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BCP対策や物流課題に沖縄拠点という選択 BCP対策や物流課題に沖縄拠点という選択

人口が増え続けるアジア市場へのゲートウェイとして注目される沖縄は近年、ものづくり拠点となるべく製造・物流ハブ整備に向けた動きが活発だ。日本の高度な技術力から生み出されるMade in Japanの安心感をアジア市場、そして世界市場へ。多くのメーカーが沖縄拠点の設置を検討する理由をBCP対策、物流の効率化、税制優遇制度の視点から紐解く。

BCP対策に効く地理的優位性BCP対策に効く地理的優位性

 自然災害が頻発する日本において、製造業の有効なBCP対策の1つが製造拠点の分散だ。沖縄は本土との同時被災リスクが低い。また、県独自の電力供給網は、電力不足による生産停止やデータ損失といったリスク回避に貢献する。
 実際に本土で被災し減産などを経験したメーカーが、沖縄に製造拠点を新設した例がある。また日本政府もリスク分散拠点として沖縄を評価。官公庁の一部は、データのバックアップ拠点として沖縄を採択している。
 1日の気温差が国内で最も小さい亜熱帯気候に属する点も沖縄のアドバンテージだ。1年を通じて温暖な気候が暖房費削減に貢献するだけでなく、恒温環境を必要とする生産ラインではコスト削減効果が期待できる。特にクリーンルームを23度に保つ必要がある半導体製造においては、平均気温23.1度※1の沖縄が理想的な環境といえるだろう。※1:那覇の平均気温(1981-2010年平年値)

沖縄地図
アジア展開に効く高速物流網アジア展開に効く高速物流網

 東アジアの中心に位置する沖縄では、那覇空港と那覇港を中心に高速物流網の構築が推進されてきた。365日24時間運用可能な那覇空港は、国内3空港・海外6空港に貨物専用機が週5便運航※2し、貨物ターミナル内には、24時間通関体制も整備。これにより、例えば日本本土から夕方発送した荷物は、積み替えと通関手続きを那覇で済ませれば、翌日早朝にはアジア主要空港に到着し、荷受人へは最短で翌日中の配達が可能だ。
 欧米向け移送の迅速化も図れるこの高速物流網は、海外でトラブルが発生した際の速やかな製品供給や部品調達にも有効だ。加えて、国内33都市・海外14 都市との間には定期旅客便が運航※2。緊急時の駆けつけ体制が確立しやすいだけでなく、旅客機の貨物室を貨物輸送に活用することで、慢性的な貨物輸送手段不足の解消にも一役買っている。
 他方、那覇空港から約7km、車で約15分の距離にある那覇港には、中国・北米向けなど海外コンテナ航路7本、県外への国内航路は16本が運航※3している。国際コンテナターミナルの隣接地には、高付加価値型産業の集積を目指すべく、I Tなどを駆使した那覇港総合物流センターを整備。第1期工事は2018年に完工し、現在7社が入居、操業中である。
※2:2019年3月時点 ※3:2019年5月時点

那覇空港 那覇港
那覇空港 那覇港
新規操業に効く税制優遇新規操業に効く税制優遇

 沖縄県の経済特区(国際物流拠点産業集積地域)に立地した企業には、下図のとおり国税・関税・地方税の優遇制度が適用される。さらに、一定の条件を満たす新設法人には法人税課税所得の40%控除を10年間適用するなど、起業を支援する優遇制度も充実している。
 経済特区では、事業認定を受けた企業が保税許可を取得した場合、関税法上の保税地域制度が適用されるため、関税や消費税を納めずに外国貨物の保管・点検・改装・仕分けができる点も大きい。これにより、市況に応じた輸出(積戻し)や輸入が可能になるだけでなく、域内で外国貨物の部品・原材料から加工・製造した製品を外国に輸出する場合は、関税や消費税を納める必要がなくなる。沖縄県は、そのほかにも用地取得や設備投資など初期経費軽減につながる助成制度や融資制度を整備。本土の企業や新会社の拠点設置を支援している。
 Made in Japanのプライドを守るため、輸出業務の効率化のため、現地の若い人材を生かすため。沖縄進出のきっかけはさまざまだが、沖縄操業で成功を収めている企業は着実に増えている。その潮流を捉え、沖縄拠点という選択肢をぜひ検討してはいかがだろう。

 国際物流拠点産業集積地域の税制優遇

*対象業種:①製造業②特定の機械等修理業③特定の無店舗小売業④倉庫業⑤航空機整備業
⑥道路貨物運送業⑦特定の不動産賃貸業⑧卸売業(所得控除は①〜⑤のみ対象、固定資産税
課税免除は④を除く)

 国際物流拠点産業集積地域の税制優遇

*対象業種:①製造業②特定の機械等修理業③特定の無店舗小売業④倉庫業
⑤航空機整備業⑥道路貨物運送業⑦特定の不動産賃貸業⑧卸売業(所得控除
は①〜⑤のみ対象、固定資産税課税免除は④を除く)

西山 朋宏 氏 I-PEX株式会社  国際管理室長 西山 朋宏 氏
県の支援制度を活用して迅速な操業開始を実現県の支援制度を活用して迅速な操業開始を実現

 精密金型メーカーの第一精工として1963年に京都で創業した当社は、海外を含む多拠点を展開、グループ全体で6000人以上の従業員がいます。沖縄オフィス開設に向けた会議は2018年6月に初開催。その後工場進出案もまとまり、早くも9月には沖縄を拠点とするアイペックスグローバルオペレーションズ株式会社と新工場の開設が決定しました。
 沖縄オフィスの開設当初は、海外営業スタッフの業務サポートや海外17社の法人サポートが主な目的でした。沖縄には、英語や中国語に長けたマルチリンガルの人材が多い。また沖縄は、出生率の高さと平均年齢の若さ、労働年齢人口比率の高さが日本1位で、工業系教育機関も多く、毎年約3000人の技術者候補を輩出している点も魅力でした。
 沖縄工場は、県が提供している賃貸工場を借りています。建物の建設が不要だったので、開設決定から1年半もかからずに操業を開始。その沖縄工場では精密順送プレス用金型を製造し、国内外のグループ拠点に出荷しています。
 沖縄は地震が少ないことも優位点です。台風を気にされる方がいますが、通過日時が事前にわかる台風はリスクが少ない。また、自動車通勤が多く不特定多数との接触が少ない沖縄はコロナ禍中も通常通り稼動できたため、大都市営業拠点のバックアップに役立ちました。
 当社は現在、沖縄テレワーク推進事業の一環であるワーケーション実証実験に参加しています。効果があれば独自のスキームを構築する計画ですが、国内のみならず海外スタッフにも人気が高い沖縄は、ワーケーションの好適地。新しい働き方を導入するうえでも沖縄拠点を活用できるのではと期待しています。