新型コロナウイルスの感染拡大は多くの企業に影響を及ぼしているが、この危機を乗り越える取り組みこそDX推進のきっかけとすることができる。コロナ禍後の市場環境やニーズの変化に対応するためには、かつてないユーザーエクスペリエンスを通じて継続的に顧客とつながる必要があり、それは目指すべきDXそのものだからだ。事業部門とシステム部門がワンチームとなった組織文化の変革から取り組みを始めることが重要だ。
「2025年の崖」を乗り越えるため、多くの企業がデジタル変革に取り組んできた。ところが、その矢先に起こったのが今般の新型コロナウイルス感染症のパンデミックだ。これはDXにブレーキをかけることになってしまうのだろうか。
「私はそう考えません。危機に直面したとき、企業はどうしても守りに回りがちですが、逆にこの事態を変革のきっかけにすることもできるはずです。当社は、パンデミックを乗り越える取り組みが、そのままDX推進のヒントになると考えています」。そう語るのはレッドハットの岡下 浩明氏だ。
それに先立っては、まずコロナ禍が企業経営にどのようなインパクトを与えたかを把握しなければならない。特に影響を受けたのは、店舗や営業訪問といった対面による顧客接点だろう。顧客と直接会えなくなったことによる機会損失が、多くの企業の悩みとなっている。ただ一方では、デジタルの仕組みをフル活用することで、顧客接点を変わらず維持・確保している企業もある。岡下氏が言う「DXのヒント」はそこにある。
「市場にモノがあふれ、買いたい人より売りたい人の方が多い今日の経済環境においては、新規顧客を獲得することよりも、既存顧客を維持してLTV(Life Time Value : 顧客生涯価値)を高めていくことが重視されます。製品・サービスを販売したあとも引き続き質の高い体験を提供していけるかどうかが、競争優位性獲得のカギになるでしょう」(岡下氏)
この時代に対応するには、継続的に顧客とつながることで価値提供と自社に対する評価の機会を増やしていかなければならない。デジタルの世界でいかなる体験(ユーザーエクスペリエンス:UX)を提供していくのか。コロナ禍への対応を考え、実行することが、そのままDXのトリガーになるという。
とはいえ、かつてないほど不確実性が高まった世界で、従来の“成功の方程式”は通用しない。新たなチャレンジをし続けない限り、大きなビジネス成果を手にすることは難しくなるだろう。そんな中、予測・期待と現実の結果が乖離するリスクを極小化するには、どのようなアプローチが必要なのか。これについてレッドハットは、次の3つがポイントになると提唱している。
1つ目は「経験主義、検証駆動」だ。既にある知識や経験、あるいは顧客の行動履歴などのデータに基づき、「あるサービスを提供すれば、どんな反応を得られるか」といった仮説を立てる。これを検証した結果に基づき、アクションを起こす姿勢が重要になる。
「ただし、検証に長い時間をかけていたのでは、その間に市場環境や顧客のニーズが変わってしまいます。そこで必要なのが2つ目の『アジャイル開発』です。3カ月以内で仮説検証のサイクルを回し、短期間で経験を蓄積していくのです」(岡下氏)
そして3つ目が「組織学習」である。新たな取り組みを実施した結果、何が起こり、何が変わったのかを組織全体で学習していく。これを積み重ねることで、次の成功につなげやすくなるのである。
また当然ながら、上記を踏まえたDXの取り組みを情報システム部門だけで推進することは困難だ。例えば、アジャイル開発も事業部門をプロダクトオーナーとして巻き込むことができるかどうかで、仮説検証の精度は大きく変わってくる。かつてないUXを創出するため、システム部門は「事業部門のアイデアを実現する方法を提案する」「ビジネスを加速するITを提供する」という観点に立ち、事業部門とのワンチーム体制を構築することが肝心だ。
「そもそも、アジャイル開発を軸に据える場合、他部門との柔軟な連携、協働が不可避だと私は考えています。つまり現在の企業が取り組むべきことは、従来型の『管理』から『協調』『創造』へと、企業文化そのものを変えていくことにほかならないのです」と岡下氏は強調する。
レッドハットは、こうした企業・組織のDXを支援するDXプラットフォームのリファレンスモデルを提供している(図1)。
多様な接点で発生する顧客イベントや行動データを一括して捉え、顧客に関連するコンテンツ管理システムと連携し、新たな顧客体験をもたらすベストなアクションを導出する
メールやWeb、テキスト情報、音声から各種センサー情報にいたるまで、顧客接点で発生する多様なデータを一括して捉え、顧客に関連するコンテンツ管理システムと連携。これにより、UX向上に向けたベストなアクションを導く。このようなAIや各種データ処理、自動化などの機能を実装した環境を構築するには、高度な技術力とノウハウが必要だが、同社のリファレンスモデルを基にすることでハードルを一気に下げられるという。
「さらに、コンテナ技術の『Red Hat OpenShift』を使えば、オンプレミスのサーバーやデータセンターからクラウドまで、どの環境でも同様のシステムを構築できます。コストや運用負荷を最適化しつつ、戦略的なシステム活用が実現できるでしょう」と岡下氏は紹介する。
高度なノウハウが注ぎ込まれたDXプラットフォームの上で、事業部と情報システム部門が一体となって協働しながらアジャイル開発を促進し、組織カルチャーに変革を起こす。加えてレッドハットは、顧客と共にビジネス課題の解決に取り組む「Red Hat Open Innovation Labs」のサービスも提供。レッドハットの専門家とのオープンな意見交換やワークショップを通じて、DXに取り組む顧客企業のチャレンジを強力に支援している(図2)。
レッドハットの専門家が、顧客企業の担当者とともにDXに取り組む。アジャイル開発などの方法論を学べるほか、必要なインフラや開発環境を利用することも可能だ
ニューノーマル時代のDX実現とUX向上に向け、レッドハットの提案は重要な指針になるはずだ。