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異能の専門家集団が明かす
健康と経営の意外な関係

東京海上ディーアール(TdR)ヘルスケア・人的資本マネジメント事業部のアナリティクス・アンド・ソリューション(A&S)チームは、従業員の健康維持・促進を重視する、いわゆる「健康経営」を目指す企業や健康保険組合を支援する部署である。健康関連データの分析から打ち手の提案まで幅広いサービスを手掛ける。医療費やストレスなどのデータにとどまらず、全社の業務プロセスや独自のアンケート結果まで考慮したユニークな分析・提案まで踏み込むのが、他にあまり例を見ない特徴なのだという。それを可能にするのが、他に類を見ない異色の人材をそろえたチームだ。

 意表を突く経歴である。前職は東京オリンピックに向けたドーピング検査技術を開発する研究者。大学では電気自動車向けの触媒に取り組み、大学院では環境工学の研究室で光化学スモッグを扱った。就職してから、白血病につながる疾患の検査技術なども手掛けた。その彼が今では、企業の健康経営をデータの面からサポートするチームのリーダーだ。

一見、とりとめなく感じる岸川佳史氏の経歴は、その実、太い芯に貫かれている。実験や調査を基に、新たな知見を生み出す自然科学の方法論。そこから導き出される成果を世の中の役に立てたいという強い熱意だ。

同氏が率いるTdRのA&Sチームには、リーダーに負けない異色の顔ぶれがそろう。プロ野球球団のコンディショニングコーチだった人物、理学療法士の資格を持つ者などなど。全員が中途採用であり、様々な分野で培った専門知識を有する。その上、データの扱いについては一流の経験と能力の持ち主ばかりだ。

そんな異能の面々から飛び出すアイデアは、類似のサービスとは一線を画している。普通は「メタボや高ストレスの社員の割合」や「健康施策の効果」といったデータの可視化や測定にとどまるところが、TdRのA&Sチームの分析はずっとその先まで進む。

実際、岸川氏の言葉からは、これまでの健康管理の常識を軽々と超える発想がのぞく。「今考えているのは、健康経営と企業の業務プロセスの連携です。業務プロセスを詳しく把握できれば、『どこの業務が遅れると、どの部署にストレスがかかる』といったことが分かる。そうした予測を基に、状況が悪化する前に先手を打てるようにしたい」

可視化+αで差をつける

チームがこれほどの提案をするに至った裏には、これまでの部署の歩みがある。

もともとは、兄弟会社の東京海上日動火災保険が、顧客企業との新たな接点の創出を狙って立ち上げた組織だった。転機が訪れたのは2017年。厚生労働省が翌2018年度に始める「第2期データヘルス計画」で、標準フォーマットに沿ったデータの可視化を、全国の健康保険組合(健保)に求めることが決まった。この結果、データの扱いに不慣れな健保を支援する需要が一気に盛り上がった。

ただし、新規参入組のTdRには大きなハードルがあった。こうしたサービスは、健保に情報システムを納入しているIT企業が、タダ同然で提供できたことだ。赤字覚悟でその競争に加わったTdRは、コンサルティングまで提供することで差異化を図る。ここから、他社の先を行く分析・提案を心がける姿勢が生まれたらしい。

岸川佳史 氏

東京海上ディーアール ヘルスケア・人的資本マネジメント事業部 主席研究員 岸川佳史 氏

顧客の熱量との相乗効果

TdRのユニークな提案は、顧客の積極的な姿勢があってこそ生きると岸川氏は指摘する。

その好例が、東京に本社を置く、あるIT企業の取り組みだろう。この企業は、在宅勤務には人によって向き不向きがあるとの仮説の下、在宅勤務の割合を社員が選べる制度を検討していた。その後実施したアンケートの結果をTdRで分析したところ、仮説が本当らしいと判明する。在宅勤務によるストレスの増加に大きな個人差があった。この結果を受けて、自信を持って新制度の採用を提案できた。

この事例の成功要因は3つある。まず、顧客に具体的な仮説があったこと。「データがあるから、何か見つけてほしい」といったありがちなケースと比べて、はるかに速く分析を進められた。次に、人事担当役員が関与したこと。素早く意思決定ができたことから、短期間で実施にこぎ着けた。

最後に、強力なけん引役がいたことである。経営企画室に在籍する1人の社員だ。経済産業省のワーキンググループの委員を務めるなど健康経営の実践で知られた人物で、その社員が組織全体を巻き込んで活動を推進したことが大きかった。

「熱量がめちゃくちゃ高いんです。健康経営に関するメッセージを伝える動画を制作して全拠点に送るといった活動までしていましたから」(岸川氏)

サービスと対象者をつなぐハブへ

 岸川氏のチームの前進は止まらない。いま新たに力を入れている領域の1つは、個人レベルのデータ解析。そこまでできれば「社員の平均労働時間は減ったが、実はそれは特定の優秀な個人に負荷が集中した結果だった」といった事態は避けられる。今後、個人の了承を得る手段などを工夫して、こうした個人レベルのデータを利用したきめ細かいサービスを順次実行に移す計画だ。

さらに進んで、心拍数や呼吸数といったバイタルデータやパルスサーベイの結果などを個人から取得・活用できるようになれば、さらに深い分析や施策の提案が可能になる。その際に厄介なのは、計測装置の違いや、サーベイの方法の違いから結果がバラつき、集計が難しくなることである。

岸川氏は、これを回避する手段を模索している。

「例えば特定のウエアラブル端末の提供者やサーベイ業者と組んで無償で端末やサービスを提供してもらえれば、同じ条件で取得した情報が集められます。端末やサービスを提供する側も、新機能や新サービスを検証する格好の実験場が得られる」

このサービスを通して、TdR自身は健康経営に役立つデータを収集する。こうして蓄積したデータに匿名化などの処理を施せば、外部へのデータ提供をビジネスとして展開することも可能になるだろう。

岸川氏はその先の展開も見据える。

「こうした活動が進めば、サービス提供者と、多数顧客で形成されるフィールドの利用者をマッチングする役割をTdRが担えるかもしれない。例えば『タバコをやめられない人』といった少数事例を複数顧客から集めれば、アプリ開発に利用できるんじゃないかと」

さすがの発想力である。岸川氏を筆頭とする「異能チームの活躍」にはまだまだ終わりが見えない。

撮影:栗原克己

東京デジタル