タクシーとともに歩むUber Japanの戦略とは?Uber×日の丸交通が拓くモビリティの未来予想図

Uber Japan株式会社 モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中志郎氏 × 日の丸交通株式会社 代表取締役社長 富田和孝氏 Uber Japan株式会社 モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中志郎氏 × 日の丸交通株式会社 代表取締役社長 富田和孝氏

2020年の7月から東京でも配車サービスをスタートさせた「Uber Taxi」。スタート時の対応エリアは港区、千代田区、中央区と限定的なものだったが、その流れを一気に変えたのが昨年12月に実現したUberと日の丸交通との業務提携だ。この提携により、東京でのUber Taxiのタクシーの台数は1,200台増え、東京23区全域をカバーすることも現実味を帯びてきた。交通モビリティ革命の先頭を走るイノベーターと、業界を代表する大手タクシー会社――。なぜ今、2社は手を組んだのか。この提携はタクシー業界にどんな変革をもたらすのか。期待し得る画期的な新サービスとは……。Uber Japanモビリティ事業ゼネラルマネージャーの山中志郎氏と日の丸交通 代表取締役社長の富田和孝氏が語り合った。

サービスの質や安全・安心への要求度が高い日本

―― Uberと日の丸交通は昨年12月に業務提携を結びました。提携の背景や狙いを教えてください。

山中氏 世界各国でライドシェアビジネスを手掛けるUberですが、日本ではライドシェアではなく、タクシー会社と提携してアプリ配車サービスを提供する戦略をとることにしました。なぜ日本ではライドシェアに舵を切らなかったのか? それは海外と違い、日本では従来からタクシー会社が極めて質の高いサービスを提供し、お客様から信頼を獲得しているためです。

日本の消費者はサービスの質や安全・安心に対する要求度が格段に高く、そしてそれに呼応してタクシー会社が世界最高水準のサービスを当たり前のこととして提供しています。こうした質の高いインフラとしてタクシーが機能している市場において、あえてライドシェアを導入する必要はないと考えています。

そこでUberは、各都市でタクシー・ハイヤー会社と提携し、既存のタクシーインフラを活用したアプリ配車サービスを推進してきました。その中で大手タクシー会社として初めて協業に手を挙げていただいたのが日の丸交通さんです。日本を代表する老舗タクシー会社さんという素晴らしいパートナーに恵まれ、昨年アプリ配車サービスを東京でも拡大することができました。

日本のタクシー利用の中でアプリ配車サービスが利用されている割合はまだ2〜3%と低いですが、急成長しつつある段階だと考えています。Uber Taxiはアプリ配車サービスとして後発ではありますが、チャンスは大きいと認識しています。Uber Japanは日本市場向けに文字を大きく表示するドライバー用アプリを開発するなど、本腰を入れて日本でのタクシー配車サービスの拡大に取り組んでいるところです。

Uber Japan株式会社 モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中志郎氏

Uber Japan株式会社
モビリティ事業
ゼネラルマネージャー

山中志郎

富田氏 ご存知の通り、新型コロナウイルス感染症の影響で外出が制限され、タクシー需要は大きく落ち込み、ドライバーの売上は3~4割減る状況に陥りました。ドライバーの給与は歩合制ですから、このままでは生計が成り立ちません。「なんとかしなくては」とあらゆる手段を視野に入れて検討を進めた結果が、Uberとの提携でした。

ただし、Uberと言えばライドシェアというイメージが、タクシー業界の中でまだまだ色濃くありました。当社の富田昌孝会長は2017年まで全国ハイヤー・タクシー連合会の会長としてライドシェアに反対してきた立場です。Uberとの提携には正直、ためらいがありました。実際、社内でも大激論になりました。

けれど、Uber Japanの方たちと接するうちに、そうした危惧や懸念は払拭されていきました。大きかったのは「日本でライドシェアビジネスはやらない」と明言していただいたこと。日本市場へのローカライズに向け、米本社と真剣に折衝する姿に本気度や覚悟も感じ取りました。最後には社内で異を唱える人たちを説得し、提携に踏み切ったのです。

日の丸交通株式会社 代表取締役社長 富田和孝氏

日の丸交通株式会社
代表取締役社長

富田和孝氏

タクシーの実車時間はわずか26%、効率の改善が課題

―― コロナ禍で売上が落ち込むタクシー業界ですが、そのほかどのような課題を抱えていますか。その課題をUberはどう解決できるでしょうか。

富田氏 大きな課題として人手不足があります。朝の時間帯や雨の日などは供給が不足することもあります。一方で、走行するタクシーの実車率(稼働時間中、実際に乗客を乗せて走っている割合)は極めて低いレベルにとどまります。距離で見ると全体の40%ほど。時間ではわずか26%(日の丸交通自社調べ)で、効率良い配車によってお客様のニーズを満たすことが不可欠となっています。

IT機器への投資などコストがかさむタクシー業界では、国土交通省によれば、既に平成25年度の段階で6割以上の会社が赤字経営に陥っています。人への投資が十分にできず、東京のタクシードライバーは他産業と比較して労働時間が15%長く、収入は30%低い。生産性向上によって、こうした状況を打開しなくては、タクシー業界の未来は拓けません。

山中氏 Uberのテクノロジーを活用すれば、効率的なマッチングによって生産性の高いタクシーの運行、配車が可能になります。従来、ドライバーは「流し」が中心で、どこにいるか分からないお客様を探すしかありませんでした。Uberを活用すれば、例えば大きな通りから外れた裏のビルにもお客様がいると分かります。また、Uberはタクシー会社に対して定期的に、データをまとめてエリア別、時間帯別の需要動向を地図上に示した「ヒートマップ」を提供しています。ドライバーは、どのエリアにどの時間帯に行けば多くのお客様がいるのか、一目で分かります。お客様の近くに複数のタクシーがある場合、タクシーの向きやルートなどを考慮した上で、最も早く到着できるタクシーに配車をかけます。Uberは世界70カ国で配車事業を展開しており、世界最高水準のアルゴリズムの正確性には自信を持っています。

富田氏 当社ではまず希望するドライバーにUberを導入したところ、ほかのドライバーに比べ、1日1万円以上売上が増える結果となりました。Uberは需要のあるところにタクシーを誘導するため需給バランスも良くなる。「Uberを使うと、必要としてくださっているお客様を確実に見つけられる」と、ドライバーの満足度は高いですね。今後、インバウンドが回復した時には、海外と同じプラットフォームのUber Taxiが一層活躍できるという期待もあります。

また、Uberのプラットフォームにはドライバーとお客様とが相互に5段階で評価し合う仕組みがあります 。日本では当初、評価されることをドライバーが嫌うのではないかと考えていたのですが、逆の結果になりました。日本のタクシードライバーはお客様から高い評価をいただき、信頼されることに誇りを持っています。目に見える評価は予想とは逆に励みになっています。当然、より一層のサービスレベルの向上が期待できます。

異業種との連携、サブスクなど新用途も開拓

―― 異業種連携や新たなビジネスチャンスの創出も想定していますか。

山中氏 それはUberが得意とするところです。アプリ配車サービスによってターゲティングが容易になるため、異業種と連携してフレキシブルにキャンペーンを打ち出す、といったことができるようになります。例えば、スーパーマーケットとタクシー会社がUberを介して連携すれば、移動手段がない高齢者を対象に、タクシー利用者の少ない昼間の時間帯にスーパーに行くと500円を割引する、といったきめ細かいマーケティングが可能となります。

また、GPSで常にタクシーの位置を追跡でき、乗車前にドライバーの評価もわかることから、家族でのご利用からビジネスシーンまで、安心・安全にご利用いただけます。

3月には日本航空と戦略的パートナーシップ契約を結び、空港から先の目的地までをシームレスにつなぐサービスの提供を決めました。他業種とコラボレーションしながら、市場を改革し、新たな用途を開拓していきたいと思います。

富田氏 Uberといえばイノベーターの代名詞ですから、画期的なサービスの創出を期待しています。例えばタクシーの需要が少ない日中に限り「月額3万円で100kmまで使い放題」のサブスクリプションサービスを提供するとか、タクシーを使う機会の少ない学生に相乗りサービスを提供するとか。スケジュールソフトと連動し、タクシーが必要な日時にプッシュ通知でお知らせを送るといったサービスも考えられます。

DXで変革を遂げるタクシー業界の発展に貢献

―― 今後の展望を教えてください。

富田氏 当社は昨年から羽田空港や成田空港から東京・丸の内まで、複数の乗り物でつなぐ「東京版MaaS」の実証実験に参画し、自動運転タクシーに挑戦しています。いずれは有人タクシー、無人タクシーをうまくコントロールし、需給バランスを見ながらサービスを展開していきたいと思います。

今はいろいろな取り組みを試す価値がある時代。それによって生産性が向上し、ドライバーの収入を増やすことができれば、希望の持てる業界になります。業界の活性化を目指し、その先行事例を作ることがわたしのモチベーションです。Uberと連携し、新たな取り組みにどんどん挑戦していくつもりです。

山中氏 日本のタクシー業界は今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、確実に変革していくはずです。天気や曜日など需要に応じて料金を変動させるダイナミックプライシングも導入されていくでしょう。ダイナミックプライシングに関して我々は世界で様々な知見を蓄積していますので、将来的にその強みも発揮できます。変革を遂げるタクシー会社と共に、お客様により利便性の高いサービスを提供し、業界の発展に貢献したいと思います。

Uber Japan 株式会社