日経ビジネス電子版 SPECIAL
佐々木一郎氏 佐藤豊氏
SPECIAL INTERVIEW
佐々木一郎氏×佐藤豊氏

ブラザー工業が挑む
Tableauによるデータ活用術
“ご利益”を示して広げることが
データカルチャーを
醸成するカギ

5Gの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)が本格化する今、これまで以上にビジネスにおけるデータの重要性が高まっている。その重要性を理解し、データの全社的な活用により、目まぐるしく変化する市場と向き合うのがブラザー工業だ。いかにして社内にデータカルチャーを浸透させ、活用を実現したのか。代表取締役社長である佐々木一郎氏に、Tableau Softwareの佐藤豊氏が迫った。

もともと集めていた大量のデータを
溜めるだけでなく活用できる仕組みに

データを活用して変革を起こす。長年、多くのグローバル企業が考えていることです。しかし、規模に応じた分析を達成できている企業はわずか8%(MCKINSEY ANALYTICSによる調査<英語>)。9割以上の企業は、必要性を感じつつ実行できていません。一方、成功している企業はリーダーが率先してデータスキルを身に付け、データ分析によりファクト(事実)に基づく改革を実践。それが、組織内の誰もがデータを活用し、データに基づく意思決定ができる「データカルチャー」の醸成にもつながっています。ブラザー工業様は、まさに佐々木社長自らがデータ活用を率先され、データカルチャーが浸透している企業だと感じます。

ありがとうございます。弊社の源流は1908年に始まったミシンの修理業。そこで培った技術や開発力を生かし、様々な事業展開を行ってきました。現在は、プリンターや複合機などを扱うプリンティング・アンド・ソリューションズ事業を主力にしていますが、今後はペーパーレスの時流を踏まえて、また新しいビジネスを創出する必要があります。だからといって、既存の事業で手を抜くわけにはいきません。そのためには、従業員の努力を効率よくお客様の価値に結びつける必要があります。そこで欠かせないのが、データの活用です。

私は、ビジネスへのデータ活用を山火事に例えることがあります。山火事の消火で重要なのは火元を確かめてピンポイントで狙うこと。そうでなければ、広い山全体に放水しなくてはいけない。これは効率的ではありません。とくに、水の量に限りがあるときには、火元を正しく確定する必要があります。これは、ビジネスにも通じます。データを活用して、どこを改善すればお客様へ提供できる価値が上がるのかを分析し、本当に効果があるところを見極めて、リソース、つまり従業員の努力を投入していく。その努力でお客様へ提供できる価値が正しく上がっていくわけです。

佐々木一郎氏
佐々木一郎
ブラザー工業株式会社
代表取締役社長

1983年ブラザー工業入社。インフォメーション・アンド・ドキュメント カンパニーで商品企画部長、CS推進部長、QM推進部長を歴任後、ブラザーU.K.社長。2016年代表取締役常務執行役員、2017年代表取締役専務執行役員を経て、2018年から現職。

AIやデータ分析は、あくまで手段として捉えるべきですが、目的化してしまうケースも散見されます。貴社では、お客様のために「データ分析は結果を出す重要なツール」という位置づけを守られているのが素晴らしいと思います。佐々木社長がデータの重要性に着目したのは、いつごろになりますか。

20年近く前です。当時私は、顧客満足度向上を目的としたCS推進部の部長だったのですが、そこでコールセンターに寄せられたお客様の意見をデータとして分析して、問題点を洗い出しました。全社レベルでは、当時から製造部門もデータ収集を行っていましたね。しかし、サンプリング方式で任意に抽出した製品を分析していたため、これでは抽出した製品に不具合がなければ、問題として認識されないという欠点もありました。

今はテクノロジーの進化やデジタル化もあり、いろいろなことができるようになりました。20年前と比べてどのように変わりましたか。

今はIoTの発展によって、製造ラインに設置した検査装置から膨大なデータを集めることができます。最初に取り組んだのは、製造ラインで集めたデータと市場に出荷した製品の故障・不具合データを結びつける方法でした。しかし、集まるデータが膨大すぎて、今度はデータ分析がうまくできない。データは溜まる一方です。そこで使い始めたのが「Tableau」です。

Tableauを使い、製造ラインでキーパーツを作るときに得られるデータを出荷前の完成品の品質データに結びつけるということもしています。完成品の品質に相関のあるデータを見つけて分析したことで、キーパーツの製造ラインにとって、本当に重要なことが分かるようになりました。

以前は、すべての製造ラインを巡回して、経験則や限られたデータから予測して改善を実行していましたので、正直、品質に直結しない製造ラインの改善を行うといった無駄もありました。しかし、今はデータ分析により改善が必要な製造ラインに注力できる。10~15年かけた改善よりも、Tableau導入後の1~2年での改善のほうが、より大きな効果を上げていると思います。Tableauを利用したビッグデータ分析の効果を全社に知らせたところ、多くの部署から反響があり、一気に広まっていきました。成功事例を全社でシェアすることが重要だと思います。

ありがとうございます。貴社でのデータ活用の結果について、さらに教えていただけますでしょうか。

Tableauは人材の効果的な配置にも役立っています。例えば、欧州各国にはミシンの販売会社があるのですが、これまでは各国のマネージャーがそれぞれのセールス部門を管理していました。今は、マネージャーの数を絞ってドイツだけに配置し、各国のセールス部門を一元管理しています。そこで大事なのは、限られたマネージャーの数でも各国のセールス担当者のパフォーマンスや働き方をしっかりと把握すること。粗利をはじめとして、さまざまな数字をTableauで見える化し、マネジメント対応が必要なお客様や優秀なセールス担当者を抽出。お客様へ迅速に対応できるほか、従業員の公平な評価や人材育成にも役立っています。

複数の日次データを1つのダッシュボードで可視化
複数の日次データを1つのダッシュボードで可視化
ブラザー工業では、Tableauを使って売上実績を可視化し、経営層の意思決定にそのデータが活用されている。Tableauは、上の画面のように1つのダッシュボード上で、複数のデータ分析結果をビジュアル化。ダッシュボード上でグラフ内に表示させたい項目も簡単に変更可能で、直感的な操作ができる
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