テレワークを前提とした企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が飛躍的に進んでいる。しかし、DXの切り札ともいえるRPAは、多くの企業が導入を済ませているにも関わらず、本格的に全社横断で活用を進め、効果を出している企業はごく一部にとどまっている。RPAを本格活用するために、企業は何から着手すべきなのだろうか?成功事例やDXの第一人者の解説から解を探る。

主催者講演

AGC - RPAで推進するAGCのDX

全社一体でRPAの活用を広げ
啓発や教育で現場を支援する

AGC
経営企画本部
DX推進部 マネージャー
寺内 量則 氏

AGCは新中期経営計画 AGC plus-2023 で、コア事業の深化と戦略事業の成長・探索を通じた「両利きの経営の追求」や「サステナビリティ経営の推進」と共に、「DXの加速による競争力の強化」を戦略の柱としている。DXへの取り組みは、まずコスト削減やリードタイムの短縮などプロセスの効率化・最適化を目指し、その後競争基盤の強化や顧客への付加価値提供へと進めている。そして、プロセス改革の強力なツールの1つとしてRPAの活用を掲げている。

AGCのDXの特徴は、「トップダウンと自律・自発型のハイブリッド推進体制」「製造業として必要性の高いモノづくり、開発領域からの着手」「業務知識とデジタルスキルを併せ持つ二刀流人財の育成」だ。AGCの寺内氏は、「トップダウンと自律型のハイブリッド体制のもと、全体を見る経営企画本部 DX推進部と利用部門である各事業部門とが連携しながら全社的・グローバルにDXを推進しています」と語る。

AGCのRPA導入は2017年に遡る。2018年に本格展開を始め、ニーズがありそうな部門に対してRPAを紹介する形で利用拡大を図った。しかし当初はなかなかRPAの利用が増えなかった。寺内氏は、「ベンダーによるセミナーも開催しましたが、利用部門でシナリオを作成するのは難易度が高く、思ったほど利用が増えませんでした。そこで、ベンダーから1人を専任のRPA構築担当者として配置し、シナリオ作成のサポートを担ってもらうことでシナリオ数を増加させました」と語る。ただし、専任者が作るのは難易度が高い業務のドラフト作成まで。基本的に実際のシナリオ作成は現場に任せた。利用部門が業務プロセスの変更などに応じて自分たちで自律的にメンテナンスができるようになることが狙いだった。こうした取り組みが奏功し、2019年には社内の展示会に出展してRPAをPRしたところ、導入希望部門が急増したという。

RPAの効果としては、2019年末までに会計システムへの伝票入力や購買管理システムでの検収管理業務など、年間4000時間の業務量を削減した。その後普及活動の効果もあり、2020年末までにはRPA本数が、購買が14本、製造が11本、販売・マーケティングが17本、出荷・物流が51本、会計・共通業務が143本にまで増加し、年間1万3000時間の業務量削減を実現した。

最後に寺内氏は今後の展望について、「今後はさらなるRPAの利用拡大に向けて啓発活動や講習会を継続しつつ、利用者教育の充実を図っていきます。社内ユーザー会も立ち上げ、利用部門間の情報共有も進める予定です。また、グローバルでも情報共有を進めグループ全体で活用レベルを高めていきたいと思っています」と語った。

主催者講演

東京海上日動火災保険 - RPAを活用したDX実現 ~人とデジタルのベストミックス~

非定型業務にもRPAを活用
ROI向上のカギは、現場の行動把握

東京海上日動火災保険
損害サービス業務部(戦略推進チーム)
次長(チームリーダー)
小林 秀憲 氏

東京海上日動火災保険では、3~4年前から保険金支払い業務や顧客接点のデジタル化を進め、基幹システムの改修やツール類の開発、AIの活用などを行い、損害サービス全体の価値を高めてきた。短期的にすぐにデジタル化しなければならない定型業務に対してはRPAを導入し、丁寧に1カ月かけて現状把握を行い、現場を巻き込んでヒアリングをしながら実行計画を策定した結果、高いROIを得られたという。

これまでの各種ツール作成やシステム開発によって、一定の自動化・効率化を実現できていたが、「2020年の緊急事態宣言で出社率を抑えざるを得ない中で、何かできることはないかと考え、非定型業務に対してもRPAを活用するようになりました」と同社の小林氏は説明する。

一部は基幹システムの改修で自動化を行い、専門性が高く人間が行うべきものだと考えられていた業務にRPAを適用した。例えば、これまで査定業務は基本的に人間が行うものであると考えられていた。しかし、査定を出すまでの様々な工程を機械判定可能な工程と、人間が確認する工程に振り分け、後者を絞り込むことで、査定時間を1/5にすることに成功した。また、2021年に発生した福島県沖地震はコロナ禍の中での震災で、現場への立ち会いなど被災者と直接会うような業務が困難だったが、短期間でRPAを導入・活用し、改善を実施することができたという。

RPAの活用で成果を出すためには、「RPAは、システム開発よりも現場の起用度が高く、実際の業務をつぶさに診断する必要があります」と小林氏は語る。そのため、インタビューだけでなく、実際の行動を観察・観測して、課題をしっかりと把握することが重要だ。現場は、最初から主体的に取り組んでくれるとは限らないが、成功体験を積むことで自ら課題を発掘して解決を試みるようになる。

他に重要なポイントとしては、実装後にフォローアップを行い、業務観測と効果観測をフラットに評価することや、システムを開発するときにはメンテナンスを継続的に行うことだという。さらに小林氏は、同一業務や類似業務への横展開もわずかなカスタマイズで効果を出すことができると説明した。

「DXには、AIやRPAなどの様々なアプローチがありますが、得手不得手や注意点が異なるので、それらを理解してバランスよく導入していくことが重要だと取り組みの中で学びました。特に、RPAについては、現場と一緒に利用を進めることの難しさと楽しさがあると知ったことが私の財産になっています」と小林氏は締めくくった。

主催者講演

日本通運 - ~100万時間削減へ取り組む~ 日本通運のRPA推進のコツ

RPA活用で70万時間の業務を削減!
日本通運の戦略を大公開

日本通運
IT推進部・課長
井上 恵太 氏

貨物運送業を中心に、年間約2兆円(2020年3月期)を売り上げる日本通運。従業員の過半数は事務系社員だ。IT中期経営計画に基づき、RPAを活用して2021年3月までに70万時間の業務を削減した。現在は2021年12月までに100万時間の削減を目指し、さらにRPAの導入を実施している。

同社のRPAの特徴は、開発対象を「集約型ロボット」と「横展開型ロボット」の2つに絞っていることだ。

集約型ロボットは、複数の支店を束ねる代表店のみに導入する。これにより、傘下の支店にある同じ業務を代表店が吸い上げて一気に自動処理することができる。

横展開型ロボットでは、まず全国に散らばる支店や部門で共通に行っている業務を洗い出し、パイロット店を1つ決めて、そこにRPAを導入する。そこで開発、完成させたロボットを他店舗へ横展開し、全体の業務効率を高めていく。

集約型ロボットの対象となる案件の選定条件は、1カ所あたり32時間/月以上の削減効果が見込める業務であること。横展開型ロボットの対象案件は、合計200時間/年以上の総削減時間が見込めることだ。こうして全社から集めた案件を、標準化しやすく効果の大きいものから優先的に開発している。

日本通運の井上氏は同社の取り組みについて次のように語った。「RPAを『ツール』と捉えるか『システム』と捉えるかが重要です。当社はこれをシステムと捉え、安定的に動かすことを最優先に開発を進めています。野良ロボットの発生を防ぐため、現場にはロボット端末を置かず、仮想環境にRPAサーバーを置き、スケジュールで実行しています」。

現在、約30台の仮想クライアントで約950のシナリオを動かしている。空いているクライアントに順次ジョブを投入する方法で、購入ライセンス数を最小に保ちながら最大の効果を狙う。

安定した開発基盤に必要な要素は3つある。1つ目は、同じ開発ルールの徹底だ。全開発者が同じルールで開発することで、運用後の修正や保守を楽にする。2つ目は、インフラの標準化だ。同社では30台の仮想クライアント環境を統一し、どのマシンで実行しても全く同じ結果になるようにしている。3つ目は、開発の生産性と保守性を高めるための部品化だ。最初は開発に2カ月かかっていたものが、部品が充実してくれば1~2週間で開発できるようになる。また、不具合が出た場合も、当該部品を直せば同じ部品を使っているすべてのロボットを同時に直せる。

また、ただ案件選定基準を設けたり、開発基盤を整えたりするだけでは不十分で、従業員にRPAを正しく理解してもらうための教育が重要である。そこで同社はRPAのプロモーションサイトの立ち上げ、事務系社員に対してeラーニングを実施、さらに研修によって500人ほどのRPAマスターの養成も行った。

最後に井上氏は「今後も紙業務を削減する取り組みを継続しつつ、どうしても紙帳票が必要な業務においてはAI-OCRでのデータ化を行い、後続の入力作業をRPAで実施するなど、あらゆる業務の自動化を進めていきたいです」と展望を語り、講演をまとめた。

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