日経ビジネス電子版スペシャル

特別定額給付金のスピード給付を成功させた神戸市とパーソルテンプスタッフの官民連携

神戸市企画調整局
情報化戦略部 部長

森 浩三

パーソルテンプスタッフ株式会社
西日本OS事業本部 本部長

藤原 理絵

神戸市は国によるコロナ禍支援策の一環である「特別定額給付金」の申請受付業務を、人口100万超の都市としては全国最速で行い、申請された9割について2020年6月末までに給付を完了した。神戸市から業務委託を受けたパーソルテンプスタッフは、どのようにプロジェクトを成功へ導いたのだろうか。神戸市側の業務支援を担当した神戸市企画調整局情報化戦略部 部長の森浩三氏と、現場の給付業務の構築から運用までを担当したパーソルテンプスタッフ西日本OS事業本部 本部長の藤原理絵氏に話を聞いた。

給付業務発生の見込み段階で
事前準備を開始

神戸市企画調整局情報化戦略部 部長 森 浩三 氏

神戸市企画調整局情報化戦略部 部長

森 浩三

ー 全国最速での給付業務を実現できた要因をお聞かせください。

神戸市では当初予定されていた条件付き30万円給付の話が出た時点で、給付に向けた準備を開始しました。パーソルテンプスタッフにはリーマンショック後の2009年に支給された定額給付金や2015年のマイナンバー通知業務、マイナンバーカード交付業務を委託した実績があり、神戸市の行政業務に対する理解度が高かった。国が10万円給付に変更確定した時点で、すぐに給付開始に向けて動ける準備ができているのがパーソルテンプスタッフでした。10万円給付に変更後も既に完成していた給付業務の枠組みをマイナーチェンジするだけで対応できたことが大きかったです。事前準備ができていたことで他の自治体より早く動けたことがスピード給付につながりました。

9割給付完了というゴールに
向けた業務構築

ー 給付業務の構築に向けてどのように動いたのでしょうか。

藤原
条件付き30万円給付の話が出た4月ごろ、給付事業の業務を想定し、神戸市に提案させていただいておりました。スピード給付を実現したいという神戸市の思い、6月末までに申し込みがあった世帯の9割に給付を完了するという数値的なゴール。この2つにフォーカスし逆算で業務構築を行いました。神戸市が我々に給付業務を丸投げするのではなく、二人三脚で動けたことで成功につながりました。

給付業務におけるスピード感と
高品質を両方実現

パーソルテンプスタッフ株式会社 西日本OS事業本部 本部長  藤原 理絵 氏

パーソルテンプスタッフ株式会社 西日本OS事業本部 本部長

藤原 理絵

ー スピード給付にこれほどこだわった理由を教えてください。

まずは、神戸市民の皆様に一日でも早く安心していただきたいという思いがありました。そして、スピードにこだわることで質の高い給付体制を構築できるとの確信がありました。その理由は、全国一斉での給付開始になることで人員や必要物品などの取り合いが自治体間で発生し、動きが遅くなれば遅くなるほど高品質な資源確保が難しくなると予測していました。給付業務を直接担当する部門にも、再三、そういった話をしました。

ー 資源の調達はどのように進めたのでしょう。

藤原
一律10万円給付に変わり給付対象が神戸市民152万人となったことで、準備しなければいけないパソコンなどの機材や什器、事務用品などの資源は当初の試算から6倍程度にまで増加しました。電話対応や入力業務にあたるスタッフは神戸市民の皆様から非常に多くの応募をいただき必要な人員を確保できました。パソコンなどの機材や什器、事務用品に関してはパーソルテンプスタッフの本社(東京)で全国から調達し神戸に配置しました。

ー 業務体制の構築においてはどのようなやりとりがありましたか。

スピード給付の実現のために、業務工程を徹底して効率化することを目指しました。給付業務を行う担当課とパーソルテンプスタッフとの間に情報化戦略部が入り、円滑に業務構築が行われるように支援することもありました。
藤原
森さんの部門も関与していただくことで、すり合わせや修正などもスピード感を持って進めることができました。

神戸市内 給付事務局でのピーク時の作業風景

神戸市内 給付事務局でのピーク時の作業風景

ー 6月末までに9割の給付を達成できたポイントを教えてください。

藤原
最初の2週間で全体の7割程度の世帯数にあたる約50万通の申請書が郵送で到着し、入力業務のスピードが求められました。タイピングの早いスタッフの配置はもちろん、業務の進行に遅れが生じないよう現場スタッフのリーダーたちと共に日々課題解決のための調整を行いました。現場ではたらくすべてのスタッフが6月末までに9割給付という目標数値を共有できていたことは成功要因の一つです。
申請受付を開始してわかったのが、添付書類の間違い等の不備がかなり多いということでした。杓子定規な判断によって全体の給付が滞らないように、どこまでをOKとするかをパーソルテンプスタッフと認識を合わせました。給付業務と行政業務のすり合わせが重要な場面でしたね。
パーソルテンプスタッフ(PTS)と
パーソルワークスデザイン(PWD)の協業体制でスピード給付

パーソルテンプスタッフ(PTS)とパーソルワークスデザイン(PWD)の協業体制でスピード給付

藤原
コールセンターには主に申請状況の進捗についての問い合わせが多く、多いときには4万件/日ある状況でした。神戸市には電話問い合わせの数を減らすことが重要だと理解していただき、「申請状況検索サイト」を早急に導入していただきました。
「申請状況検索サイト」は申請者番号を入力することで、自分の申請状況の進捗を確認できるサイトです。作ることを決めてから1週間で運用まで漕ぎ着けました。パーソルテンプスタッフが現場の状況や市民の皆様が知りたいことをしっかり届けてくれたことで、明確なサイト設計ができ、スピーディーな運用で電話問い合わせ数を減らすことができました。こうした早急なシステム導入と給付業務のブラッシュアップがうまく噛み合ったことで、6月末までに9割給付という目標を達成することができました。

はたらく人と地域社会が
有機的に融け合う未来

神戸市では市役所の行政事務業務の一部について神戸市民を対象に業務委託するBPO(Business Process Outsourcing)事業を行っている。また地域活性化策として閉園した幼稚園の再活用事業者を公募し、パーソルテンプスタッフが「はたらく場」と「地域活性化の場」として、2019年12月末に「ジョブシェアセンター神戸名谷」を開設し、運営を開始している。神戸市はなぜBPOに力を入れるのだろうか。

神戸市×BPO事業が実現する
神戸名谷のまちづくり

ー ジョブシェアセンター神戸名谷はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

ジョブシェアセンター神戸名谷は神戸市民のはたらきたい方と業務をマッチングし、その業務をこなしながら能力開発をする場です。神戸市や周辺自治体の行政事務作業が主な業務内容となっています。
神戸市は1995年の阪神・淡路大震災以降、一貫して業務改革を進めてきました。少子高齢化によって労働人口が減りつつあることで、市職員の業務負荷が増している。職員の生産性をいかに高めるかということが課題でした。また、労働人口の減少は何もしなければ税収減につながります。
 神戸市が担っている行政事務業務の一部を市民の皆様に発注すれば、市民の皆様の収入になり世帯収入が上がります。さらに、業務に対する報酬として市民の皆様に税金を還元している形になるので、お互いにwin-winのスキームでもある。ジョブシェアセンター神戸名谷では市外の自治体からの業務も受けており、神戸市民の所得増にもつながっています。
 職員の生産性を高めるための業務委託と神戸市民の世帯収入増による税収増、この両方を実現できる事業の拠点としてジョブシェアセンター神戸名谷は生まれました。幼稚園だった建物を「地域の方のはたらく場」および「地域活性化の場」として再利用しています。
ジョブシェアセンター神戸名谷の外観・内観 ジョブシェアセンター神戸名谷

ー ジョブシェアセンター神戸名谷ではどのような人がはたらいていますか。

藤原
都心部にはたらきに出ていた方やこの幼稚園の卒園生が、時間帯や業務内容などそれぞれのライフスタイルに合わせた柔軟なはたらき方を実現しています。家の近くではたらく「職住近接」をテーマに、暮らしやすさ、はたらきやすさを両立できるのがジョブシェアセンター神戸名谷です。

ー 勤務される方の能力開発への取り組みはしていますか。

藤原
昨年8月、神戸市営地下鉄西神線名谷の駅前に「はたらき Factory KOBE」を開設しました。こちらではパーソルテンプスタッフがこれまで培った人材育成事業のノウハウを生かし、はたらきたい方への研修・能力開発を行うと同時に実際に業務も担っていただき、OJT(On-the-Job Training)のような勤務を可能にしています。ITスキルを習得したい方、業務設計のスキルアップを志す方など様々な方にご利用いただいています。

BPOがスキルアップや
多様なはたらき方を実現する

ー 今後BPOや業務委託に期待することを教えてください。

まず一つは私たち神戸市職員の生産性を上げるための役割を担っていただきたいということ。さらに、神戸市民の皆様のスキルアップにつながるものであって欲しいということ。ジョブシェアセンター神戸名谷のようなBPO事業を通して市民の皆様が一層スキルアップすれば、労働市場でその価値を発揮することができるはずです。
藤原
ジョブシェアセンター神戸名谷での仕事の募集が出ると応募が殺到するというサイクルが生まれており、昨年の定額給付金事業においても人材を確保することができました。当社が受託した事業であれば、はたらく人の年齢・性別・育児や介護との両立といった個人の属性に制約されない多様で柔軟なはたらき方を実現することが可能です。こうした取り組みを通じて、地域とともに共生共創し、未来に向かって市民の方が住みやすい街を実現していきたいと思っています。

これからの行政に必要なBPR( Business Process Re-engineering )

神戸市が抱えているBPRの必要性とそれに対してパーソルテンプスタッフがどのように応えていくのか。神戸市企画調整局情報化戦略部 部長の森浩三氏とパーソルテンプスタッフの取締役執行役員でBPO領域担当である高倉敏之氏に今後の展望を聞いた。

神戸市企画調整局
情報化戦略部 部長

森 浩三

パーソルテンプスタッフ株式会社
取締役執行役員

高倉 敏之

レガシーから脱却しゼロから
業務プロセスを作り直すBPR

神戸市企画調整局情報化戦略部 部長 森 浩三 氏

ー BPRはなぜ必要なのでしょうか。

BPRは根本から業務のプロセスそのものを変える取り組みです。BPRを行うことによって業務効率化を成功させ職員の生産性を高めることができます。業務改善のような局所的な取り組みではないため、継続的に行うことで効果を発揮します。
 神戸市には9つの行政区と10カ所の区役所があり、業務効率化のためにはそれぞれ別の工程で行われる事務作業を統一する必要があります。また、大量に保管している紙文書の処理も問題となっており、ペーパーレス化を進める必要もあります。
 こうした課題を解決するために神戸市行政事務センターを立ち上げ、パーソルテンプスタッフにはBPRの手法での業務デザインを委託しています。
高倉
レガシー化した業務は長い歴史の中で様々な要素が補完しあって完成しており、一カ所だけ挿げ替えるのが難しいです。民間企業からも「今の業務フローを変えずにデジタル化だけして欲しい」という依頼をいただくことがあるのですが、それだと期待する効果が出ないことが多い。それよりはIT活用を前提としてまったく新しい業務デザインを作る方が近道になります。
神戸市行政事務センターに事務労働を集約しペーパーレス化を実現するのがパーソルテンプスタッフのミッションで、それがBPRなら可能です。

業務全体を可視化し再設計、人とテクノロジーを
組み合わせ業務の最適化を実現

業務全体を可視化し再設計、人とテクノロジーを組み合わせ業務の最適化を実現 イメージ画像

BPRで実現できる
新しいはたらき方と生産性の向上

パーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員  高倉 敏之 氏

パーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員

高倉 敏之

ー 行政の立場からBPRやBPO領域の事業者に期待することを教えてください。

もっと業務効率化できる、もっと人材の成長に寄与できる、そういった提案を事業者からどんどんぶつけてきて欲しい。単なる委託事業者ではなく一緒に行政や地域の課題を解決するためのパートナーをわたしたちは必要としています。パートナーと共にBPRを行い、デジタル技術で業務の自動化が進んで市職員の生産性が上がれば、市民の皆様により還元できます。

ー BPRを進めることでどのような未来が実現できますか。

高倉
BPRで既存業務のリデザインを進め、外注可能な事務作業を切り出し、業務によってはDX化を進めたり、業務に適合した最適な人員を配属することで、業務の効率・品質向上・コスト削減を進めていきます。結果として外注可能な事務作業を切り分けることも容易になる。委託先としてジョブシェアセンター神戸名谷のようなBPOが活用される流れはもうできています。はたらきたい方々にとっては時間や場所にとらわれない新しいはたらき方につながりますし、行政にとってはコスト削減や生産性の向上、市民の方々のはたらき方の選択肢を増やし、ITや業務設計スキルの成長を支援することで多様な人材を活用するチャンスが広がるのです。