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コンサルタントが夢想する
コンサルタント不要の社会

人間顔負けの対話が可能な「ChatGPT」をはじめ、自然な文章や画像を自由自在に作り出せる人工知能(AI)、いわゆる生成AIの成長が止まらない。これまでの進歩を延長すれば、10年もしないうちに専門のコンサルタントの能力の大半を身につけてしまいそうだ。こうした未来を予見し、自らAIを活用しながらコンサルタントの将来像を模索する1人が、東京海上ディーアール(TdR)サステナビリティユニットに所属する身崎成紀氏である。生成AIの応用サービスの開発に手弁当でいそしむ一方、日々接する顧客と対話の中から、AIと人間のコンサルタントが協業する最適解を探り続ける。

「強固な企業文化を築く上で最も重要な要素は、従業員の心を掌握し……」。故人となった、あの希代の名経営者が、画面の中でおもむろに動き出し、一同に語りかけてくる。「リモートワークや在宅勤務がニューノーマルになった昨今、強固な企業文化を築くために最も重要な要素は何ですか」という問いかけへの回答である。声にやや硬さは残るが、わずか数日でこしらえたデモとしては十分な出来栄えだ。

身崎成紀氏がちょっとした遊び心で作ったChatGPTの応用システムは、進化した生成AIが導く未来の経営の姿を予感させる。

ひょっとしたら、コンピューター上の自動対話システム(チャットボット)に姿を変えた松下幸之助氏やスティーブ・ジョブズ氏といった歴史に名を刻む経営者が、社外取締役を務めるようになるかもしれない。

身崎氏自身の業務も例外ではない。環境対策やESG(Environment, Social,Governance)を専門とするコンサルタントとして活躍する同氏にとって、ChatGPTは欠かせない存在になりつつある。「例えば、これまで若手社員にお願いしていた基礎的な調査や分析業務に活用しています。1日かかった作業が2時間くらいで終わってしまう」(身崎氏)。

AI応用サービスを次々に開発

その先に待つのは、コンサルタント自身をAIに置き換える将来だろうか。「専門分野それぞれについて、チャットボットを作り込むことは可能でしょうね。既に『二酸化炭素の排出量の算定について聞きたかったらこのボットを使う』という感じで、ChatGPTの中に私の部下がたくさんいるような状況になっています。ただ、いままでのコンサルタントがほぼ要らなくなるとしても、優れたコンサルタントのボットを作る仕事が必要です。いずれ、我々は『コンサルタントビルダー』になるのかもしれません」と身崎氏は笑う。

自分の仕事を奪いかねない時代をにらんで、身崎氏は全力でアクセルを踏んでいる。もちろん、AIに今後どこまでの業務を任せられるかは現時点では不透明だ。それでも、指をくわえて見ていても状況が変わることはない。他社が仕掛けてくる前に自ら攻める。自分自身で手を動かしてAIの実力を測りつつ、これからの身の処し方を見極めるしかないのだ。

同氏はここ数年、AIを応用したサービスを自ら開発してきた。既に実用になった例もある。企業のESG情報の開示状況をAIが自動的に診断するサービスで、生成AIの一歩手前の技術を使って作り上げた。

ユーザーが統合報告書やウェブサイトのテキスト情報を抽出し、診断システムに入力すると、AIが内容を一文ずつチェック。「国際的なガイドラインへの対応」「人権に関する方針」といった、投資家が目を光らせる細かい項目ごとに文章の良しあしを採点してくれる。さらに参考例として、同業他社の優れた開示事例を提示することも可能だ。

このサービスも、元々は身崎氏自身のコンサルティングの業務を効率化するために作ったものだった。出来上がってみると、AIが出力した結果に専門家が肉付けすれば、より深いコンサルティングへ顧客を誘導するツールとしても使えることに気づく。試しに顧客に提供すると反響は大きかった。

他にもAIを利用した付加価値提供をもくろんでいる。例えば、ESG情報開示に未着手の企業をターゲットにしたサービスである。生成AIに企業の名称やホームページのURLを入力するだけで、その会社のサステナビリティ経営の骨子を瞬時に作成してくれるというもの。

指示を受けたAIが対象企業のウェブサイトを巡回して情報を集め、そしゃくし、内容を吟味する。そして、企業のサステナビリティ経営に関するトップメッセージや重要課題(マテリアリティ)などを一気に文章にまとめるのだ。しかも、理念や重視している社会課題など経営者の特徴も抽出して反映する。経営の持続可能性や持続的な成長戦略について、未開示の企業は多く、得てして手厚い情報開示にまで手が回っていない。今回のサービスを未来の優良顧客に提供すれば、良好な関係を早期に築きやすくなる。

初心者の手習いで

身崎氏の非凡さは、システム開発やAIとは全く関係ないキャリアを歩んできたことにある。理系出身でプログラミングの素養はあったものの、今回の開発につながる知識を専門的に学んだ経験は皆無だった。

開発した数々のサービスは、仕事の合間や休日に独学でコツコツと学んだ成果だ。

きっかけは2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルスのパンデミックだった。休日に外出もままならない状況の中、ネット上の情報を基に遊び半分でAI技術を学び始め、実際に動作するAIの応用ソフトをプログラミングしてみた。事例をいくつも試すうちに次第に自信がつき、業務の効率化に使う方法を思い描くようになった。

TdRの社風も身崎氏を助けた。同社には、社員が与えられた役割を果たしている限り、通常の業務から外れた活動も容認する自由な雰囲気がある。身崎氏が、コンサルタントの仕事とは別に、生成AIを応用したサービスの発案から開発、顧客への提供まで一貫して携われるのもそのおかげだ。

幸運なことに、アイデアから実装まで1人で手掛ける開発スタイルは、最先端のAI技術をビジネスに応用する上で極めて有効である。恐るべきスピードで進化するAIの技術にキャッチアップし、移り気な顧客のニーズにタイミングよく適用するには、双方をよく知る人物が全てをこなすのが最も効率的だからだ。

自らの職責の果たすかたわら、AIの得手不得手も熟知する身崎氏は、今後のコンサルタントのあるべき姿を予感させる。人とAIの最良の部分を持ち寄り、人にもAIにも負けない最強のタッグを組める人材だ。

実はTdRには、AIの活用で身崎氏に負けず劣らずの社員が何人もいる。今後は同様な逸材を、さらに育てていくことが組織としての課題になる。そのために、最新技術や事例を共有する社内研究会を立ち上げるなど具体的な手立てを打ち出しながら、あらゆるビジネスにAIが浸透する将来に備えている。

撮影:栗原克己

東京デジタル