日経ビジネス電子版Special

今こそ宇宙ビジネスに飛び込むチャンス 宇宙開発・技術活用最前線 今こそ宇宙ビジネスに飛び込むチャンス 宇宙開発・技術活用最前線

【特別インタビュー】 日本航空宇宙学会宇宙ビジネス共創委員会委員長 神武直彦氏が語る「宇宙技術で広がるビジネスチャンス」 【特別インタビュー】 日本航空宇宙学会宇宙ビジネス共創委員会委員長 神武直彦氏が語る「宇宙技術で広がるビジネスチャンス」

宇宙に関連する技術を活用したビジネスでの競争が、世界中で加速している。
宇宙技術のコモディティ化が進み、裾野が大きく広がったのだ。
宇宙とは一見関係のないように思える分野でも、アイデア次第で大きなユーザーベネフィットを生み出せる。
まだまだ伸びしろを残す日本は、「宇宙時代」の到来にあたって何をすべきか。
宇宙が身近になっていくこれからにおいて、新しい発想から広がる「宇宙の使い方」を展望する。

新しい「宇宙」の使い方を。挑戦と創造 三井物産

今こそ宇宙技術でチャンスをつかめ 人工衛星活用で広がるビジネス

現在、人工衛星が取得したデータのビジネス活用への取り組みについて、世界中で注目が集まっている。10年前と比べ、宇宙技術のコモディティ化が進み、宇宙とは一見関係のないように思える領域にまで、活用の幅が広がってきた。「宇宙技術でもたらされているビジネスチャンスを生かさない手はない」。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授で日本航空宇宙学会宇宙ビジネス共創委員会委員長を務める神武直彦氏は力説する。宇宙ビジネスはこれからどこへ向かっていくのか、これから宇宙技術を活用しようと考える企業の心構えを神武氏に聞いた。

2030年には市場規模70兆円超
拡大を続ける宇宙ビジネス

 今、位置情報ビジネスを取り巻く環境は10年前に比べると劇的に変わり、各社のほぼ全てのスマートフォンには全地球測位システム(GPS)が搭載され、世界中どこででも位置情報を瞬時に取得し、ルート検索や混雑状況などを把握できるようになってきている。実生活への宇宙技術の活用は見えないところで浸透している。

 人工衛星製造や衛星データを活用した宇宙関連の市場規模は40兆円を超え、2030年には70兆円超となると予想されている。そのうち現在の日本の規模は約1兆円で、世界的なビジネスチャンスの波に乗り遅れているのが現状だが、伸びしろがあるともいえる。

 昨今の宇宙ビジネスの業界マップとしては、ロケット、人工衛星、探査機などを製造する事業と人工衛星による位置測位、通信放送、地球観測を利用する事業に大別される。

 現在、ロケットを製造する企業は大企業やベンチャー企業を含めても、数10社程度にとどまるが、一方、この10年で人工衛星を作る企業や団体は世界的に増加し、小型の人工衛星は世界各国の大学などでも作られるようになっている。

神武 直彦 氏

神武 直彦
(こうたけ なおひこ)氏

1998年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、宇宙開発事業団開発員、宇宙航空研究開発機構主任開発員、欧州宇宙機関研究員を経て、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。日本航空宇宙学会宇宙ビジネス共創委員会委員長。国内外の宇宙政策に関する各種委員。博士(政策・メディア)。

世界の宇宙関連企業の国籍別売上
最大の市場を有する米国企業が上位を占め、続いて欧州企業が並ぶ。

宇宙技術が畜産や金融にも
多岐にわたるビジネスアイデア

 社会インフラとして利用されている人工衛星は、1) 気象衛星「ひまわり」に代表される観測衛星、2) GPSや準天頂衛星「みちびき」などの測位衛星、3) 通信・放送衛星の3つに分けられる。「これらの人工衛星と地上のIoT機器を相互に連携すれば、アイデア次第で様々なビジネスに応用できる」と神武氏は語る。

 神武氏が取り組んでいる実際のビジネスアイデアの例を見てみよう。例えば、畜産業では生産システムについて、SDGsの観点また家畜に対するアニマルウェルフェアの観点からも放牧が注目されており、鹿児島県では、観測衛星で放牧地の植生の様子を把握、牛にGPSセンサーや身体センサーを装着し運動量や体調を可視化することで、放牧地と放牧牛を効果的に管理する取り組みが行われている。牛による草の食べ具合を観測衛星からデータ取得し、放牧地の草の減り具合と成長をAIでパターン化。牛を放牧する放牧地のローテーションを組むことができる。

放牧牛のコンディションマネジメント 放牧牛のコンディションマネジメント
従来、牛舎に閉じ込めていた牛を放牧しながらも、コンディション管理を可能にしている。耕作放棄地の草を牛が食べるなど利点も多い。

 また、インドやカンボジアでは、農業従事者に金融サービスを提供するための信用評価算出システムとして宇宙技術が活用されている。銀行口座などを持っていなかったり、何年かに一度の不作や自然災害によって収入がなくなってしまったりと、金融機関側が農業従事者の収入や返済能力を把握できていない実情がある。そのため、融資ができないケースがあった。そこで衛星データなどを利用し、畑の耕作面積や生育状況、自然災害の有無やその規模などをモニタリングすることで、収穫高などの予想から返済能力を算出しようという取り組みが行われている。

 10年前では米国の人工衛星の利用が多かったが、最近では日本や欧州の人工衛星の数も増えて収集するデータの量と精度が上がった。また、経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用環境整備・データ利用促進事業」の一環で2019年から提供されている衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」などを利用すれば、誰でも簡単に人工衛星のデータを利用、分析できる。「宇宙技術が遠い存在ではなく、誰でもビジネスに応用できること知ってほしい」と神武氏は語る。

超小型人工衛星「キューブサット」
東京大学中須賀船瀬研究室が開発した、世界初の1kgの超小型人工衛星「キューブサット」。同研究室では、超小型衛星の実利用に向けた技術開発など、革新的な宇宙システムの研究開発を目指している。

コモディティ化が進む宇宙技術
人材育成がビジネス創出のカギに

 日本における宇宙ビジネスの課題はどこにあるのか。まず、新興企業が育ちづらい点が挙げられる。「政府主導で民間の中小企業などへの支援が行われているが、継続的とは言いにくい。来年再来年のリターンが主眼になってしまい、5、10年後のイノベーションを起こしたり、人材を育てたりする視点を持ちづらくなっている」(神武氏)

 また神武氏は「これから宇宙ビジネスを発展させていくためには、人工衛星のデータを有効活用し、ニーズとシーズをつなぎ合わせられるようなデータやシステムデザインの専門家を育てることが重要」とも指摘する。宇宙関連企業ではこういった物事を俯瞰的かつ緻密に捉えることのできる人材の需要があるものの、その育成が十分ではないという。このようなことから、宇宙技術のトレンドやビジネスチャンスへの参入が遅れ、日本企業の機会損失につながる恐れがある。

コロナ禍も追い風にして
宇宙技術の浸透を

神武 直彦 氏

「衛星の強みを生かすには、日本だけでビジネスを完結せず、広い領域で発想していくことが望ましいです。グローバルでコラボレーションに取り組むなど挑戦し、価値を生み出してほしいですね。宇宙ビジネスに関するプレーヤーが増えていくことに期待しています」

 昨今話題に上る人工衛星のライドシェアビジネスはユーザーとサプライヤーをつなぐという点で、次世代の宇宙ビジネスの在り方として理想的だ。人工衛星とそれを使いたい人をつなぎ合わせれば新たなチャンスへとつながる。

 また、コロナ禍でのジョブ型雇用導入の動きが追い風になるのではと神武氏は見ている。「専門分野での採用やジョブマッチングという文化が根付けば、宇宙ビジネスに関する企業を複数掛け持ちしたり、ある企業での特定の開発にめどがついたら、別の企業に移ったりといった人材の流動性が増し、市場へ技術の供給や循環ができる」(神武氏)。宇宙技術の知見が市場に浸透すれば、衛星データを活用するという選択肢も生まれやすくなる。神武氏は「ビジネスとして価値を創造するために、宇宙技術を一つの強力なツールとして考えてほしい。『習うより慣れろ』の精神で自社ビジネスに活用すれば可能性は無限大になる」と力を込めた。

ページトップへ