キーパーソン対談 一橋大学 沼上教授×NTTデータ グローバルソリューションズ磯谷社長

ポストコロナのグローバル競争で勝つ企業と沈む企業を分けるポイントは

ポストコロナのグローバル競争で勝つ企業と沈む企業を分けるポイントは

経済のグローバル化に伴って、海外企業との競争は一段と激化。さらにコロナ禍の影響などもあり、厳しい状況に置かれている日本企業が少なくない。しかしその一方で、独自の強みを持つ企業の多くは、一時的に停滞はしたものの、早期に回復軌道に乗せているという。経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」選定企業はそのモデルケースだといえるだろう。ポストコロナを見据え、日本経済を牽引する製造業が新たなグローバル競争下で成長を果たすためのポイントはどこにあるのか。一橋大学大学院 教授 沼上 幹氏と、株式会社NTTデータ グローバルソリューションズの磯谷 元伸氏が語りあった。

独自の強みを有する企業が日本の成長を牽引

2020年、経済産業省から6年ぶりに「グローバルニッチトップ(以下、GNT)企業100選」が発表されました。沼上教授は、前回に引き続き選定委員長を務められましたね。

一橋大学 大学院 経営管理研究科 教授 沼上 幹(つよし)氏
一橋大学
大学院 経営管理研究科
教授

沼上 つよし

沼上そもそもGNT企業100選は、ドイツの経営学者であるハーマン・サイモン博士の著書『隠れたチャンピオン』に触発された経緯があります。ドイツには企業規模はそれほど大きくないものの、世界的に高いシェアを有する企業が数多く存在します。そしてこれらの企業が、ドイツ経済の強みを支える源泉ともなっています。これからは日本でもそういう企業を目標に努力する企業が増えてほしいと思い、GNT企業100選の選定を行いました。

その裏側には、日本の経済や企業に対する課題感があったのでしょうか。

沼上日本の企業の中には、大手企業の系列や下請けとして技術を磨いてきたところが少なくありません。しかし、いつまでもこの構図のままでは、元請けの企業、あるいは完成品メーカーがグローバル競争に敗れた場合、共倒れになってしまうリスクがある。

しかしその一方で、日本にも持ち前の技術力を生かしてグローバルに活躍している企業がたくさんあります。いわゆる知られざるガリバー企業です。こうした企業を顕彰することで、今後の日本企業のロールモデルになっていただきたいと思っています。

中堅・中小企業の事業もよりグローバルに

今回の講評を終えて、どのような印象を抱かれましたか。

沼上特に機械加工や素材系の分野で、優れた企業が数多く見られました。国際経済学でも、川下の労働集約的な組立産業は徐々に新興国に移っていくという議論があります。必然的に先進国には、そこに部材や機械を提供する川上の産業が求められます。機械加工や素材分野に強みを持つGNT企業が数多く存在し、日本経済の層の厚みが感じられます。

今回の対象企業には、大企業の一部門だけでなく、数多くの中堅・中小企業も含まれています。ただし、一口に中堅・中小企業といっても、そのビジネス規模が意外と大きいのには驚かされます。例えば資本金は数千万円なのに、年商が200億円近く、輸出比率が7割を超えるような企業もある。そのほかに、世界数十カ国に拠点を構えるような企業も少なくありません。

コロナ禍の影響を最小限にとどめられた理由とは

今回のコロナ禍は、世界中の企業に大きな影響をもたらしました。日本企業へのビジネスインパクトについてはどのように見ていますか。

沼上自動車などの大企業は、一時の落ち込みから比較的早く回復しています。しかし、多くの中堅・中小企業では、それほど状況が改善されていないようです。特に飲食業や宿泊関連のダメージはかなり大きい。ただし、GNT企業に関して言えば、一時的に停滞することはあっても、企業の存続にかかわるような事態には陥らないと見ています。なぜなら、サプライチェーンのカギとなる部品や素材を手掛けており、その企業の製品がないと取引先のビジネスが回らないケースが多いからです。

株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ 代表取締役社長 磯谷 元伸氏
株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
代表取締役社長
磯谷 元伸

磯谷同感です。私もSAPシステムの構築・運用を専業としているパートナーとして、様々な企業の経営層の方とお話をしていますが、独自の強みを持つお客様はそれほど悲観的になっている印象は受けませんでした。

例えば、製造業においては、欧米向けは厳しいが、中国やASEAN向けは対前年比でプラスになっているなど、基幹システムのデータから自社の状況を的確に把握されています。こうしたことが分かれば、厳しい市場ではラインを減らす、伸びているところでは逆に増産を図るなど、需給に応じて適切なアクションを起こすことができる。その中で、今よりもさらに精度の高い情報をリアルタイムに集め、分析力や予測力を高めたいという声もありました。この点は引き続き、ご支援していく必要があると思っています。

沼上人の移動が制限されたことの影響は大きかったと思います。特に製造業や物流業では、現場の状況を肌感覚で感じることが非常に大切です。しかし、コロナ禍によって、実際の現場に入ることが難しくなってしまった。同様に顧客との商談も、なかなか従来のように対面では行えません。ただし、こうした中で、Web会議システムなどのツール利用が急速に広がったことは、1つの好機ととらえられます。直接、顧客に会えなくとも、Web会議で30分とお願いすれば、時間を割いてもらえる可能性もある。ピンチはチャンスでもありますから、そこは考え方次第ではないでしょうか。ただし、これはデジタル化の一部にすぎません。こうした営業窓口といったフロントだけでなく受発注や生産情報を含めたバックエンドも含め統一化された情報を吸い上げる仕組みがあるかどうかが、グローバルレベルで企業経営を行う上での重要なポイントになってくるでしょう。

磯谷沼上教授のご指摘通り、ビジネスをグローバルに展開していく上では、事業活動の根幹を支える情報が大きなカギを握ると感じています。特に最近では、AI/IoTなどの先進テクノロジーを活用する動きも一段と加速しています。こうした取り組みを成功に導く上でも、様々なシステムをつないで横串で見られる仕組みがより必要となっているのではないでしょうか。

システムとマネジメントをグローバルで統一

一方で、今回のコロナ禍のようなグローバルレベルの危機では、その対応や経営情報の把握に苦労されている企業も数多く見受けられました。

磯谷その大きな理由の1つとして、サイロ化・複雑化した既存の基幹システムが挙げられます。製品自体はグローバルに提供していても、その裏側にある基幹システムやマネジメントの手法は各拠点でバラバラというケースが少なくありません。例えば在庫1つとっても、入庫時、出庫時のどの時点で在庫ととらえるかが違っていたりします。製品マスタや部品のコード体系なども同様で、多くの日本企業は取引先企業の要請に応じて、標準化せずに無秩序に個別対応している傾向があります。

確かにそれでは統一的な視点で自社の状況を見極めることが難しいですね。

磯谷先にも触れたように、グローバルレベルでマネジメントと基幹系システムを統一されたお客様は、コロナ禍の厳しい状況にあっても、世界中の拠点や各事業セグメントの情報をほぼリアルタイムに把握し、適切な対応を取られています。

沼上コロナ禍では、最初の2カ月程度の「短期」とワクチン開発までの「中期」、ワクチン接種がある程度行なわれるようになった中長期、終息後の「長期」という4つの時間枠で考える必要があります。現在は、中期から中長期の始まり程度のところです。

経営情報の活用を見据えたシステムの議論は、この経営者の長期的な予測・構想の下で考えるべきもの。その意味で、経営者が複数の時間枠で考えられない場合は、本当の意味で情報のもつ価値を100%活用できないのではないかと思います。

磯谷同感です。基幹系のシステム投資は長期の発想が必要です。コロナ禍で、短期的に業績が下がった、あるいは上がったからシステムを変える/変えないという話ではないと思います。今回のコロナ禍でもシステム需要が意外と落ちなかったのは、やはり長期で見ている会社が多くて、「今、変えないと次を戦えない」と考えているのでしょう。

沼上今回のコロナ禍のような事態は、一生に一度あるかどうかと思いがちです。しかし、経済的なインパクトという意味では、この10年ほどの間にも「リーマンショック」や「東日本大震災」など100年に一度といわれる危機があったわけです。こうしたことを考えれば、経営情報をしっかりと把握できる環境を整備しておくことが、いかに大事かが分かります。

NTTデータ グローバルソリューションズでは、そうした環境の実現に向けてどのような支援を提供されているのですか。

磯谷単に既存の基幹システムをSAP製品に入れ替える、S/4HANAにアップグレードするというのではなく、「マネジメントのあるべき姿」からお客様と議論するようにしています。なぜマスタやコード体系が各拠点で異なるのか、グローバルで共通するものは何なのか、本当に顧客の要求にすべて対応する必要があるのか。こうしたことを、システム導入に先立ってしっかりと話し合います。世界のライバルと伍して戦っていくという時に、マネジメントの軸がずれていたのでは得られる効果が半減してしまうからです。

沼上日本企業の中には、管理会計システムに課題を抱えているところが少なくありません。一例を挙げると、単品単位でのグローバル原価が把握できていないといった具合です。これでは、その事業から撤退すべきかどうか判断する根拠が持てません。原価管理が難しいことは確かですが、グローバルで一気通貫のシステムがないということは、経営の意思決定を行う上でも大きな問題です。マスタやコード体系の統一も決して簡単なことではありませんが、どこかのタイミングでこれをやっておかないと後々困ることになります。

そのほかにも課題だと感じられる点はありますか。

沼上取引先との関係性も見直すべきタイミングかもしれません。日本の下請け企業にとって、元請け企業の要望はいわば「神の声」です。それだけに、何でも要求通りにやろうとしがちです。すると、無限に品番が増え、段取り替えが増え、時間がかかって原価も上がってしまう。しかし、標準品を使った方がコストは下がり品質も安定する、と納得してもらえれば、お互いにとってメリットになる。よりグローバルを意識した戦略的な関係性が重要になってくるのではないでしょうか。

得られた成果を他の拠点にも迅速に展開

最近では、DXも、日本企業が世界で存在感を示すための道筋として大きなポイントとなっていますが、AI/IoTの活用がPoC(概念実証)レベルで止まってしまう企業も多いと聞きます。

磯谷やはりAIありき、IoTありきで取り組みを進めてしまうと、どこかで壁に突き当たるケースが多いようです。自社のどのような課題を解決するためにそのテクノロジーを用いるのか、またその効果をどうグローバルに生かすのかを最初に明確にしておくことが肝心です。例えば、当社のあるお客様では、先頃中国工場のIoT化に踏み切られました。現場作業の効率化の1つで、いわゆる「ポカ除け」として、製品ごとに異なる複雑な材料の配合を正確に実施するためのシステムを構築されました。その結果、良品率の向上や短納期化、生産の見える化など、様々なメリットを実現しています。

単にAIやIoTを使うというだけではダメなのですね。

磯谷しかも、この話にはさらに続きがあります。こちらのお客様では、IoTデータをやりとりする基幹システムや周辺システムをグローバルで統一化・標準化されています。このため、中国工場で得られた成果を、他地域の拠点にもスピーディに展開することができました。このようにDXに向けた取り組みを局所的なPoCで終わらせないためにも基幹系システムの標準化は非常に重要なのです。

「高度技術サービス業」への転換が急務に

最後に、GNTをはじめとした、日本企業への期待についてお話しいただけますでしょうか。

沼上現代の多くの日本企業は「モノづくり思想」へのこだわりが非常に強い。しかし、これからは「モノづくりの現場」を超えた戦略を追求する必要があります。これは何もモノづくりの力量を軽視しろと言っているのではなく、そこだけにとどまっていてはいけないということを言いたいのです。いくら優れた加工技術や組み立て技術を持っていても、いつかは新興国に追いつかれてしまう。まだまだ品質では負けないという方も多いですが、その違いが顧客に伝わらなければ差異化の要因になり得ません。それは、テレビや家電製品が国内でつくられなくなってしまったことを見ても明らかです。

それでは、どのようにして次のステップに進むのが良いのでしょうか。

沼上日本企業が最終的に目指すべきなのは、「高度技術サービス業」への転換です。そこへ至るまでには、3つの段階があります。まず、第一段階はモノそのものによる差異化で、これはかつて日本企業のお家芸でもあったところです。続いて第二段階では、モノにソフトを追加したソリューションで取引先の業務を改善します。例えば、優れた加工機械とそれを使いこなすための制御ソフトを一緒に提供するといった具合です。さらに三段階目では、納入した製品からクラウド等へデータを収集。これを解析した上で、生産プロセスの最適化や設備稼働率の向上につながるような高付加価値サービスを提供します。ここまで来ることができれば、いくらモノづくりの部分で追いつかれても、そう簡単には代替されない優位なポジションを得られます。実際に、GNT100選に選ばれるような企業の場合、規模が小さくても、既にこうした取り組みを実践しているところが出てきています。

高度技術サービス業への転換をいかに図るかが大きな試金石となりそうですね。

沼上これまでの日本企業は、自社の強みをすべてモノに落とし込み、そのモノを売ることで発展してきました。しかしこれからは、自社の強みの基盤である技術をサービス化してグローバルに売っていくことを考えてほしい。そのためには、標準化・システム化できるところを徹底的に転換すると同時に、クラウドを通してサービスを提供できるような経営基盤を整える必要があります。さらに付け加えるなら、既存のサプライチェーンから自由になることです。例えば京都のある老舗織物会社では、ホテルの内装やインテリア用品などを手掛けることで活路を拓きました。「着物の素材」という従来の常識から抜け出すことで、自らの技術に新たな付加価値を見出すための転換ができたのです。

磯谷優れた技術や製品は、日本企業の大きな強みでもあります。基幹システムの構築・運用を生業とする当社としても、これをグローバルに生かすためのベースラインづくりに貢献していきたい。既にGNTと呼ばれる日本のグローバル製造業を数多くサポートしていますが、独自に強みをもつ「隠れたチャンピオン」はまだまだいらっしゃるはずです。こうしたお客様と共に成長していくことで、より多くのGNT企業が生まれ、日本が元気になるお手伝いをしていきたいと思います。

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