弁護士とPwCアドバイザリーの専門家が提言 デジタルフォレンジックを活用し、AIで不正・不祥事を発見する

平時からの活用によって、不正・不祥事の未然防止を

深水  デジタルフォレンジックは、米国では企業の不正・不祥事を客観的なデータ分析に基づいて証拠づける技術として定着しています。日本ではいつごろから利用されるようになったのでしょうか。

池田氏
池田雄一
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー

池田  2000年代半ばに、ある企業の不正取引調査において関連するメールのやり取りなどを分析するために利用したのが、日本でも注目されるようになったきっかけだと言われています。さらに、デジタル化の急速な進展によってメールやデジタル文書などの量が激増し、人間の力でそのすべてを調べ上げるのが不可能になったことで、その需要は高まってきています。

 デジタル技術を用いることで、キーワード検索機能などによって膨大なデータの中から不正に関連すると思われる内容のメールやデジタル文書を簡単にピックアップできますし、あらかじめ機械学習させたAIを使って、メールや文書のやり取りを分析し、誰と誰が関与しているのかを特定することもできます。

 デジタル化によってデータの量は膨大になりましたが、紙の文書と違って内容は改ざんしにくくなり、やり取りの履歴もしっかり残されるので、むしろ不正・不祥事を発見しやすい環境が整ってきていると言えます。デジタルフォレンジックを活用すれば、迅速かつ、高い確度で実態を究明し、関与者を特定できる時代になっているのです。例えば、会計不正やデータの捏造・改ざんといったケースでは「誰が誰に指示をしたのか」という背景や動機を実際のコミュニケーションの中から客観的に突き止めていくことが可能です。

深水  デジタルフォレンジックは、不正・不祥事が発覚した後の“有事対応”だけでなく、未然に防止する“平時対応”にも活用できますね。

 “平時対応”では、不正の兆候をタイムリーに検知することが重要です。日ごろからメールやデジタル文書のやり取りをAIがチェックし、不正の兆候がないかどうかをモニタリングする仕組みを構築することで、不正やその兆候を早期に検知することができるでしょう。また、モニタリングが有効に機能していれば、不正を予防する効果を期待することができます。未然に防止できれば、不正・不祥事が発覚した後に高いコストを払って調査を行う必要もありません。

デジタルフォレンジックはリスクマネジメントの重要な要素の一つ

池田  デジタルフォレンジックの分野では次々と新たな技術が開発されています。不正リスクが高い購買、販売、経費といった領域だけでなく、会計不正や贈収賄など、数字に関わる事案であれば、想定される様々なシナリオを基にAIを用いてデータ分析を行うことで、潜在的な不正リスクを発見することもできます。取り返しのつかない事態に陥る前に、不正行為を防ぐ可能性を高めることができます。

 PwCアドバイザリーでも、テキストデータ化されている情報だけでなく、ミーティング中にホワイトボードに書かれた文字や、デジタル化されていない会議資料、個人の携帯電話などに保存されている画像データなどまで読み取れるデジタルフォレンジックのツールを開発しています。こうした新しい技術によって、より広範囲な調査対象の中から精度の高い不正の証拠の検出が実現できることを期待しています。

深水  デジタルフォレンジックのためのツールが年々進化を遂げているのは、非常に興味深い動きです。

 一方で、不正・不祥事を減らすには、企業が能動的に未然防止や発覚後の対応(調査や当局等への報告を含む)に取り組めるように制度も整えていかなければなりません。例えば米国では、企業が不正・不祥事を起こしても、政府が求める不正の予防・摘発の仕組みを日ごろから構築し、運用していた場合、罰金が大幅に減額される制度を設けています。このような仕組みには、データを有効活用した不正リスクのモニタリングの仕組みが含まれます。

 同じように、日本でも企業に不正の予防・摘発を促すインセンティブを伴う制度を設ければ、企業自身が不正・不祥事のリスクを主体的に管理してくれるようになり、ひいては企業不正を抜本的に減らすことができるのではないでしょうか。

池田  おっしゃる通りです。同時に、経営者は不正・不祥事が発覚した場合に企業が受けるインパクトを想像し、それが起こらないようにするための対策を平時から打っておくべきでしょう。リスクマネジメントの重要な要素の一つとして、デジタルフォレンジックは今や欠かせない技術です。

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