊社でも、お客様がほっとしたり、気持ちが豊かになったりする、そんなデザインを追求していきたいと思います。

文/平林理恵 人物写真/世良武史

「ウェルビーイング(幸福感)」重視で創造性が発揮できるオフィスづくりを