日経ビジネス電子版Special

「日本のがん患者さん個々人に最適な治療を」──。
ノバルティスが目指す個別化医療への貢献Delivering Optimum Treatments to Individual Patients in Japan – How Novartis Aims to Contribute to Personalized Healthcare

ノバルティス ファーマ株式会社 常務取締役 ブライアン・グラッツデン氏 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構(FBRI) 細胞療法研究開発センター センター長 川真田 伸氏 ノバルティス ファーマ株式会社 常務取締役 ブライアン・グラッツデン氏 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構(FBRI) 細胞療法研究開発センター センター長 川真田 伸氏

Interview

 新たな細胞・遺伝子治療(Cell and gene therapies)の登場は、生命を脅かす希少疾患に悩む患者にとっての福音だが、その実現には複雑な製造工程や厳しく管理されたサプライチェーンを要するため、患者さんへの安定供給は容易ではない。革新的な医薬品を数多く上市しているノバルティス ファーマ株式会社(以下、ノバルティス)は、細胞・遺伝子治療を必要とする患者さんへの安定供給を継続すべく日々挑戦を続けている。公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(以下、FBRI)(Foundation for Biomedical Research and Innovation at Kobe)との協業で、国内初の細胞・遺伝子治療の製造拠点を開設したのも、こうした挑戦の一環だ。開設に携わったキーパーソン2人に、細胞・遺伝子治療にまつわる安定供給の重要性と難しさ、それを乗り越えるための活動と、今回の製造拠点開設が日本の医療インフラにもたらした恩恵などについて話を聞いた。

ブライアン・グラッツデン氏
ノバルティス ファーマ株式会社
常務取締役
ブライアン・グラッツデン

 ノバルティスは「Reimagine Medicine - 医薬の未来を描く」というミッションを掲げ、人々の命と健康に貢献するために、画期的な治療法の発見・開発を日々追求しています。それをまさに体現しているのが細胞・遺伝子治療であり、私たちはこの領域のパイオニアとして、革新的な治療を日本の患者さんに提供しています。

 細胞・遺伝子治療は多くの可能性を秘めています。ノバルティスは、がんや希少疾患に対して1回の投与で治癒を可能にするなどの新たな治療法の開発を目指しています。それにより、毎日治療が必要だったがん患者さんの重い負担を軽減できる可能性があります。現在は血液腫瘍を対象にしていますが、将来は治療対象を他のがんや早期のがんにも広げていきたいと考えています。

 細胞・遺伝子治療分野の治療の一つにCAR-T細胞療法(CAR-T cell therapy)があります。これは患者さんの体内から取り出した細胞を、遺伝子導入の技術でがんへの攻撃力を強化させて、患者さんの体内に戻すという革新的な治療法です。従来、日本におけるCAR-T細胞療法は米国を介して行う必要がありましたが、日本の患者さんへの安定供給を図るため、2020年11月からはFBRIとパートナーシップを組むことにより、日本国内でも製造ができるようになりました。

日本の医療に強くコミットする

 日本国内での製造が可能になったことで、コロナ禍による国際輸送のリスクから解放され、生産拠点と医療機関との間で時差のないコミュニケーションが可能になりました。こうしたメリットにより、治療の予測可能性が向上し、この治療法を必要とする日本の患者さんに、より安定して治療を届けられるようになったことは大きな意義があると考えています。

 CAR-T細胞療法は、患者さんごとに個別に製造を行う必要があり、高度な製造技術はもちろん、確実に同一の患者さんに届けるため、複雑な製造と配送工程を厳格に管理する体制が求められます。今回、ノバルティスがパートナーシップを結んだFBRIは、この複雑で難しい製造工程を実現する能力を持った素晴らしい組織です。日本の患者さんのためにお互い継続的に学び、向上できるという点で、FBRIとパートナーシップを組むことができたことを誇りに思っております。

 またノバルティスとしては、FBRIとの提携により、日本の医療に対する強いコミットメントを示すことができました。細胞・遺伝子治療の可能性は非常に大きく、日本がこの分野で今後、重要な役割を担っていくことは間違いありません。ですから、この分野のパイオニアである私たちは、日本においても細胞製造拠点を開設したのです。

 ノバルティスは、日本におけるこの領域のリーディングカンパニーとして、がんや希少疾患に苦しむ日本の患者さんのために、今後も継続的に投資と貢献をしていきます。

川真田 伸氏
公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構(FBRI)
細胞療法研究開発センター センター長
川真田 伸

 CAR-T細胞療法とは、患者さんの血液からリンパ球の一種であるT細胞を取り出し、そのT細胞にがん細胞特有の表面タンパクを認識する分子の遺伝子を導入して再び患者さんの体内に点滴で戻すことにより、がん細胞だけにT細胞が結合してがん細胞を死滅させるという着想を実現化した画期的な治療法です。

 このCAR-T細胞療法は、世界の研究機関で20年間にわたって研究開発が進められてきた治療法で、従来は「もう選択肢がない」と言われた患者さんに提示できる新たな治療法に、我々FBRIが関与できたことは、大変意義深いことであると感じています。

 私が所属するFBRIがCAR-T細胞の国内製造を始めたことにより、日本の患者さんに必要なときに必要なタイミングでお届けしやすくなり、より安定的な供給が図られるようになったことは、とてもうれしいことです。また、作り手の「顔が見える」安心感も、意外と大きいのではないかと自負をしております。この治療を手がける血液内科医であれば、多くは同業者である私共の顔も知っておりますので、生産者の顔写真が貼られた野菜のように、CAR-T細胞を安心感と親しみを持って患者さんの治療に使ってもらえているのではないかと考えております。

グローバル基準の医療インフラ整備

 FBRIとノバルティスとの協業は7年前にさかのぼりますが、当時は細胞製造を手がけていた医療機関は少なく、その中でもFBRIは細胞治療薬を使った医師主導治験を複数実施していましたので、その点をノバルティスは評価されたのではないかと理解しています。個人的には私自身が20年前、ノバルティスの子会社で博士研究員をしており、遺伝子細胞の開発プロジェクトに関わっていましたので、CAR-T細胞製剤製造のお話を頂いた時は、「天命が来た」という気持ちでありました。

 とはいえ細胞治療薬製造の先駆者になるのは、簡単なことではありませんでした。そもそも細胞製造に関する日本の法令とヨーロッパ、米国での当該法令は、その体系や運用面で必ずしも合致していない点が多々あり、細胞・遺伝子治療薬の原材料となる患者さんの血液採取施設に関する法令や基準も、我が国は未整備でした。そこで我々FBRIは、日本輸血・細胞治療学会の指導のもとノバルティスと協業しながら、グローバルな基準を満たすことができる医療機関の施設基準の整備も進めてきました。こうした作業は、単にCAR-T細胞の普及にとどまらず、細胞・遺伝子治療分野における日本の医療インフラの整備に大きく貢献できたと確信しております。

 さらに今回の細胞製造業で得られたグローバルなサプライチェーン構築のノウハウなどは、今後、他企業との協業を通じて我が国に細胞・遺伝子製造業の産業インフラを残すことなどにも幅広く活用できると考えています。

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ノバルティス ファーマ株式会社
https://www.novartis.co.jp