企業理念を
「自分事」にすれば
挑戦できる組織になる

株式会社日阪製作所

代表取締役社長 社長執行役員
竹下 好和

日阪製作所は、熱交換器など特定の分野で高いシェアを誇る産業機械メーカーだ。同社は特化した事業の強さがあるがゆえに、社員が保守的な傾向を強めていた。不透明な時代に成長を続けるためには、挑戦し続ける社員、企業でなければいけない。そのために、改めて社員が「企業理念」を理解することで、挑戦できる組織構築を目指した。

商品力が強いメーカーが陥った
「守りのマインド」という罠

大阪・梅田に本社を構える日阪製作所は1942年創業の産業機械メーカーである。創業時から得意とするステンレス加工技術をベースにプレート式熱交換器やボールバルブ、食品・医薬品の滅殺菌装置、衣料品や産業資材の染色装置など、事業領域は多岐にわたる。産業の要所で必要となる機器の製造で、いずれも高いシェアを誇る。


2017年に社長に就任した竹下好和氏は、様々な社内改革を実行してきた。


「ニッチな分野ながら、各事業とも商品力が強く、高いシェアを頂いています。しかしながら、その強さが社員の考え方を保守的にし、新しいことにチャレンジしようという気持ちを弱くしていることに気づきました」


危機感を持った竹下氏は、社長就任時のスローガンに「変わろう、変えよう」を掲げる。これは社員に大きなインパクトを与えるも、実際に何を変えるのか、どこまで変えていいのかが分からないという声が聞かれた。


竹下氏は、どうすれば社員のマインドを変えることができるのか思案した。そこで、企業理念に立ち返り、改めて事業活動に生かしていくことが必要ではないかと思い至る。


同社には社訓である「誠心(まごころ)」を中心に社是や経営原則、技術・営業三原則など多くの理念が存在していた。しかし、その意味を正しく理解し、仕事に生かしている社員は少ないことが、アンケートで明らかになった。


「中途・キャリア採用や、M&Aによるグループ企業の増加により、企業理念の認識が薄れていると感じ、その理解と浸透を図る必要があると痛感しました」

30代女性社員がリードした
理念体系構築プロジェクト

「理念体系構築プロジェクト」がスタートしたのは20年11月。社内改革の一環で導入されていたUniposを利用した社内コミュニケーションの改善プロジェクトで作成された素案をブラッシュアップする形で進められた。


プロジェクトのリーダーは、自ら志願した経営企画部門の30代女性社員が務めた。社員の4分の1に当たる応募者166人から選ばれた14人のプロジェクトメンバーが1回4時間の会議を延べ11回実施した。


プロジェクトの使命は、社訓・社是・五原則・行動指針という理念体系の素案をどうすれば社員が自分のものとして活用できるのかを考え、形にすることだった。抽象的な言葉には説明を添え、場合によっては言い方を分かりやすく変える必要があった。


話し合うテーマは、簡単に答えが出る類いのものではない。そこで、一人ひとりの意見が出てくるまで、じっくり待つことも重視したという。


企業の根幹とも言える企業理念を再考する取り組みを、経営幹部でなく現場主導で進めることは、通常では考えられないだろう。しかし同社は、そのプロジェクトを成し遂げた。


「もちろん、プロジェクトの途中経過は都度、報告を受けており、改訂版の理念体系は最終的に経営会議で承認しています。しかし今回の改訂作業に、経営陣はほとんど介入していません。企業理念は社員のものですから。社員たちが自分事として真剣に議論したものであること自体が大きな価値です。実際、口を挟む必要がないぐらい、良いものができたと思います」と竹下氏は振り返る。


無事に完成した新しい企業理念体系「HISAKA MIND」は、同社のホームページから一般にも公開している。

社員の素晴らしい行動と
企業理念をひも付ける

理念体系構築プロジェクトは21年4月以降、「HISAKA MIND浸透プロジェクト」と名前を変え、新しい企業理念の全社員への定着、浸透に活動の軸足を移している。具体的には、社員自身のこれまでの判断・行動を企業理念と照らして振り返るワークショップの開催や、オンライン、オフラインの啓発活動を主導している。


また、経営陣のリーダーシップも、企業理念の浸透には欠かせない。理念に基づく経営判断の見える化が、社員にとっての「理念の当たり前」を後押しするというプロジェクトの見解を受け、竹下氏をはじめとする経営陣は、様々な発言の場で、理念に基づいた自身の判断事例を紹介することとしている。さらに、グローバルで展開するグループ企業への多言語での発信も行っている。


さらに、社内コミュニケーションツールとして定着したUnipos内でも「ハッシュタグ」を共通化し、「この仕事は企業理念的にここがいいね」という会話が交わされている。


「単独でも600人の社員がいて、事業も分かれているため、他の社員が何をしているのか分からない状況も生まれています。仕事は違っても、同じ理念の下で働いているということを、Uniposなどの仕組みを使って共有することで一体感が生まれます。私たち経営陣も、重要な判断をする際には企業理念に基づいた判断をしていくと宣言しており、それを社内で共有し、社外にも発信していくつもりです」


来年22年に創業80周年を迎える日阪製作所。企業理念の再認識により、もはや守りのマインドはない。その先の100周年に向けた、「HISAKA MIND」は整ったようだ。

社内コミュニケーションのインフラであるUniposでは、社員の行動をたたえ合うコメントに「#まずやってみる」のように「ハッシュタグ+企業理念のキーワード」を付ける取り組みを実施している。単にリアクションするだけでなく、企業理念と照らして行動の素晴らしい点を共有することで、社員間の一体感は高まっていく。

profile

1981年入社。主に染色事業に携わり、2014年に現在のプロセスエンジニアリング事業本部長に就任。創業100年(2042年)の同社の姿を描くプロジェクトも主催した。17年から現職。活力のある社員集団を実現することで、事業の発展を目指している。