DX with Softbank デジタルで常識が変わる「DX最前線」 Vol.1 「防災」 被災地で人と水の、制約をなくす 地震や豪雨などの災害が多い日本。避難所での生活は制限も多く、真夏でもシャワーすら浴びることができない状況が見られる。ソフトバンクは被災地の避難所にシャワーを提供してきたWOTAと資本・業務提携を結んだ。AI(人工知能)やIoTを活用した水の再生処理技術を持つWOTAの製品は、水道がない場所でも安全な水を繰り返し供給することができ、避難所生活における精神的なストレスや、衛生面のリスクの低減に役立てられてきた。また、WOTAは自治体向けに防災・BCPの無料オンライン・セミナーも継続的に開催している。ソフトバンクの通信サービスや幅広い顧客基盤とWOTAが持つ水の再生処理技術をかけ合わせた、水に関する社会課題の解決に向けた取り組みが始まる。DX with Softbank デジタルで常識が変わる「DX最前線」 Vol.1 「防災」 被災地で人と水の、制約をなくす 地震や豪雨などの災害が多い日本。避難所での生活は制限も多く、真夏でもシャワーすら浴びることができない状況が見られる。ソフトバンクは被災地の避難所にシャワーを提供してきたWOTAと資本・業務提携を結んだ。AI(人工知能)やIoTを活用した水の再生処理技術を持つWOTAの製品は、水道がない場所でも安全な水を繰り返し供給することができ、避難所生活における精神的なストレスや、衛生面のリスクの低減に役立てられてきた。また、WOTAは自治体向けに防災・BCPの無料オンライン・セミナーも継続的に開催している。ソフトバンクの通信サービスや幅広い顧客基盤とWOTAが持つ水の再生処理技術をかけ合わせた、水に関する社会課題の解決に向けた取り組みが始まる。

断水しても避難所で入浴が可能に

──WOTAとソフトバンクは、2021年3月に資本・業務提携されましたね。どのような取り組みを進めているのでしょうか。

河本 現在、ソフトバンクは次の事業の柱となる新規事業開発に力を入れています。テーマは社会課題の解決に貢献する事業であること。私たちが得意とするデジタルテクノロジーを活用し、日本が直面している超高齢化、労働人口減少、過疎化、社会インフラの老朽化などの様々な社会課題を解決する。つまりDXで人々の暮らしをより豊かにしたいと考えています。

 そのためには、様々なパートナーとの共創が不可欠。WOTAもその1社です。

 WOTAは「人と水の、あらゆる制約をなくす。」を存在意義として掲げている企業で、AIやIoTを活用した水の再生処理技術を持っています。そのWOTAと協業して、水道管や水処理施設などの水道インフラの維持が困難になっている過疎地域などにおいて、既存の水道インフラから独立した分散型の新たな水供給システムの構築を目指したいと考えています。また、ソフトバンクは、WOTAの水循環型手洗い機「WOSH(ウォッシュ)」の取り扱いを、2021年5月から開始しています。

──WOTAは、避難所にシャワーを提供しているそうですね。

 自律分散型水循環システムの製品開発をしていた当時、様々なマーケットを検討しましたが、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨といった災害現場の避難所にシャワーとして提供した際、そこには水に関する深刻な課題があり、たくさんの方々が水を必要としていることがわかりました。そこから災害時の水の課題解決に向けて製品開発を進めました。

 上下水道が断絶すると、復旧までに2週間~数カ月かかります。近年、飲料水は備蓄や救援物資によって、比較的早く支援されることが多いですが、一人が一日に必要とする飲料水の量は2~3リットル程度です。それに対して入浴やシャワーは一人あたり40~50リットルの水が必要となります。飲料水の20倍以上の量です。復旧を待つ数週間もの期間、入浴ができない状態になるため、有事の生活拠点である避難所では心理的なストレスや、衛生面での問題が発生し、感染症リスクも増大します。

 WOTAが開発した自律分散型水循環システム「WOTA BOX」(写真1)は、フィルターによる濾過、塩素添加、紫外線照射を水質センサーとAIで制御し、水を使ったその場で浄化。98%以上の水を繰り返し利用できるようにします(図1)。WOTA BOXを使用すると、タンクに入れた100リットルの水で100人以上の方がシャワーを浴びることができ、水道への接続が不要な上、どこにでも持ち運ぶことができます。これまでに13自治体の20箇所の避難所で延べ2万人の方に入浴いただきました。

河本 災害対応という社会の大きな課題を解決するWOTA BOXは、まさにソフトバンクのビジョンと親和性の高いテクノロジーです。日本中の自治体や企業との取引実績や営業およびネットワークを組み合わせることで、より多くの人たちに価値を届けることができると考えています。

図1 WOTA BOXによる水再生処理のイメージ

複数のフィルターによる濾過、塩素添加、紫外線照射を、水質センサーとAIによって制御し、使ったその場で水の再生処理を行う

防災・BCPの無料オンライン・セミナーを開始

──WOTAは防災・BCPの無料オンライン・セミナーも行っているそうですね。取り組みを開始した経緯についてお聞かせください。

 特に災害が少ない地域などは、避難所における入浴の問題のように、災害時に水の課題があることを十分に認知しているとは言えません。当然、対策の優先順位が低かったり、不十分だったりします。

 また、日本は避難所運営に様々な課題を抱え、避難生活の質自体にも向上の余地が多くあるとの指摘があります。東日本大震災から10年が経ちますが、日本の避難所は未だに最低限の国際基準すら満たせていないと言われています。私たちも、各地の避難所を支援する中でそのことを痛感しました。

 日本は、災害大国と言われるほど災害が頻発する国です。今後も起こりうる災害に備え、状況を改善するためには、水の課題に限らずより広範な防災・BCPのアップデートを図ることが必要。そう考えて2020年4月、試験的に防災・BCPの無料オンライン・セミナーを実施しました。

 最初に据えたテーマは「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた避難所のあり方」。当時ほとんど見ることのないテーマでしたが、風水害シーズンが目前に迫っていたことや、オンラインで全国どこからでも参加できるという点が注目され、15府県の266自治体から300名を超える防災担当職員に参加いただきました。実施後のアンケート調査で82%が満足という回答をいただいたことからシリーズ化してお届けすることを決定し、2020年9月に設立したのが自治体向け無料オンライン・セミナー「BB.univ(ビービーユニブ)」です(図2)。

図2 BB.univの考え

防災・BCPの基礎理論から災害対策本部での避難所運営にまつわる実践的なノウハウなどを提供する

 内容は水だけに限らず防災・BCPの基礎理論から災害対策本部での避難所運営ノウハウまで、専門家や研究者による最新理論と災害対策の現場でのみ得られるリアルな経験や情報を理論化し体系立てて構築した、実践的なノウハウを提供しています。これまでに全国500以上の自治体の方々に受講いただいています。

 また、昨年同じころに水道のない場所にも設置できる水循環型手洗い機「WOSH(ウォッシュ)」を発売しました(写真2)。WOTA BOXと同じAI水処理技術を用いており、20リットルの水を循環して利用することで、500回以上の手洗いが可能です。もともとは災害時に避難所や仮設トイレの入り口に置くことを想定して2019年秋に試作していたのですが、2020年に新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころ、ある飲食店チェーンの経営者の方から店の入口に置きたいとの申し出をいただいたことをきっかけに開発のスピードを上げました。

 現在では、既に飲食店や商業施設、医療・介護施設など様々な施設で導入いただいており、公衆衛生のアップデートにご活用いただいています。

老朽化した水インフラの更新に新しい提案

──防災以外の領域でも水にまつわる課題の解決を目指すそうですね。

河本 WOTAの水再生処理技術は、災害時のシャワーだけでなく、私たちの日々の暮らしに欠かせない水インフラの課題を解決するポテンシャルがあると考えています。

 水道水をそのまま飲める国は、世界にもそれほど多くありません。しかし、日本の水インフラは設置されてから長い年月を経て、老朽化が問題となっています。既存の浄水場、配水池、水道管路などの大規模インフラは、当時、人口が増え続けることを前提に設計されたシステムです。今後、更新が必要となる地域も多数でてきますが、人口減少期を迎えている日本に、果たして同じ投資が必要でしょうか。過疎化が進行している地域、水を運ぶのにひときわコストがかかる高地などでは、既存の水インフラの運用費が財政や住民の生活費を圧迫し始めています。それを踏まえると老朽化した水インフラの更新は、人口の減少を見据え、コンパクトな設計での分散型水インフラという新たな選択肢が存在してもよいのではないでしょうか。

 WOTAの技術を中核に据え、ソフトバンクが全国に展開している有線・無線ネットワークを活用したインフラ管理の仕組み、ネットワークや基地局の管理などで蓄積してきたインフラ運用のノウハウなどを組み合わせた水インフラは、その解決策になると確信しています。

新しい課題解決モデルが日本経済を支える力になる

──今後の展望をお聞かせください。

河本 課題先進国と表現されるように、日本は世界に先駆けて多くの課題に直面することになりました。誰も経験したことのない課題と向き合うため、解決への道筋は厳しいものとなるでしょう。しかし、見方を変えれば、好機ともいえます。現在、日本の高度な鉄道インフラが世界中に輸出されているように、日本に続いて人口減少などの課題に取り組む他国に向けて、あるいは、これから様々なインフラ整備が必要となる新興国に向けて、より効率的な新しい水インフラモデルを提案することができれば、その国の大きな力となり、これからの日本の経済を支える大きな産業の1つになれるはずです。ソフトバンクとWOTAの力で、それを実現していきたいですね。