EXECUTIVE

乃村工藝社A.N.D.クリエイティブディレクターの小坂竜氏。

「半戸外空間」で自然を感じる贅沢
デザイナー小坂竜氏インタビュー

リラックスできるプライベート空間でありながら、自然の光や風を感じ、五感が刺激される「半戸外空間」。――ウィズコロナで生活様式や行動変容が起きた“ニューノーマル時代”の今、室内と屋外をフラットにつなげた「半戸外空間」の価値が再認識されている。インドアとアウトドアの利点を兼ね備えた半戸外空間は、これからの暮らしをどう変えていくのか。半戸外空間の価値やニューノーマルの時代の邸宅づくりについて、インテリアデザイナーの小坂竜氏と三井ホーム商品開発部デザインマネジメントグループ長の髙見明博氏に話を聞いた。

1階のガーデンラナイ。雨風から守られながら、外気に包まれる贅沢な空間。【三井ホーム世田谷レジデンス】

自然を感じられる空間の重要性

「自然を感じられる空間の重要性は、商業施設やレジデンス(高級住宅・邸宅)を建てるうえでますます高まっています」。乃村工藝社A.N.D.クリエイティブディレクターの小坂竜氏はこう語る。小坂氏はこれまで、マンダリンオリエンタル東京のメインダイニングや羽田空港JAL国際線のサクララウンジといった大型施設だけでなく、都心のレジデンスに広がる屋上庭園など、様々な空間デザインを手がけてきた。昨今手がける案件では、ゆとりある広々とした屋外空間を求められることが多いという。

「ホテルや商業施設といった大型施設で始まったデザインは、レジデンスへと波及していくものです。大型施設と同様にレジデンスでも、ゆとりある広々とした屋外空間を作るトレンドが生まれており、それは屋外用の大型家具が高い人気を集めていることからも明らかです」(小坂氏)

なぜ今、自然を感じられる空間が人気を集めるのか。小坂氏は次のように分析する。

「自然の光を浴び、風を感じたい。雨の匂い、湿度を感じたい ―― 五感で自然を感じる感性は、人間に元来備わっているものです。高度経済成長期、日本は快適な室内居住空間を作り上げてきましたが、室内で過ごす快適さだけでなく、住まいに“自然”を求める人が増えてきたのではないでしょうか」(小坂氏)

新型コロナウイルスの流行によるライフスタイルの変化も、こうしたトレンドに拍車をかけたようだ。三井ホーム商品開発部デザインマネジメントグループ長の髙見明博氏は、「住まいに求められるものが変化しています。“ニューノーマルな生活”が、半戸外空間の価値をさらに高めている」と話す。

「これまで忙しく世界中を飛び回っていたエグゼクティブの方々も、リモートワークなどにより在宅時間が多くなり、『住まいでいかに、より心地良く過ごせるか』ということが、これまで以上に重視されるようになりました。そうした流れの中、家にいながら自然に触れられる半戸外空間に価値を見出すようになったのではないでしょうか」(髙見氏)

グレートルームとガーデンラナイはフラットに連続している。窓を開けると内と外がつながり、フロア全体に風が通る。【三井ホーム世田谷レジデンス】

「縁側」という日本古来の半戸外空間

室内と屋外をつなげ、連続性の中に心地良さを生み出す。四季の移ろいや光を感じるアウトドアと、人目を気にせず落ち着けるインドアが融合する。――半戸外空間にはこうした利点があるが、小坂氏はこの特徴を日本家屋の「縁側」と重ねる。和室と庭の間にあり、庇(ひさし)に覆われた縁側は、伝統的な半戸外空間というわけだ。

「日本の風土に根ざした建築にはもともと、内と外の境界線があいまいな空間が存在していました。先人が生み出した建築からヒントを得ながら、そこに現代的な解釈を施せば、新たな可能性が生まれます。内と外の中間地点として半戸外空間を捉えると、表現が広がっていくでしょう」(小坂氏)

三井ホームでは、半戸外空間「ラナイ」を提案している。縁側が内と外で高さが異なるのに対し、ラナイは段差がなくフラット。室外と室内とをシームレスにつなぎ一体化することで、開放感を生み出している。このラナイは心からリラックスできるプライベート空間として、周囲の視線を遮る工夫や、大型家具を設置できるゆとりも併せ持つ。

「屋内だけでは味わえない、敷地全体を使った居心地の良い住まい空間としてラナイを提案しています。光、風の匂い、湿度、雨の匂い。こうした五感を刺激する要素を四季折々、家にいながら感じることで、これまで以上に豊かな暮らしが実現します。ラナイのような半戸外空間があることで、ご自宅により愛着を持って住んでいただけるのではと思います」(髙見氏)

左:小坂竜氏/乃村工藝社A.N.D.クリエイティブディレクター。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 非常勤講師。一般社団法人 日本商環境デザイン協会 副理事長。マンダリン オリエンタル東京のメインダイニングや羽田空港JAL国際線サクララウンジなどをはじめ、国内外でレジデンスやホテル、レストランのデザインを数多く手がける。

右:髙見明博氏/三井ホーム商品開発部デザインマネジメントグループ長

つながりを生み出し、「人を幸せにするもの」をつくる

小坂氏が空間デザインを手がける際、大切にしているのは「人と人のつながり」だという。

「ここでいうつながりとは、空間に暮らす人だけでなく、設計者、クライアント、材料や施工に携わる職人など、様々な人とのつながりです。誰かと一緒に新しい空間、表現を作っていくことを大切にしています。写真に撮った時にきれいに写るだけではなく、実際に人が見て、暮らした時に発見があるような“エモーショナルな空間”を創造したい。デザインする時は、この点を忘れないよう心がけています」(小坂氏)

加えて、小坂氏は「自分たちは芸術家ではない」と続ける。

「デザイナーは結果的に、空間という『作品』を生み出すお手伝いをするわけですが、ひとりよがりになってはいけないと考えています。そこに住まう人、訪れる人を幸せにする。そんな空間を、クライアントの依頼を受けて作るのが我々の仕事です。住宅なら快適さを追求し『住まう人』を、商業施設なら『訪れる人』を、幸せにする。そんな空間づくりのお手伝いをするわけです。僕はこの仕事を“ハッピー産業”と捉えています。そのためにはまず、その空間に関わる人すべてが幸せになるものを作ることが重要です。それが結果的に、『時代を超えて長く残るもの』になれば理想的だと考えています」(小坂氏)

「三井ホームも同じ思いです」と、髙見氏は続ける。「弊社の現場には『作品を作るな』という言葉があります。私たちの作っているものはお客さんに暮らして、住んでいただいてはじめて形になるもの。住まいづくりで忘れてはいけない点ですね」(髙見氏)。

開放感あふれる3階のスカイラナイ。トレンドの屋外用大型家具も置ける広々とした空間で、親しい友人を招いたパーティにも最適。【三井ホーム世田谷レジデンス】

スカイラナイにはコンパクトなキッチン「スカイキャビン」が併設しており、飲み物や軽食を楽しめる。【三井ホーム世田谷レジデンス】

木造建築で「長く受け継がれる住まい」を

ニューノーマルの時代の邸宅・空間づくりでは、SDGsと向き合う重要性も増している。

「『環境を意識した空間づくり』はこれまでも重視されてきましたが、近年SDGsが大きなムーブメントとなるにつれ、今や考慮すべき必要条件のひとつになりました。近年は建築家が作る住宅でも、空調をなるべく使わずに快適に過ごせる家、雨水を庭の草木に循環できる仕組みを持つ住まいなど、様々なものが登場していますね。『快適ならいい』という考え方だけでなく、複眼的に社会的な関わりを意識した家の価値が高まっていると感じます」(小坂氏)

「お客様に『ものを購入する時に何を意識しますか?』とアンケートを実施したところ、『エコ(環境に優しい)』『自然環境』と答える人が増えてきています。未来のためにエシカルな(倫理的に正しい)ものを買うという選択は、確実に浸透しているようですね」(髙見氏)

SDGs、エシカルな暮らし。こうした点で注目されるのが、長く暮らすほど住まいの価値が高まる「経年優化」の思想、そして木造建築の可能性だ。

「デザインを手がける際には極力、『歳月を経るごとに良くなる材質で、その土地ならではのものを使いましょう』と提案しています。家は長く住み続けるものですから、経年に耐えうるものである必要があります。メンテナンスを加えながら、長く住み継いでいくという意識が大切だと考えています」(小坂氏)

これまで日本の住まいは基本的に新築に重きが置かれ、いわゆる“スクラップ・アンド・ビルド(老朽化した設備等を廃棄し新しい施設に置き換えることによって効率化を実現するという考え方)”で、30年ほどで建て替えを行うことが多かった。しかしSDGsの浸透が追い風となり、こうした状況に変化が現れている。

「海外ではメンテナンスを繰り返して長く住み継ぎ、価値を高めている物件がたくさんあります。イタリアの建造物の多くは石や木造の建築で、寿命がとても長い。『そんなに古い物件じゃないのですが』との前置き付きで紹介された家が築300年だったこともあります(笑)。同じように日本にも、何百年と残っている木造の寺社仏閣や住宅があります。百年単位で長く受け継がれる木造建築を、三井ホームのような大手メーカーには積極的に手がけていただきたいですね」(小坂氏)

三井ホームではプレミアムレジデンスをはじめとする住宅のほか、介護付き有料老人ホームや保育園など、25万棟を超える多種多様な物件を木造建築で手がけてきた。2021年には新たな木造マンションブランド「MOCXION(モクシオン)」が誕生。環境負荷を低減し、耐震性や耐火性、防音性など性能にも優れたマンションで、木造建築の新たな可能性を広げている。髙見氏も「木造建築を普及させることでSDGsに貢献したい」と応える。

高まる半戸外空間の価値。広がるSDGsの重要性、木造建築の可能性。変化する時代の中で、どれも住まいのトレンドとなっている。エグゼクティブこそこうした潮流を押さえ、邸宅に取り入れてみたい。

東京都稲城市の木造5階建マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」。「国土交通省 令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」にも採択されており、脱炭素時代に向けた住まいの新たなスタンダードとなることが期待されている。

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